日本でモブだった俺、レベルの低すぎる異世界では「顔面国宝」兼「全知の賢者」らしい

葉山 乃愛

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第29話 転校生と「あっち向いてホイ」をしたら、絶対服従の呪術(ギアス)だと恐れられました

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「席についてもらおうか。今日は転校生を紹介する」

新学期初日。
松田先生の言葉で、教室のドアが開いた。
入ってきたのは、真紅のマントを羽織ったキザな男――夏祭りで俺に喧嘩を売ってきた、魔導師イグニスだった。

「フッ……。また会ったな、平沢拓海」

イグニスは教壇に立つなり、俺を指差した。

「俺の名はイグニス・フォン・ブレイズ。隣国の魔術学園を主席で卒業し、貴様を倒すためにわざわざこの平凡な学校に来てやったぞ!」

教室がざわめく。
女子たちが黄色い声を上げるかと思いきや、全員が冷ややかな目で見ている。
今のこのクラスにおけるヒエラルキーの頂点は、俺(というより俺の信者たち)だからだ。

「拓海様、あのような不躾な輩……消します?」

シャルロット王女が、笑顔で物騒なことを言いつつ、机の下で短剣を抜こうとしている。

「待て。……学校で殺生はダメだ」

俺が止めると、イグニスが俺の机の前まで歩いてきた。

「逃げるのか? 俺との『決闘』から」

イグニスが机をドンと叩く。

「ルールは簡単だ。俺の魔法がお前を焼き尽くすか、お前が土下座して謝るか……どちらかだ!」

「物騒だな……。決着なら、もっと平和な方法でつけようぜ」

俺は溜息をつきながら立ち上がった。

「『あっち向いてホイ』だ」

「あっち……ホイ? なんだその間抜けな名前の呪文は」

「互いに向き合い、指を指す。指された方向に顔を向けたら負け。……シンプルだろ?」

俺の説明に、周囲の空気が凍りついた。

「なっ……!?」

ミアが眼鏡をずり落とした。

「恐ろしい……。これは『精神支配(マインド・コントロール)』の儀式ですわ!」
「指先一つで相手の肉体を操り、意図しない方向へ首を捻じ曲げさせる……。拒否すれば頸椎が砕け散る、死のゲームよ!」

陽菜が青ざめて震えている。

「ふん、わけのわからん遊戯だが、受けてやろう。俺の精神力が貴様ごときに屈するはずがない!」

イグニスが自信満々に構えた。
まずは前提となるジャンケンだ。

「最初はグー、ジャンケン……ほい!」

俺:グー
イグニス:チョキ

「くっ、読み負けたか! だが、顔を動かさなければいいだけのこと!」

イグニスが歯を食いしばり、首にガチガチに力を込めた。
俺はゆっくりと人差し指を立てた。

「……あっち向いて」

俺の指が、イグニスの鼻先で揺れる。
こいつはプライドが高そうだ。
きっと「俺の指に従いたくない」という心理が働くはず。
だから、俺はあえて分かりやすく、ゆっくりと動作した。

「……ホイ!」

俺は指をバッ! と右に向けた。

その瞬間、イグニスの目が泳いだ。
俺の指の残像、そして「右を見ろ」という無言の圧力。
反射神経が良い奴ほど、動くものに反応してしまう。

グリンッ!

イグニスの首が、まるで何かに引っ張られるように、勢いよく右を向いた。

「なっ……!?」

イグニスは右を向いたまま、硬直した。

「バ、バカな……! 俺の意思とは関係なく……首が……!」

「はい、俺の勝ち」

俺が告げると、教室中から悲鳴が上がった。

「決まったぁぁぁぁっ!!」

剛田が絶叫した。

「完全なる支配! イグニスは抵抗しようとした! だが、アニキの指が放つ『絶対命令権』が、彼の脳神経をハッキングして強制的に右を向かせたんだ!」

「なんて強力な呪術(ギアス)なの……!」

シャルロットが涙目で俺の指を見つめる。

「あの指に『右』と命じられたら、たとえ崖があろうと地獄だろうと、右に進むしかない……。王の指は、世界の理すらねじ曲げるのですね!」

イグニスはその場に膝から崩れ落ちた。
脂汗をダラダラと流し、自分の首をさすっている。

「ありえない……。俺は炎の魔導師だぞ……。なのに、あの一瞬、貴様の指が『巨大な剣』に見えた……。避けなければ首を斬り落とされる……そう本能が理解してしまったんだ!」

「ただの指だよ」

「ひぃぃっ! 指一本で……指一本で俺を殺したというのか!?」

「殺してないって」

イグニスは恐怖で腰を抜かし、這うようにして後ずさった。

「か、勘違いするなよ! 今のはウォーミングアップだ! 次の『体育祭』で本当の勝負をつけてやる!」

イグニスはまたしても捨て台詞を吐いて、自分の席へと逃げ帰っていった。
こうして、俺の何気ない遊びは「絶対服従の指使い」として恐れられ、俺が指差し確認をするたびに、クラス全員が一斉にその方向を向くという奇妙な集団行動が生まれてしまった。
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