30 / 30
「ただの荷物持ち」と捨てられたが、俺の鞄は『魔物の王』を封印する檻だ。捨てた瞬間、数万の魔軍が解き放たれるが、素手で防げるか?
しおりを挟む
「カイル、お前はもう用済みだ。このダンジョンの出口でお別れだな」
勇者パーティー『太陽の翼』のリーダー、重戦士のバルガスが、背負っていた巨大な斧を地面に突き立てて笑った。
その横では、聖女のクラリスが汚いものを見るような目で俺を睨んでいる。
「……用済み? まだ魔王軍との決戦も終わっていないのにか?」
「はっ、決戦だぁ? お前みたいな『収納スキル』しかない荷物持ちが、戦場で何の役に立つんだよ。俺たちはこれから伝説の武器を揃えて、エリートだけで魔王城に乗り込むんだ。お前みたいな地味な裏方がいては、俺たちの格が下がるんだよ」
クラリスも、香水を染み込ませたハンカチで鼻を覆いながら続けた。
「本当ですわ。カイルさんの背負っているその古びた大きな鞄……。中から嫌な匂いがしますし、見ているだけで気分が悪くなりますの。私たちの華やかな凱旋パレードに、そんなみすぼらしい荷物持ちは必要ありませんわ」
俺は背中に重くのしかかる、黒革の巨大な鞄を揺らした。
彼らは知らない。俺のスキル『無限収納』が、ただの便利な倉庫ではないことを。
「バルガス。君たちがこの一年、一度も魔王軍の幹部に襲われず、雑魚モンスターばかりを相手にレベル上げができた理由を考えたことはないのか?」
「ふん、俺たちの覇気に恐れをなして逃げ出したんだろうよ。当然の結果だ」
「違う。俺はこの鞄の中に、道中で遭遇した魔王軍の幹部や、数万の魔物兵団を『生きたまま』封印して閉じ込めていたんだ。この鞄はただの荷物入れじゃない。魔物の王すら閉じ込める、移動式の監獄なんだよ」
俺はこの一年、彼らが寝静まった後に、鞄の中から漏れ出す魔物たちの怨嗟の声を抑え込み、精神を削りながら封印を維持してきた。
俺の手が震えているのは、恐怖からではない。鞄の中で暴れる数万の魔力の奔流を、力ずくで押さえつけているからだ。
「ハハハ! 魔物兵団を鞄に? 妄想も大概にしろよ! お前、重い荷物を運びすぎて頭がおかしくなったのか? いいからその鞄を置いて、さっさと失せろ。中身のポーションや金貨は俺たちのものだ!」
バルガスが俺の肩から無理やり鞄をひったくり、地面に放り投げた。
「……後悔しても知らないぞ。その鞄の鍵は、俺の魔力でしか維持できない。俺がここを去れば、封印は数秒で崩壊する。君たちが相手にしてきた雑魚とは次元が違う、本物の『地獄』が溢れ出すぞ」
「うるせぇ! 負け惜しみは聞き飽きたんだよ! 消えろ、無能!」
俺は一礼し、転移石を発動させた。
自分一人を守るだけの魔力なら、今の俺には十分すぎるほど残っている。
「……自由だ。もう、あいつらの悲鳴を聞かなくて済む」
俺の姿が光に包まれ、視界が切り替わる直前。
地面に転がった鞄の合わせ目から、どす黒い霧が噴き出すのが見えた。
パキィィィィィィンッ!!
空間が割れるような音が響き、鞄が内側から爆散した。
「な、なんだ!? この黒いモヤは……!? ひっ、あ、あぁぁぁぁ!!」
バルガスの絶叫が響く。
霧の中から現れたのは、かつて俺が封印した魔王軍の四天王、そして血に飢えた数万の魔獣たちだった。
一年間、狭い空間に閉じ込められ、怒りと飢えを極限まで溜め込んだ魔物たちが、目の前にいる「弱そうな人間たち」に一斉に襲いかかる。
「クラリス! 防御魔法を! 早く!!」
「無理ですわ! 魔力が……魔力が多すぎて、結界が割れます! いやぁぁぁ! 足が、私の足が食べられてるぅぅぅ!!」
「カイル! カイル戻れ! しまえ! こいつらを早く鞄にしまえぇぇぇ!!」
バルガスの叫びが聞こえるが、俺の転移はすでに完了していた。
転移した先の平穏な村で、俺は空っぽになった両肩の軽さを噛み締める。
今まで俺がどれだけの重さを背負っていたのか、ようやく実感できた気がした。
「さて、次はどんな荷物を運ぼうか。今度は、中身を大切にしてくれる人のために働きたいな」
俺は新しく買った小さなリュックを背負い、朝日が昇る街道を歩き出した。
背後の山からは、今も絶え間なく、かつての仲間の末路を知らせる断末魔が響き渡っていた。
勇者パーティー『太陽の翼』のリーダー、重戦士のバルガスが、背負っていた巨大な斧を地面に突き立てて笑った。
その横では、聖女のクラリスが汚いものを見るような目で俺を睨んでいる。
「……用済み? まだ魔王軍との決戦も終わっていないのにか?」
「はっ、決戦だぁ? お前みたいな『収納スキル』しかない荷物持ちが、戦場で何の役に立つんだよ。俺たちはこれから伝説の武器を揃えて、エリートだけで魔王城に乗り込むんだ。お前みたいな地味な裏方がいては、俺たちの格が下がるんだよ」
クラリスも、香水を染み込ませたハンカチで鼻を覆いながら続けた。
「本当ですわ。カイルさんの背負っているその古びた大きな鞄……。中から嫌な匂いがしますし、見ているだけで気分が悪くなりますの。私たちの華やかな凱旋パレードに、そんなみすぼらしい荷物持ちは必要ありませんわ」
俺は背中に重くのしかかる、黒革の巨大な鞄を揺らした。
彼らは知らない。俺のスキル『無限収納』が、ただの便利な倉庫ではないことを。
「バルガス。君たちがこの一年、一度も魔王軍の幹部に襲われず、雑魚モンスターばかりを相手にレベル上げができた理由を考えたことはないのか?」
「ふん、俺たちの覇気に恐れをなして逃げ出したんだろうよ。当然の結果だ」
「違う。俺はこの鞄の中に、道中で遭遇した魔王軍の幹部や、数万の魔物兵団を『生きたまま』封印して閉じ込めていたんだ。この鞄はただの荷物入れじゃない。魔物の王すら閉じ込める、移動式の監獄なんだよ」
俺はこの一年、彼らが寝静まった後に、鞄の中から漏れ出す魔物たちの怨嗟の声を抑え込み、精神を削りながら封印を維持してきた。
俺の手が震えているのは、恐怖からではない。鞄の中で暴れる数万の魔力の奔流を、力ずくで押さえつけているからだ。
「ハハハ! 魔物兵団を鞄に? 妄想も大概にしろよ! お前、重い荷物を運びすぎて頭がおかしくなったのか? いいからその鞄を置いて、さっさと失せろ。中身のポーションや金貨は俺たちのものだ!」
バルガスが俺の肩から無理やり鞄をひったくり、地面に放り投げた。
「……後悔しても知らないぞ。その鞄の鍵は、俺の魔力でしか維持できない。俺がここを去れば、封印は数秒で崩壊する。君たちが相手にしてきた雑魚とは次元が違う、本物の『地獄』が溢れ出すぞ」
「うるせぇ! 負け惜しみは聞き飽きたんだよ! 消えろ、無能!」
俺は一礼し、転移石を発動させた。
自分一人を守るだけの魔力なら、今の俺には十分すぎるほど残っている。
「……自由だ。もう、あいつらの悲鳴を聞かなくて済む」
俺の姿が光に包まれ、視界が切り替わる直前。
地面に転がった鞄の合わせ目から、どす黒い霧が噴き出すのが見えた。
パキィィィィィィンッ!!
空間が割れるような音が響き、鞄が内側から爆散した。
「な、なんだ!? この黒いモヤは……!? ひっ、あ、あぁぁぁぁ!!」
バルガスの絶叫が響く。
霧の中から現れたのは、かつて俺が封印した魔王軍の四天王、そして血に飢えた数万の魔獣たちだった。
一年間、狭い空間に閉じ込められ、怒りと飢えを極限まで溜め込んだ魔物たちが、目の前にいる「弱そうな人間たち」に一斉に襲いかかる。
「クラリス! 防御魔法を! 早く!!」
「無理ですわ! 魔力が……魔力が多すぎて、結界が割れます! いやぁぁぁ! 足が、私の足が食べられてるぅぅぅ!!」
「カイル! カイル戻れ! しまえ! こいつらを早く鞄にしまえぇぇぇ!!」
バルガスの叫びが聞こえるが、俺の転移はすでに完了していた。
転移した先の平穏な村で、俺は空っぽになった両肩の軽さを噛み締める。
今まで俺がどれだけの重さを背負っていたのか、ようやく実感できた気がした。
「さて、次はどんな荷物を運ぼうか。今度は、中身を大切にしてくれる人のために働きたいな」
俺は新しく買った小さなリュックを背負い、朝日が昇る街道を歩き出した。
背後の山からは、今も絶え間なく、かつての仲間の末路を知らせる断末魔が響き渡っていた。
1
この作品の感想を投稿する
あなたにおすすめの小説
【一話完結】断罪が予定されている卒業パーティーに欠席したら、みんな死んでしまいました
ツカノ
ファンタジー
とある国の王太子が、卒業パーティーの日に最愛のスワロー・アーチェリー男爵令嬢を虐げた婚約者のロビン・クック公爵令嬢を断罪し婚約破棄をしようとしたが、何故か公爵令嬢は現れない。これでは断罪どころか婚約破棄ができないと王太子が焦り始めた時、招かれざる客が現れる。そして、招かれざる客の登場により、彼らの運命は転がる石のように急転直下し、恐怖が始まったのだった。さて彼らの運命は、如何。
わたしの下着 母の私をBBA~と呼ぶことのある息子がまさか...
MisakiNonagase
青春
39才の母・真知子は息子が私の下着を持ち出していることに気づいた。
ネットで同様の事象がないか調べると、案外多いようだ。
さて、真知子は息子を問い詰める? それとも気づかないふりを続けてあげるか?
そのほかに外伝も綴りました。
今更家族だなんて言われても
広川朔二
ライト文芸
父は母に皿を投げつけ、母は俺を邪魔者扱いし、祖父母は見て見ぬふりをした。
家族に愛された記憶など一つもない。
高校卒業と同時に家を出て、ようやく手に入れた静かな生活。
しかしある日、母の訃報と共に現れたのは、かつて俺を捨てた“父”だった――。
金を無心され、拒絶し、それでも迫ってくる血縁という鎖。
だが俺は、もう縛られない。
「家族を捨てたのは、そっちだろ」
穏やかな怒りが胸に満ちる、爽快で静かな断絶の物語。
二十年仕えた王女が私を敵に売った。それでも守ることにした
セッシー
ファンタジー
二十年間、王女殿下の護衛騎士として仕えた。その殿下が、私を敵に売った。
牢の中で事実を知り、一分考えて——逃げることにした。殿下の目的を、まだ果たしていないから。
裏切りの真相を確かめるため、一人王都へ戻る護衛騎士の話。
愚者による愚行と愚策の結果……《完結》
アーエル
ファンタジー
その愚者は無知だった。
それが転落の始まり……ではなかった。
本当の愚者は誰だったのか。
誰を相手にしていたのか。
後悔は……してもし足りない。
全13話
☆他社でも公開します
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる