29 / 30
「ただの薪割り」と追放されたが、俺が割っていたのは『魔王の魂』だ。手を止めた瞬間、封印が解けて世界が滅ぶが、素手で魔王を倒せるか?
しおりを挟む
「カイル、君は今日でクビだ。我が勇者パーティー『栄光の夜明け』に、薪割りしかできない男はいらない」
魔王城の目と鼻の先、最終決戦を明日に控えたキャンプ地で、勇者レオンが冷酷に告げた。
彼は聖剣を磨きながら、一度も俺と目を合わせようとはしない。
「……クビ? 明日はいよいよ魔王戦だぞ。俺がいなくて火はどうするんだ」
「ははっ、火だって? そんなもの、魔法使いのルシアが指先一つで出せるわ。お前が毎日毎日、重苦しい斧を振るって薪を割る音……正直、耳障りだったんだよ。戦いの前の静寂を汚す不快な音だ」
レオンの隣で、魔導師のルシアも馬鹿にしたように鼻で笑った。
「そうよ。カイルさんが割った薪で焼いた肉なんて、泥の味がするわ。私たちの高貴な魔力には、もっと清浄なエネルギーが必要なの。ただの力自慢の労働者は、田舎に帰って木こりでもしてなさい」
俺は地面に突き立てられた、使い古しの黒い斧を見つめた。
彼らは何も知らない。
この魔王領の木々が、普通の植物ではないことを。
「レオン。この森の木は、魔王が千年前から自身の『呪い』と『魂の破片』を流し込んで育てた、身代わりの依代だ。この木が立っている限り、魔王は不死身。俺は毎日、その『魂の器』を斧で叩き割り、物理的に魔王の生命力を削り続けていたんだぞ」
「……魂の器? ハッ、笑わせるな。ただの枯れ木を割っている自分を正当化したいだけだろ。お前が斧を振るうたびに魔王が弱る? そんなお伽話、三歳児でも信じないぞ」
「本当だ。俺が割った薪を火にくべることで、魔王の呪いを浄化の炎に変え、君たちの聖剣や杖に『魔王特攻』のバフを無意識に付与していた。俺が薪割りをやめれば、魔王は一瞬で全快し、君たちの攻撃は一傷も与えられなくなる」
レオンは苛立ちを露わにし、俺の斧を蹴り飛ばした。
「黙れ! 俺の聖剣の輝きは、俺自身の正義の力だ! お前の薄汚い斧のおかげなわけがないだろ! さっさと消えろ! これ以上喋ると、魔王より先に貴様を斬るぞ!」
「……分かった。じゃあ、俺は行くよ。斧は持っていく。薪は……そこに置いてあるのが最後だ。大切に使えよ。それが燃え尽きた時、君たちの『無敵時間』は終わる」
俺は蹴られた斧を拾い上げ、夜の闇に消えた。
背後からは、彼らの勝利を確信した高笑いが聞こえていた。
翌朝。
俺は魔王城から遠く離れた岩山の上から、戦いの様子を眺めていた。
「さあ、いくぞ! 魔王! 俺の聖剣で引導を渡してやる!」
レオンが光り輝く聖剣を振り上げ、魔王に斬りかかった。
昨日までなら、その一撃は魔王の肉体を容易に引き裂いたはずだった。
ガキィィィィィィンッ!!
「……あ?」
レオンの聖剣が、魔王の肌に触れた瞬間に砕け散った。
光り輝いていたはずの刃が、まるで錆びた鉄屑のようにボロボロと崩れ落ちていく。
「な、なんだ!? 聖剣が……折れた!? バカな、魔王は弱っていたはずだろ!?」
『グハハハハ……! 愉快、愉快だぞ、人間ども!』
魔王の傷が、見る見るうちに塞がっていく。
それどころか、昨日までとは比較にならないほどの漆黒の魔力が、城全体を覆い尽くした。
森の木々が震え、切り倒されなかった依代たちが、一斉に魔王へとエネルギーを逆流させている。
「ル、ルシア! 魔法を! 最強の爆炎魔法で焼き尽くせ!」
「わ、分かってるわよ! 喰らいなさい! ……えっ? 魔法が、出ない……? 杖が、燃えてるぅぅぅ!!」
ルシアが構えた杖が、逆流した呪いの魔力によって、彼女の手の中で爆発した。
薪による「浄化の結界」が消えたため、彼女たちの魔力は魔王の毒気に侵食され、自滅の道具へと成り下がったのだ。
「カイル! カイル、どこだ! 薪だ! あの不味い肉の薪を燃やせ! 浄化してくれぇぇ!!」
レオンが叫ぶが、キャンプの焚き火は、もうとっくに灰になっている。
最後の薪が燃え尽き、彼らの加護は完全に失われた。
「悪いなレオン。俺はもう、ただの『木こり』なんだ。君たちの命という薪を割るのは、俺じゃなくて魔王の仕事らしい」
魔王の巨大な鉤爪が、逃げ惑う勇者たちを捕らえるのが見えた。
俺は新しく手に入れた上質な砥石を取り出し、鼻歌を歌いながら斧を研ぎ始めた。
次は、もっと平和な森で、ただの暖炉のための薪を割って暮らすとしよう。
魔王城の目と鼻の先、最終決戦を明日に控えたキャンプ地で、勇者レオンが冷酷に告げた。
彼は聖剣を磨きながら、一度も俺と目を合わせようとはしない。
「……クビ? 明日はいよいよ魔王戦だぞ。俺がいなくて火はどうするんだ」
「ははっ、火だって? そんなもの、魔法使いのルシアが指先一つで出せるわ。お前が毎日毎日、重苦しい斧を振るって薪を割る音……正直、耳障りだったんだよ。戦いの前の静寂を汚す不快な音だ」
レオンの隣で、魔導師のルシアも馬鹿にしたように鼻で笑った。
「そうよ。カイルさんが割った薪で焼いた肉なんて、泥の味がするわ。私たちの高貴な魔力には、もっと清浄なエネルギーが必要なの。ただの力自慢の労働者は、田舎に帰って木こりでもしてなさい」
俺は地面に突き立てられた、使い古しの黒い斧を見つめた。
彼らは何も知らない。
この魔王領の木々が、普通の植物ではないことを。
「レオン。この森の木は、魔王が千年前から自身の『呪い』と『魂の破片』を流し込んで育てた、身代わりの依代だ。この木が立っている限り、魔王は不死身。俺は毎日、その『魂の器』を斧で叩き割り、物理的に魔王の生命力を削り続けていたんだぞ」
「……魂の器? ハッ、笑わせるな。ただの枯れ木を割っている自分を正当化したいだけだろ。お前が斧を振るうたびに魔王が弱る? そんなお伽話、三歳児でも信じないぞ」
「本当だ。俺が割った薪を火にくべることで、魔王の呪いを浄化の炎に変え、君たちの聖剣や杖に『魔王特攻』のバフを無意識に付与していた。俺が薪割りをやめれば、魔王は一瞬で全快し、君たちの攻撃は一傷も与えられなくなる」
レオンは苛立ちを露わにし、俺の斧を蹴り飛ばした。
「黙れ! 俺の聖剣の輝きは、俺自身の正義の力だ! お前の薄汚い斧のおかげなわけがないだろ! さっさと消えろ! これ以上喋ると、魔王より先に貴様を斬るぞ!」
「……分かった。じゃあ、俺は行くよ。斧は持っていく。薪は……そこに置いてあるのが最後だ。大切に使えよ。それが燃え尽きた時、君たちの『無敵時間』は終わる」
俺は蹴られた斧を拾い上げ、夜の闇に消えた。
背後からは、彼らの勝利を確信した高笑いが聞こえていた。
翌朝。
俺は魔王城から遠く離れた岩山の上から、戦いの様子を眺めていた。
「さあ、いくぞ! 魔王! 俺の聖剣で引導を渡してやる!」
レオンが光り輝く聖剣を振り上げ、魔王に斬りかかった。
昨日までなら、その一撃は魔王の肉体を容易に引き裂いたはずだった。
ガキィィィィィィンッ!!
「……あ?」
レオンの聖剣が、魔王の肌に触れた瞬間に砕け散った。
光り輝いていたはずの刃が、まるで錆びた鉄屑のようにボロボロと崩れ落ちていく。
「な、なんだ!? 聖剣が……折れた!? バカな、魔王は弱っていたはずだろ!?」
『グハハハハ……! 愉快、愉快だぞ、人間ども!』
魔王の傷が、見る見るうちに塞がっていく。
それどころか、昨日までとは比較にならないほどの漆黒の魔力が、城全体を覆い尽くした。
森の木々が震え、切り倒されなかった依代たちが、一斉に魔王へとエネルギーを逆流させている。
「ル、ルシア! 魔法を! 最強の爆炎魔法で焼き尽くせ!」
「わ、分かってるわよ! 喰らいなさい! ……えっ? 魔法が、出ない……? 杖が、燃えてるぅぅぅ!!」
ルシアが構えた杖が、逆流した呪いの魔力によって、彼女の手の中で爆発した。
薪による「浄化の結界」が消えたため、彼女たちの魔力は魔王の毒気に侵食され、自滅の道具へと成り下がったのだ。
「カイル! カイル、どこだ! 薪だ! あの不味い肉の薪を燃やせ! 浄化してくれぇぇ!!」
レオンが叫ぶが、キャンプの焚き火は、もうとっくに灰になっている。
最後の薪が燃え尽き、彼らの加護は完全に失われた。
「悪いなレオン。俺はもう、ただの『木こり』なんだ。君たちの命という薪を割るのは、俺じゃなくて魔王の仕事らしい」
魔王の巨大な鉤爪が、逃げ惑う勇者たちを捕らえるのが見えた。
俺は新しく手に入れた上質な砥石を取り出し、鼻歌を歌いながら斧を研ぎ始めた。
次は、もっと平和な森で、ただの暖炉のための薪を割って暮らすとしよう。
1
あなたにおすすめの小説
【一話完結】断罪が予定されている卒業パーティーに欠席したら、みんな死んでしまいました
ツカノ
ファンタジー
とある国の王太子が、卒業パーティーの日に最愛のスワロー・アーチェリー男爵令嬢を虐げた婚約者のロビン・クック公爵令嬢を断罪し婚約破棄をしようとしたが、何故か公爵令嬢は現れない。これでは断罪どころか婚約破棄ができないと王太子が焦り始めた時、招かれざる客が現れる。そして、招かれざる客の登場により、彼らの運命は転がる石のように急転直下し、恐怖が始まったのだった。さて彼らの運命は、如何。
わたしの下着 母の私をBBA~と呼ぶことのある息子がまさか...
MisakiNonagase
青春
39才の母・真知子は息子が私の下着を持ち出していることに気づいた。
ネットで同様の事象がないか調べると、案外多いようだ。
さて、真知子は息子を問い詰める? それとも気づかないふりを続けてあげるか?
そのほかに外伝も綴りました。
今更家族だなんて言われても
広川朔二
ライト文芸
父は母に皿を投げつけ、母は俺を邪魔者扱いし、祖父母は見て見ぬふりをした。
家族に愛された記憶など一つもない。
高校卒業と同時に家を出て、ようやく手に入れた静かな生活。
しかしある日、母の訃報と共に現れたのは、かつて俺を捨てた“父”だった――。
金を無心され、拒絶し、それでも迫ってくる血縁という鎖。
だが俺は、もう縛られない。
「家族を捨てたのは、そっちだろ」
穏やかな怒りが胸に満ちる、爽快で静かな断絶の物語。
二十年仕えた王女が私を敵に売った。それでも守ることにした
セッシー
ファンタジー
二十年間、王女殿下の護衛騎士として仕えた。その殿下が、私を敵に売った。
牢の中で事実を知り、一分考えて——逃げることにした。殿下の目的を、まだ果たしていないから。
裏切りの真相を確かめるため、一人王都へ戻る護衛騎士の話。
愚者による愚行と愚策の結果……《完結》
アーエル
ファンタジー
その愚者は無知だった。
それが転落の始まり……ではなかった。
本当の愚者は誰だったのか。
誰を相手にしていたのか。
後悔は……してもし足りない。
全13話
☆他社でも公開します
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる