「魔力ゼロのゴミ」と処刑された聖女は、触れるもの全てを殺す死神皇帝の唯一の解毒剤でした。「君がいないと狂う」と毎晩離してくれません

葉山 乃愛

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第14話 無防備な寝相、皇帝の理性

その日の夜。
いつも通り、私はディルク様の寝室で、「抱き枕」としての務めを果たしていた。

「……ん、ぅ……」

ふかふかの巨大ベッドの上。
ディルク様の腕の中は、まるで高級な暖炉のそばにいるみたいに温かい。
彼の心臓の音を聞いていると、不思議と安心してしまう。
私はいつしか、ここが「魔王の城」であることも忘れ、完全に熟睡していた。

……らしい。

「リリアナ……頼む、起きてくれ」

耳元で、切羽詰まった声が聞こえた。
うっすらと目を開けると、夜明け前の薄暗い部屋で、ディルク様が苦悶の表情を浮かべていた。

「んぅ……ディルク様? どうしたんですか……?」
「どうした、じゃない」

彼は額に脂汗を浮かべ、自分の胸元を見た。
私も視線を落とす。

「……あっ」

私の寝相は、最悪だった。
彼のシャツのボタンの隙間から、素手を差し込み、彼の素肌(胸板)を直に触りながら眠っていたのだ。
しかも、片足は彼の腰に絡みつき、大胆にも太ももを密着させている。

「温かくて、つい……」
「つい、じゃない。……俺は、一睡もできなかった」

彼はぜぇ、はぁ、と荒い息を吐いている。

「お前が無防備に触れてくるたびに、俺の理性が……何度も限界を超えそうになった」
「り、理性?」
「俺は男だぞ。……いくら呪いがあるとはいえ、愛する女にこんな風に触れられて、何も感じないわけがないだろう」

彼の赤い瞳が、ギラリと光った。
そこにあるのは「眠気」ではなく、明確な「雄の色気」だった。

「ひっ……ご、ごめんなさい! すぐに離れます!」

私が慌てて手を引っ込めようとすると、逆にガシッと手首を掴まれた。

「……逃げるな」
「えっ」
「一睡もできなかったと言ったが……不快だったわけじゃない」

彼は私の手を、自分の頬に押し当てた。
熱い。火傷しそうなくらい、彼の体温が上がっている。

「むしろ、幸せすぎて目が冴えてしまったんだ。……20年間、誰の体温も知らずに生きてきた俺が、こんなに熱い夜を過ごせるなんて」

彼は私の指先に、熱烈なキスを落とした。

「責任を取れ、リリアナ。……俺をこんなに昂らせた責任を」

「せ、責任って……」

「朝まで、二度寝は禁止だ」

彼はニヤリと笑うと、私をベッドに押し倒した。

「俺の目が覚めるような、甘い口づけを所望する。……百回くらいな」
「ひゃ、百回ぃ!?」
「足りないか? なら二百回だ」

朝チュンなんて生易しいものじゃない。
最強の皇帝陛下による、早朝からの「キス魔」攻撃が始まった。

「んっ、ふ……っ!」
「可愛い。……リリアナ、愛している」

彼の愛は重くて、熱くて、そして甘い。
故郷では「無能」と呼ばれた私が、ここでは「存在しているだけで彼を狂わせる」ほどの価値を持っている。
その事実に、私の胸もキュンと高鳴ってしまう。

(……もう少しだけなら、付き合ってあげてもいいかな)

私は観念して、彼の首に腕を回した。
窓の外では、新しい朝の光が、雪原をキラキラと照らしていた。
私たちの「幸せな逃避行」は、まだ始まったばかりだ。
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