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第2話:不合格の最短手順
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翌朝。
校門をくぐる枢(くるる)に向けられる視線は、昨日までとは一変していた。
「おい、あいつだろ……多面体パズルを五秒で解いたやつ」
「手品じゃないかって噂だぞ」
背景だったはずの枢が、今や教室の「焦点」になっていた。
だが、その注目の中心で、佐竹だけはどす黒い殺意を隠そうともせずに枢を睨みつけていた。
「九重……お前、よくも俺に恥をかかせたな」
佐竹が低い声で吐き捨て、その横に立つ生活指導の鬼、大河原(おおがわら)先生が冷酷に告げる。
「九重。お前が佐竹のパズルを盗み、あらかじめ揃えていたものとすり替えたという報告が入っている。……さらに、白凪さんへの不適切な接触。即刻、退学の審議にかける」
大河原は、自分のキャリアのために「問題児」を作り出しては排除する、この学校の致命的な欠陥(バグ)だった。
(演算開始。思考の加速……発動)
枢が瞬きをした瞬間、世界から色が消え、すべてが静止する。
大河原の心拍数、一四五。
(……昨日までなかった高級な腕時計の跡。
そして、彼が握りしめるタブレットの保護フィルムに反射して映る、メールの送信元アドレス。
『建設業者』のドメイン。……なるほどな。
昨日のパズル事件を、自分の不祥事から目を逸らさせるための『煙幕』に利用するつもりか。
そのタブレットのパスワード……。
さっき彼が画面を拭いた時の指の脂(あぶら)の跡からして、パターンは三つに絞れる。
一番可能性が高いのは、一二三四。単純すぎる)
枢は思考の加速の中で、自身のスマホを操作し、校内Wi-Fiを介して大河原のタブレットへ瞬時に「偽の緊急通知」を送り込んだ。
「……先生。退学を宣告する前に、そのタブレットに届いた『教育委員会からの警告』を確認しなくていいんですか?」
「なっ……教育委員会だと!?」
焦燥と恐怖で判断力を失った大河原は、内容を疑うこともせず、反射的にその通知をタップした。
それが、枢の仕掛けた最終手順のトリガーだった。
ポップアップに仕込まれていたのは、解除ボタンではない。
大河原が直前まで必死に隠蔽しようと開いていた「裏金管理フォルダ」の、プロジェクターへの強制ミラーリング開始だ。
ピコン。
教壇のプロジェクターが自動で起動し、巨大スクリーンに大河原のタブレット画面が映し出された。
そこには、生々しい裏金の帳簿と、女子生徒に送るはずだった卑猥なメッセージの履歴が、隠しようのない証拠として並んでいた。
「あ、あ、ああ……っ! 違う、これは!」
「……最短手順だ、大河原先生。
自分でプロジェクターを繋ぎ、自分の指で、自分の罪を全校生徒に公開する……これ以上の正解はない」
枢は一度も席を立つことなく、冷徹に言い放った。
教室は静まり返り、次の瞬間、大河原と佐竹への軽蔑が渦となって広がっていく。
「九重くん……。ふふ、やっぱり素敵」
隣で繭(まゆ)が、うっとりと枢を見つめていた。
彼女は枢の腕に自らの胸を押し当てるように抱きつき、絶望する教師を見捨て、枢だけを見つめる。
「……あなたの言った通りに、世界が壊れていくね。ねえ、次は何を壊すの?」
繭の瞳の奥に、暗く、熱い共犯者の火が灯った。
彼女の独占欲が、枢の知性と混ざり合い、逃げ場のない檻となって枢を包み込んでいく。
(……さて。次のゴミは、どいつだ?)
校門をくぐる枢(くるる)に向けられる視線は、昨日までとは一変していた。
「おい、あいつだろ……多面体パズルを五秒で解いたやつ」
「手品じゃないかって噂だぞ」
背景だったはずの枢が、今や教室の「焦点」になっていた。
だが、その注目の中心で、佐竹だけはどす黒い殺意を隠そうともせずに枢を睨みつけていた。
「九重……お前、よくも俺に恥をかかせたな」
佐竹が低い声で吐き捨て、その横に立つ生活指導の鬼、大河原(おおがわら)先生が冷酷に告げる。
「九重。お前が佐竹のパズルを盗み、あらかじめ揃えていたものとすり替えたという報告が入っている。……さらに、白凪さんへの不適切な接触。即刻、退学の審議にかける」
大河原は、自分のキャリアのために「問題児」を作り出しては排除する、この学校の致命的な欠陥(バグ)だった。
(演算開始。思考の加速……発動)
枢が瞬きをした瞬間、世界から色が消え、すべてが静止する。
大河原の心拍数、一四五。
(……昨日までなかった高級な腕時計の跡。
そして、彼が握りしめるタブレットの保護フィルムに反射して映る、メールの送信元アドレス。
『建設業者』のドメイン。……なるほどな。
昨日のパズル事件を、自分の不祥事から目を逸らさせるための『煙幕』に利用するつもりか。
そのタブレットのパスワード……。
さっき彼が画面を拭いた時の指の脂(あぶら)の跡からして、パターンは三つに絞れる。
一番可能性が高いのは、一二三四。単純すぎる)
枢は思考の加速の中で、自身のスマホを操作し、校内Wi-Fiを介して大河原のタブレットへ瞬時に「偽の緊急通知」を送り込んだ。
「……先生。退学を宣告する前に、そのタブレットに届いた『教育委員会からの警告』を確認しなくていいんですか?」
「なっ……教育委員会だと!?」
焦燥と恐怖で判断力を失った大河原は、内容を疑うこともせず、反射的にその通知をタップした。
それが、枢の仕掛けた最終手順のトリガーだった。
ポップアップに仕込まれていたのは、解除ボタンではない。
大河原が直前まで必死に隠蔽しようと開いていた「裏金管理フォルダ」の、プロジェクターへの強制ミラーリング開始だ。
ピコン。
教壇のプロジェクターが自動で起動し、巨大スクリーンに大河原のタブレット画面が映し出された。
そこには、生々しい裏金の帳簿と、女子生徒に送るはずだった卑猥なメッセージの履歴が、隠しようのない証拠として並んでいた。
「あ、あ、ああ……っ! 違う、これは!」
「……最短手順だ、大河原先生。
自分でプロジェクターを繋ぎ、自分の指で、自分の罪を全校生徒に公開する……これ以上の正解はない」
枢は一度も席を立つことなく、冷徹に言い放った。
教室は静まり返り、次の瞬間、大河原と佐竹への軽蔑が渦となって広がっていく。
「九重くん……。ふふ、やっぱり素敵」
隣で繭(まゆ)が、うっとりと枢を見つめていた。
彼女は枢の腕に自らの胸を押し当てるように抱きつき、絶望する教師を見捨て、枢だけを見つめる。
「……あなたの言った通りに、世界が壊れていくね。ねえ、次は何を壊すの?」
繭の瞳の奥に、暗く、熱い共犯者の火が灯った。
彼女の独占欲が、枢の知性と混ざり合い、逃げ場のない檻となって枢を包み込んでいく。
(……さて。次のゴミは、どいつだ?)
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