【短編集】読む精神安定剤。理不尽な彼らが「3分」で地獄に落ちる、極上の「ざまぁ」詰め合わせ

葉山 乃愛

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「涼しい顔してサボるな」と追放されたが、俺は気温を800度下げていただけだ。解除したら1秒で蒸発するけど、サウナは好きか?

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「おい、レイン。お前、汗ひとつかいてねぇな」

灼熱の溶岩が流れるSランクダンジョン『焦熱の地獄釜』。
その深層へ向かう一本道で、勇者アグニが足を止めた。
彼は全身から滝のような汗を流し、息を切らしながら私を睨みつけている。

「……それが何か?」

「何か、じゃねぇよ! 俺たちはこの暑さで死にそうになりながら戦ってるんだ! なのにお前は、一人で涼しい顔して歩いてやがる! さては自分だけ『冷却魔法』を使ってやがるな!?」

アグニの怒鳴り声に、後ろを歩く魔法使いの女も同調して金切り声を上げた。

「信じられない! 仲間が苦しんでるのに、自分だけクーラー完備なんて最低よ! 私なんて、化粧が全部落ちちゃったじゃない!」

彼女はドロドロに溶けた顔を扇子で仰いでいる。

「……誤解だ。私は自分だけに魔法を使っているわけじゃない」

「嘘をつくな! なら俺たちがこんなに暑いわけがないだろ! お前みたいな協調性のない水魔法使いはいらねぇ! ここでクビだ! さっさと失せろ!」

アグニは私の胸を突き飛ばした。
私はよろけて、足元の岩場に手をつく。岩は熱いが、火傷するほどではない。

「アグニ。このダンジョンの環境温度を知っているか?」

「あ? 50度くらいだろ? 暑くてたまらねぇよ!」

「違う。ここは地下3000メートル、マグマの源流だ。本来の気温は『850度』ある」

「はぁ? 馬鹿かお前。800度もあったら人間なんて灰になってるだろ。頭まで暑さでやられたか?」

アグニは鼻で笑った。魔法使いも呆れたように首を振る。

「私が『広域熱遮断』と『絶対冷却結界』を常に最大出力で展開して、君たちの周囲だけ気温を800度下げていたんだ。君たちが感じている『50度の暑さ』は、私が処理しきれなかった余熱にすぎない」

「ハッタリはもういいって! お前がいなくなっても、俺の炎耐性があれば余裕だ! 目障りだから消えろ!」

「そうですか。では、お望み通り」

私は懐から『転移結晶』を取り出した。
もう、これ以上彼らの生命維持装置になるのは御免だ。

「結界を解除します。……ああ、言い忘れましたが、鉄の融点は何度か知ってますか? 君のその自慢の鎧、着てない方がマシかもしれませんよ」

「うるせぇ! 早くいなくなれ!」

「では、サウナを楽しんで」

私は指をパチンと鳴らした。
その瞬間、目に見えない氷の膜が弾け飛んだ。

ボォォォォォォッ!!

空気が爆ぜる音がした。
抑え込まれていた800度の熱波が、津波のように彼らに襲いかかる。

「あつっ!? え、な、なんだこれ!? 熱い! 熱い熱い熱い!!」

「きゃあああああっ!? 髪が! 服が燃えてるぅぅぅ!!」

一瞬で、魔法使いのローブが自然発火した。
彼女は火だるまになって転げ回るが、地面も灼熱のフライパン状態だ。

「ぐああああっ!? よ、鎧が! 溶け……肌に張り付いて……ぎゃあああああ!!」

アグニが絶叫する。
彼の全身を覆うミスリルの鎧が、高熱に耐えきれずに飴細工のように歪み、ドロドロに溶け始めたのだ。
灼熱の液体金属が、皮膚を焼き、肉を焦がしていく。

「レイ……ン……! 助け……氷……くれぇぇぇ!!」

アグニが炭化し始めた手を伸ばしてくる。
口から吐き出す息すらも炎に変わり、彼の肺を内側から焼いているようだ。

「無理だよ。800度の中じゃ、私の水魔法でも一瞬で蒸発してしまう。君の炎耐性で耐えてくれ」

私は転移結晶を起動した。

「いやぁぁぁ! 死ぬ! 蒸発するぅぅぅ!!」
「熱い! 痛い! 誰かぁぁぁ!!」

視界が白く染まる中、彼らの姿が陽炎のように揺らめき、そして崩れ落ちていくのが見えた。
転移した先は、雪の降る街に設定しておこう。
今の私には、キンキンに冷えたビールが何よりのご馳走だ。
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