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第26話 太陽の誘惑、突きつけられた「正論」
「……なんだと? 北の砦に魔獣の残党が出た?」
翌日の執務室。ディルク様の低い声が響いた。
近衛隊長が蒼白な顔で報告している。
「は、はい。国境の崖から這い上がってきた特殊な個体らしく……通常の兵士では歯が立ちません。被害が拡大する前に、陛下のご出陣を……」
「チッ。俺を城から引き剥がすための、古狸(ベルンシュタイン)の差し金か」
ディルク様は舌打ちをした。
明らかに罠だ。彼を王都から遠ざけ、その隙に私をどうにかしようという魂胆が見え透いている。
「行きませんよね? 罠ですもの」
「いや、行く」
彼は立ち上がり、軍服のマントを翻した。
「罠だろうと、民が襲われているのを放置はできん。……それに、俺の力なら半日で片付く」
彼は私の肩を強く掴み、真剣な眼差しで見つめた。
「リリアナ。俺は今から北へ飛ぶ。往復で半日……いや、数時間は空けることになる」
「数時間……」
「その間、絶対に部屋から出るな。護衛は最強の者をつけた。誰が来ても扉を開けるなよ」
彼は不安げに私の額にキスをし、何度も「すぐに戻る」と言い残して、転移魔法で姿を消した。
部屋に残されたのは、私と、扉の外にいる護衛たちだけ。
最強の盾がいなくなった城内。
急に、肌寒さを感じた。
――その時だった。
「よう。魔王殿は出かけたか?」
窓の外から、明るい声がした。
えっ、ここ3階よ!?
驚いて振り返ると、バルコニーの手すりに、金髪の男――レオンハルト皇子が腰掛けていた。
「レオンハルト殿下!? ど、どうやって……」
「俺は風魔法が得意でね。警備のザルな空からお邪魔したってわけだ」
彼は悪戯っぽく笑うと、窓を開けて侵入してきた。
護衛たちは廊下だ。部屋の中に侵入されたら意味がない!
「来ないでください! 大声を出しますよ!」
「まあ待て。襲いに来たんじゃない。……話をしに来たんだ」
レオンハルト皇子の雰囲気が、ふっと真面目なものに変わった。
彼は近づくことなく、部屋の中央で立ち止まり、私を真っ直ぐに見据えた。
「リリアナ嬢。昨日の答え、まだ納得してないんだ」
「……お断りすると言ったはずです」
「『ディルクの腕の中が好きだから』だったか?」
彼は冷笑を浮かべた。
「それは、あんたのエゴだろ」
「え……?」
「あんたは『呪いを中和できる自分』に酔ってるだけじゃないのか?」
ドキリとした。
彼の金色の瞳が、私の心を見透かすように射抜く。
「考えてもみろ。あんたがそばにいる限り、あの皇帝はずっと『呪い』と付き合い続けることになる。……あんたという『薬』なしでは生きられない体になる」
レオンハルト皇子は一歩踏み出した。
「だが、もし俺の国の『古代遺跡』に行けば、彼の呪いそのものを解ける可能性がある」
「……呪いが、解ける……?」
「ああ。ただし、それには『聖女』の生贄……つまり、あんたの魔力回路を全て捧げる必要があるかもしれないがな」
彼は試すような目で私を見た。
「あんた、ディルクのために『普通の人間』に戻してやりたいとは思わないのか? それとも、彼を『自分がいなきゃ生きられない身体』にして縛り付けておきたいのか?」
「それはっ……!」
反論しようとして、言葉が詰まった。
私は、彼が呪われているからこそ必要とされている。
もし彼が普通の人間になったら?
それでも私を愛してくれるだろうか? それとも、「もう用済みだ」と言われるのが怖いのか?
私の心の奥底にある、小さな不安を抉られた気がした。
「図星か」
レオンハルト皇子はため息をつき、手を差し出した。
「俺と一緒に来い、リリアナ。俺の国で呪いを解く方法を探そう。……それが、あいつのためでもある」
彼の言葉は、残酷なほど正論だった。
ディルク様の幸せを願うなら、彼を「死神」から解放してあげるべきだ。
でも、そうすれば私は……。
私の心が大きく揺らいだ、その瞬間。
ドォォォォォンッ!!!!
部屋の扉が、爆音と共に吹き飛んだ。
爆風と砂煙の中、ゆらりと現れた人影。
「……おい」
地獄の底から響くような、低く、凍てつく声。
帰ってきたのではない。
扉の向こうに立っていたのは、全身からどす黒い殺意の波動を噴出させる、本物の「怪物」だった。
「俺の妻に、何を吹き込んでいる……?」
ディルク様だ。
だが、いつもの甘い彼ではない。
瞳孔が開ききり、白目が黒く染まりかけている。
理性が完全に吹き飛んだ、「暴走」状態の死神がそこにいた。
「ひっ……!」
レオンハルト皇子ですら、その威圧感に一歩後ずさった。
あ、まずい。
これは、「嫉妬」なんて可愛いレベルじゃない。
この城ごと、レオンハルト皇子を消滅させる気だ。
「ディルク様……ッ!」
私は叫んだ。
正論も、不安も、今はどうでもいい。
私が彼を止めなければ、世界が終わる!
翌日の執務室。ディルク様の低い声が響いた。
近衛隊長が蒼白な顔で報告している。
「は、はい。国境の崖から這い上がってきた特殊な個体らしく……通常の兵士では歯が立ちません。被害が拡大する前に、陛下のご出陣を……」
「チッ。俺を城から引き剥がすための、古狸(ベルンシュタイン)の差し金か」
ディルク様は舌打ちをした。
明らかに罠だ。彼を王都から遠ざけ、その隙に私をどうにかしようという魂胆が見え透いている。
「行きませんよね? 罠ですもの」
「いや、行く」
彼は立ち上がり、軍服のマントを翻した。
「罠だろうと、民が襲われているのを放置はできん。……それに、俺の力なら半日で片付く」
彼は私の肩を強く掴み、真剣な眼差しで見つめた。
「リリアナ。俺は今から北へ飛ぶ。往復で半日……いや、数時間は空けることになる」
「数時間……」
「その間、絶対に部屋から出るな。護衛は最強の者をつけた。誰が来ても扉を開けるなよ」
彼は不安げに私の額にキスをし、何度も「すぐに戻る」と言い残して、転移魔法で姿を消した。
部屋に残されたのは、私と、扉の外にいる護衛たちだけ。
最強の盾がいなくなった城内。
急に、肌寒さを感じた。
――その時だった。
「よう。魔王殿は出かけたか?」
窓の外から、明るい声がした。
えっ、ここ3階よ!?
驚いて振り返ると、バルコニーの手すりに、金髪の男――レオンハルト皇子が腰掛けていた。
「レオンハルト殿下!? ど、どうやって……」
「俺は風魔法が得意でね。警備のザルな空からお邪魔したってわけだ」
彼は悪戯っぽく笑うと、窓を開けて侵入してきた。
護衛たちは廊下だ。部屋の中に侵入されたら意味がない!
「来ないでください! 大声を出しますよ!」
「まあ待て。襲いに来たんじゃない。……話をしに来たんだ」
レオンハルト皇子の雰囲気が、ふっと真面目なものに変わった。
彼は近づくことなく、部屋の中央で立ち止まり、私を真っ直ぐに見据えた。
「リリアナ嬢。昨日の答え、まだ納得してないんだ」
「……お断りすると言ったはずです」
「『ディルクの腕の中が好きだから』だったか?」
彼は冷笑を浮かべた。
「それは、あんたのエゴだろ」
「え……?」
「あんたは『呪いを中和できる自分』に酔ってるだけじゃないのか?」
ドキリとした。
彼の金色の瞳が、私の心を見透かすように射抜く。
「考えてもみろ。あんたがそばにいる限り、あの皇帝はずっと『呪い』と付き合い続けることになる。……あんたという『薬』なしでは生きられない体になる」
レオンハルト皇子は一歩踏み出した。
「だが、もし俺の国の『古代遺跡』に行けば、彼の呪いそのものを解ける可能性がある」
「……呪いが、解ける……?」
「ああ。ただし、それには『聖女』の生贄……つまり、あんたの魔力回路を全て捧げる必要があるかもしれないがな」
彼は試すような目で私を見た。
「あんた、ディルクのために『普通の人間』に戻してやりたいとは思わないのか? それとも、彼を『自分がいなきゃ生きられない身体』にして縛り付けておきたいのか?」
「それはっ……!」
反論しようとして、言葉が詰まった。
私は、彼が呪われているからこそ必要とされている。
もし彼が普通の人間になったら?
それでも私を愛してくれるだろうか? それとも、「もう用済みだ」と言われるのが怖いのか?
私の心の奥底にある、小さな不安を抉られた気がした。
「図星か」
レオンハルト皇子はため息をつき、手を差し出した。
「俺と一緒に来い、リリアナ。俺の国で呪いを解く方法を探そう。……それが、あいつのためでもある」
彼の言葉は、残酷なほど正論だった。
ディルク様の幸せを願うなら、彼を「死神」から解放してあげるべきだ。
でも、そうすれば私は……。
私の心が大きく揺らいだ、その瞬間。
ドォォォォォンッ!!!!
部屋の扉が、爆音と共に吹き飛んだ。
爆風と砂煙の中、ゆらりと現れた人影。
「……おい」
地獄の底から響くような、低く、凍てつく声。
帰ってきたのではない。
扉の向こうに立っていたのは、全身からどす黒い殺意の波動を噴出させる、本物の「怪物」だった。
「俺の妻に、何を吹き込んでいる……?」
ディルク様だ。
だが、いつもの甘い彼ではない。
瞳孔が開ききり、白目が黒く染まりかけている。
理性が完全に吹き飛んだ、「暴走」状態の死神がそこにいた。
「ひっ……!」
レオンハルト皇子ですら、その威圧感に一歩後ずさった。
あ、まずい。
これは、「嫉妬」なんて可愛いレベルじゃない。
この城ごと、レオンハルト皇子を消滅させる気だ。
「ディルク様……ッ!」
私は叫んだ。
正論も、不安も、今はどうでもいい。
私が彼を止めなければ、世界が終わる!
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