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第3話 放課後の個人授業、「ペンの持ち方」を教えただけで昇天されました
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体育の授業が終わる頃には、俺はすっかり疲弊していた。
「10秒ジャスト……! 神の領域を、あんな涼しい顔で……!」
「拓海くん、お願い! 私の専属トレーナーになって!」
「いいえ、私の国の軍事顧問になってください!」
50メートルを軽く流して走っただけで、この騒ぎだ。
世界記録保持者(ただし手加減済み)という肩書きまで背負ってしまった俺は、放課後を待ち望んでいた。
キーンコーンカーンコーン……。
ようやく授業終了のチャイムが鳴る。
俺はカバンを掴み、逃げるように席を立った。
目立ちすぎた。これ以上学校にいたら、ファンクラブどころか親衛隊まで結成されかねない。
「拓海くん!」
教室を出ようとした俺の腕を、柔らかい手がガシッと掴んだ。
振り返ると、ボブカットの美少女――古賀陽菜が、上気した顔で立っていた。
「逃がさないよ? 約束、覚えてるよね?」
彼女の瞳は、獲物を逃がさない肉食獣のように濡れている。
そうだった。
俺がうっかり黒板に書いた『漢字』を見て、彼女は「教えて欲しい」と言ってきたんだった。
「あ、ああ。もちろん」
「よかったぁ。じゃあ、行こ? 私の家、すぐそこだから」
陽菜は俺の腕を自身の豊満な胸に抱え込むようにして、校門へと引っ張っていく。
周りの女子たちから「ずるい!」「抜け駆けよ!」と悲鳴が上がるが、陽菜は勝ち誇った笑顔でそれらを無視した。
(……まあ、字を教えるくらいならいいか)
俺は甘い感触を腕に感じながら、楽観的に考えていた。
だが、この時の俺はまだ分かっていなかったのだ。
この世界における「勉強」が、どれほど刺激的で、背徳的な行為なのかを。
陽菜の家は、学校から徒歩10分の場所にあった。
というか、「家」ではなかった。
「……ここ?」
目の前にそびえ立つのは、六本木の一等地に建つ超高級タワーマンション。
その最上階が、彼女の自宅だった。
「パパとママは海外に行ってるから、今は私一人なの。ふふ、誰にも邪魔されないね」
陽菜はオートロックを解除し、俺をエレベーターへと招き入れる。
密室。
二人きり。
上昇するエレベーターの中で、陽菜の視線が俺の顔、首筋、そして手にねっとりと絡みつく。
「早く教えて欲しいな……拓海くんの『神代文字』……」
彼女の息遣いが荒い。
ただの勉強会のはずなのに、なんでこんなにエロい雰囲気になってるんだ?
通されたのは、夜景が一望できる広すぎるリビングだった。
高級そうな革のソファに並んで座る。
距離が近い。太ももが触れ合っている。
「じゃあ、さっそく始めようか。ノートとペンはある?」
俺が努めて冷静に聞くと、陽菜は震える手で新品のノートとボールペンを取り出した。
「は、はい……準備万端よ」
「よし。じゃあ、まずはペンの持ち方からだな」
俺は陽菜がペンを握る手を見た。
そして、絶句した。
彼女はペンを、まるでスプーンか何かのように、鷲掴みにしていたのだ。
グーで握りしめている。
幼児か。
「……陽菜、それじゃ字は書けないよ」
「えっ? う、嘘……私、これでもクラスで一番字が綺麗って言われてるのに……」
マジかよ。
この世界の文明レベル、どうなってるんだ。
「貸して。こうやって持つんだ」
俺は陽菜の右手を包み込むようにして持ち、指の位置を矯正した。
親指と人差し指で軽く挟み、中指を添える。
ごく普通の、ペンの持ち方だ。
「あっ……んっ……♡」
俺が指に触れた瞬間、陽菜が艶っぽい声を漏らした。
ビクリと彼女の体が跳ねる。
「ど、どうした?」
「す、すごい……! 指が……ペンの重心を完全に支配してる……!」
陽菜はトロンとした目で、俺の手と自分の手を見つめている。
「これが『知の賢者』の指使い……! 効率的すぎて、脳が痺れるぅ……!」
「いや、ただの持ち方だから」
「ねぇ拓海くん、そのまま動かして……? 私の手を、あなたの意のままに操って……」
陽菜が俺の肩に頭をもたせかけてくる。
甘いシャンプーの香りが鼻をくすぐる。
勉強を教えているだけなのに、まるで愛撫でもしているかのような空気だ。
「……わかった。じゃあ、陽菜の名前を書いてみようか」
俺は彼女の手を握ったまま、ペン先をノートに走らせた。
『陽』
左側の『こざとへん』を書く。
曲線と直線のバランス。
「ぁぁっ……! ダメ、そんな複雑な形……頭がおかしくなっちゃう……!」
『菜』
草冠に、採るという字。
画数が多い。
「んんっ! すごい、すごいよぉ……! 線が絡み合って、一つの意味を成してる……! 深い、深すぎるよぉっ!」
最後の画を書き終えた瞬間、陽菜はガクッと力尽きたように俺の胸に倒れ込んだ。
ハァハァと荒い息を吐き、顔は茹でダコのように真っ赤だ。
「……大丈夫か?」
「はぁ、はぁ……すごい……。文字を書くだけで、こんなに気持ちいいなんて……」
陽菜は潤んだ瞳で俺を見上げ、とんでもないことを言い出した。
「ねぇ、拓海くん。ノートじゃ満足できない」
「え?」
陽菜は制服のブラウスのボタンを外し、白くなめらかな鎖骨を露わにした。
「私の……ここに書いて?」
彼女は自分の胸元を指差した。
「拓海くんのその神の知識を、私の肌に直接刻み込んで……! 私を、あなたの所有物にして欲しいの……!」
「ちょ、おま、それは流石に!」
「お願い……! 断られたら私、どうにかなっちゃう……!」
陽菜が俺の手を掴み、自分の肌へと導こうとする。
柔らかい感触。
熱い体温。
俺は天を仰いだ。
ペンの持ち方を教えただけでこれだ。
もし数学の方程式なんて教えた日には、この子はどうなってしまうんだ?
「……一文字だけだぞ」
「うん……♡ 優しく、書いてね……?」
俺は震える手でペンを握り直した。
イージーモードすぎる異世界生活。
どうやら俺の貞操の危機は、レベルの低さと比例して高まっていくらしい。
「10秒ジャスト……! 神の領域を、あんな涼しい顔で……!」
「拓海くん、お願い! 私の専属トレーナーになって!」
「いいえ、私の国の軍事顧問になってください!」
50メートルを軽く流して走っただけで、この騒ぎだ。
世界記録保持者(ただし手加減済み)という肩書きまで背負ってしまった俺は、放課後を待ち望んでいた。
キーンコーンカーンコーン……。
ようやく授業終了のチャイムが鳴る。
俺はカバンを掴み、逃げるように席を立った。
目立ちすぎた。これ以上学校にいたら、ファンクラブどころか親衛隊まで結成されかねない。
「拓海くん!」
教室を出ようとした俺の腕を、柔らかい手がガシッと掴んだ。
振り返ると、ボブカットの美少女――古賀陽菜が、上気した顔で立っていた。
「逃がさないよ? 約束、覚えてるよね?」
彼女の瞳は、獲物を逃がさない肉食獣のように濡れている。
そうだった。
俺がうっかり黒板に書いた『漢字』を見て、彼女は「教えて欲しい」と言ってきたんだった。
「あ、ああ。もちろん」
「よかったぁ。じゃあ、行こ? 私の家、すぐそこだから」
陽菜は俺の腕を自身の豊満な胸に抱え込むようにして、校門へと引っ張っていく。
周りの女子たちから「ずるい!」「抜け駆けよ!」と悲鳴が上がるが、陽菜は勝ち誇った笑顔でそれらを無視した。
(……まあ、字を教えるくらいならいいか)
俺は甘い感触を腕に感じながら、楽観的に考えていた。
だが、この時の俺はまだ分かっていなかったのだ。
この世界における「勉強」が、どれほど刺激的で、背徳的な行為なのかを。
陽菜の家は、学校から徒歩10分の場所にあった。
というか、「家」ではなかった。
「……ここ?」
目の前にそびえ立つのは、六本木の一等地に建つ超高級タワーマンション。
その最上階が、彼女の自宅だった。
「パパとママは海外に行ってるから、今は私一人なの。ふふ、誰にも邪魔されないね」
陽菜はオートロックを解除し、俺をエレベーターへと招き入れる。
密室。
二人きり。
上昇するエレベーターの中で、陽菜の視線が俺の顔、首筋、そして手にねっとりと絡みつく。
「早く教えて欲しいな……拓海くんの『神代文字』……」
彼女の息遣いが荒い。
ただの勉強会のはずなのに、なんでこんなにエロい雰囲気になってるんだ?
通されたのは、夜景が一望できる広すぎるリビングだった。
高級そうな革のソファに並んで座る。
距離が近い。太ももが触れ合っている。
「じゃあ、さっそく始めようか。ノートとペンはある?」
俺が努めて冷静に聞くと、陽菜は震える手で新品のノートとボールペンを取り出した。
「は、はい……準備万端よ」
「よし。じゃあ、まずはペンの持ち方からだな」
俺は陽菜がペンを握る手を見た。
そして、絶句した。
彼女はペンを、まるでスプーンか何かのように、鷲掴みにしていたのだ。
グーで握りしめている。
幼児か。
「……陽菜、それじゃ字は書けないよ」
「えっ? う、嘘……私、これでもクラスで一番字が綺麗って言われてるのに……」
マジかよ。
この世界の文明レベル、どうなってるんだ。
「貸して。こうやって持つんだ」
俺は陽菜の右手を包み込むようにして持ち、指の位置を矯正した。
親指と人差し指で軽く挟み、中指を添える。
ごく普通の、ペンの持ち方だ。
「あっ……んっ……♡」
俺が指に触れた瞬間、陽菜が艶っぽい声を漏らした。
ビクリと彼女の体が跳ねる。
「ど、どうした?」
「す、すごい……! 指が……ペンの重心を完全に支配してる……!」
陽菜はトロンとした目で、俺の手と自分の手を見つめている。
「これが『知の賢者』の指使い……! 効率的すぎて、脳が痺れるぅ……!」
「いや、ただの持ち方だから」
「ねぇ拓海くん、そのまま動かして……? 私の手を、あなたの意のままに操って……」
陽菜が俺の肩に頭をもたせかけてくる。
甘いシャンプーの香りが鼻をくすぐる。
勉強を教えているだけなのに、まるで愛撫でもしているかのような空気だ。
「……わかった。じゃあ、陽菜の名前を書いてみようか」
俺は彼女の手を握ったまま、ペン先をノートに走らせた。
『陽』
左側の『こざとへん』を書く。
曲線と直線のバランス。
「ぁぁっ……! ダメ、そんな複雑な形……頭がおかしくなっちゃう……!」
『菜』
草冠に、採るという字。
画数が多い。
「んんっ! すごい、すごいよぉ……! 線が絡み合って、一つの意味を成してる……! 深い、深すぎるよぉっ!」
最後の画を書き終えた瞬間、陽菜はガクッと力尽きたように俺の胸に倒れ込んだ。
ハァハァと荒い息を吐き、顔は茹でダコのように真っ赤だ。
「……大丈夫か?」
「はぁ、はぁ……すごい……。文字を書くだけで、こんなに気持ちいいなんて……」
陽菜は潤んだ瞳で俺を見上げ、とんでもないことを言い出した。
「ねぇ、拓海くん。ノートじゃ満足できない」
「え?」
陽菜は制服のブラウスのボタンを外し、白くなめらかな鎖骨を露わにした。
「私の……ここに書いて?」
彼女は自分の胸元を指差した。
「拓海くんのその神の知識を、私の肌に直接刻み込んで……! 私を、あなたの所有物にして欲しいの……!」
「ちょ、おま、それは流石に!」
「お願い……! 断られたら私、どうにかなっちゃう……!」
陽菜が俺の手を掴み、自分の肌へと導こうとする。
柔らかい感触。
熱い体温。
俺は天を仰いだ。
ペンの持ち方を教えただけでこれだ。
もし数学の方程式なんて教えた日には、この子はどうなってしまうんだ?
「……一文字だけだぞ」
「うん……♡ 優しく、書いてね……?」
俺は震える手でペンを握り直した。
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どうやら俺の貞操の危機は、レベルの低さと比例して高まっていくらしい。
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