【短編集】読む精神安定剤。理不尽な彼らが「3分」で地獄に落ちる、極上の「ざまぁ」詰め合わせ

葉山 乃愛

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「獣臭い」と追放されたが、貴方の愛竜は『人間捕食』の本能を私が抑えていただけだ。解除したら即座に頭から齧られるけど元気でな

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「おいノア、お前はここで降りろ」

雲海を突き抜けるような高山、その頂で休憩をしている最中だった。
『竜騎士』の称号を持つライルが、愛竜バハムートの背中を撫でながら冷たく告げた。

「……降りろって、ここは標高8000メートルだぞ? どうやって帰れと言うんだ」

「知るかよ。お前みたいな『魔獣使い』は、獣臭くてたまらないんだ。俺の崇高なバハムートまで臭くなりそうだ。これ以上、俺の栄光ある空の旅に泥を塗るな」

ライルは美しい白銀の鎧を指で弾き、汚いものを見る目で私を見た。
後ろに乗っている聖女カレンも、鼻をつまんで顔をしかめている。

「そうですね。ノアさんの服、いつも動物の毛だらけで不潔ですわ。ライル様の隣に相応しいのは、私のような清潔な聖女だけです」

私は自分の袖の匂いを嗅いだ。
確かに獣の匂いはする。だが、それはこの暴れん坊の竜を宥めるために、四六時中へばりついて世話をしていたからだ。

「ライル。君が乗っているその『天空竜』だが、本来は人間を乗せるような生物じゃない。気性が荒く、動くものは全て餌と認識する『Sランク捕食種』だ」

「はっ! 何を言うかと思えば。俺とバハムートの間には、種族を超えた『魂の絆』があるんだ! 見ろ、こんなに大人しいじゃないか」

ライルが竜の顎の下を撫でると、バハムートは気持ちよさそうに目を細めた。
……ように見えるだけだ。

「それは、私が『殺意抑制』と『服従フェロモン』のスキルを全力で発動しているからだ。君が『絆』だと思っているものは、私が無理やりねじ伏せた『洗脳』の結果に過ぎない」

「嘘をつくな! 俺のカリスマ性に嫉妬してるだけだろう? もういい、さっさと消えろ! 俺とカレンだけで魔王城へ行く!」

ライルが剣の柄に手をかけた。本気で私を斬り捨てるつもりらしい。
ここまで言っても理解しないとは。

「分かった。じゃあ、私は『帰還の羽』で帰らせてもらう。……ああ、最後に一つ」

私はアイテムボックスから羽根を取り出しながら、哀れみの目を向けた。

「私のフェロモン効果は、離れてから10秒で切れる。バハムートの好物は『人間の頭蓋骨』だ。兜、しっかり被っておいた方がいいぞ」

「負け惜しみは見苦しいぞ! 二度と俺の前に現れるな!」

「ええ、さようなら」

私は羽根を使用した。
体が光に包まれ、転移が始まる。
視界が消える直前、私は見た。

今まで猫のように大人しかったバハムートの瞳が、縦に裂け、鮮血のような赤色に染まる瞬間を。

『グルルルルァァァァッ!!』

「え……?」

バハムートが突然、首を180度回転させ、背中に乗っていたライルの方を向いた。
その口からは、大量のヨダレが垂れ落ちている。

「お、おいバハムート? どうした? 俺だぞ、ライルだぞ……?」

『ガアアアアアッ!!』

「ひぃっ!? 殺気!? なんでだ!? 俺たちは絆で……ギャアアアア!!」

バックスッ!!

嫌な音が響いた。
ライルの自慢の白銀の兜ごと、その頭部が巨大な顎にすっぽりと収まり、そして――。

「いやぁぁぁぁ! ライル様が! ライル様が食べられてるぅぅぅ!!」

聖女の絶叫が、雲海に響き渡る。
暴れ出した竜は、背中で泣き叫ぶ聖女を振り落とそうと、空中で回転を始めていた。

「ノア! ノアぁぁぁ! 戻って! 匂い嗅がせてぇぇぇ!!」

私の姿は完全に消え、その声が届くことはない。
標高8000メートルの空の上。
逃げ場のない空中レストランで、新鮮な餌たちのフルコースが始まろうとしていた。
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