日本でモブだった俺、レベルの低すぎる異世界では「顔面国宝」兼「全知の賢者」らしい

葉山 乃愛

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第12話 調理実習で「おにぎり」を作っただけなのに、伝説の魔道具だと勘違いされました

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「それじゃあ、今日は家庭科の授業として調理実習を行うわよー」

松田先生の号令で、調理室には異様な緊張感が走っていた。
俺の周りには、もはやお馴染みとなった面々が揃っている。
幼馴染の陽菜、お嬢様のミア、そして昨日転校してきたばかりのシャルロット王女。
さらに、なぜかフリフリのエプロンを無理やり着せられた剛田が、背後で巨体を震わせていた。

「アニキ……俺、包丁なんて握ったことありません。肉を素手で引き裂くのじゃダメっすか?」

「ダメに決まってるだろ。危ないから座ってろ」

「拓海くん、見ててね! 私が最高の愛妻料理を作ってあげるから!」
「あら、陽菜さん。拓海様に相応しいのは、王宮のシェフ直伝の技術を持つ私ですわ」
「お黙りなさいな。愛とは形ではなく、精神(ソウル)ですのよ」

ヒロイン三人が火花を散らす中、実習が始まった。
今日のお題は『米料理』。
だが、彼女たちの手元を見て、俺は戦慄した。
陽菜は米を洗わずにそのまま鍋に入れ、ミアは米をボウルの中で握りつぶし、シャルロットは米に謎の香水を振りかけていた。

(……このままだと、俺の胃袋が異世界転生してしまう)

俺は耐えきれず、自分の分の米を手に取った。
幸い、この世界にも米は存在する。
俺は手際よく米を研ぎ、適切な水加減で火にかけた。


「なっ……!? あの流れるような手の動き……!」

剛田が驚愕の声を上げた。
調理室中の生徒たちが、俺の手元を凝視している。

「米を水の中で踊らせ、汚れだけを的確に除去している……! なんて無駄のない、神聖な儀式なんだ!」

「それだけじゃないわ! 火加減を瞳の輝きだけで調整しているように見える……! まさか、炎の精霊と直接対話しているの!?」

(ただの強火から弱火への切り替えだよ)

炊き上がった米の香りが室内に広がると、生徒たちはそれだけで恍惚の表情を浮かべた。
俺は炊き立ての飯をボウルに移し、少し冷ましてから、手に塩をつける。
そして、適量を手に取り、三角形に整えていく。
日本のソウルフード、おにぎりだ。


ギュッ、ギュッ。

三回ほど、優しく、かつ確実に形を作る。
俺が完成したおにぎりを皿に置いた瞬間、調理室が静まり返った。

「……何、あれ。宝石?」

シャルロットが震える声で呟いた。

「白く輝く小石が、完璧な三角形に整列している……。接着剤も魔法も使わずに、どうして形を維持できているの……?」

「平沢様……。それは、伝説に聞く『聖なる多面体(ポリゴン)』ではございませんか?」

ミアが涙を流して拝み出した。

「あれはただの食べ物じゃないわ……。持つ者の精神を安定させ、空腹という概念を消し去る究極の魔道具よ!」

俺は困惑しながら、一つを剛田に差し出した。
「ほら、食ってみろよ」

「ア、アニキ……! 俺なんかがこんな神聖なものを口にしていいんすか!? 呪われませんか!?」

剛田は震える手でおにぎりを受け取ると、覚悟を決めてかぶりついた。
次の瞬間、彼の巨体がビクンと跳ね上がった。

「う、うおおおおおおおおっ!!」

剛田の咆哮が校舎を揺らす。

「美味い……! 美味すぎる! 口の中で米粒が一つずつ弾けて、俺の細胞を呼び覚ましていく! これ、ただの米じゃねぇ! 命の塊だぁぁぁっ!!」

「私にも! 私にも食べさせて!」
「拓海様の握った多面体、一生の宝物にしますわ!」

女子たちが一斉に俺に殺到した。
陽菜に至っては、俺が握った時の「手」を直接食べようとしてきたので、全力で回避した。

「拓海くん……! これを……これを私との結婚披露宴のメインディッシュにするって約束して!」

「拓海様、その『握り』の技術……今夜、私の部屋で……私のことも、優しく握ってくださる?」

シャルロットの爆弾発言に、再び調理室で戦争が始まった。
俺は騒ぎを避けるように、自分の分のおにぎりを口に運んだ。
うん、普通のおにぎりだ。

ただ米を研いで、手で丸めただけ。
なのに俺の「普通」は、この世界の食文化をも破壊し、新たな宗教を生み出してしまったらしい。
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