「中に出して。……お土産に持って帰りたいの」――上京前夜。ずっと好きだった幼馴染が、排卵検査薬を握りしめて俺のベッドに潜り込んできた。

ひふみ黒

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第1話 陽性反応と生足

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深夜二時。
 
世界で一番静かな時間は、鍵穴に金属が擦れる「カチャリ」という音で破られた。
 
俺、拓也は、布団の中で息を潜めた。
このアパートの合鍵を持っている人間は、世界に一人しかいない。
 
隣の家に住む、腐れ縁の幼馴染。
そして、明日の朝一番の新幹線で東京へ行ってしまう女――愛梨だ。
 
ギイィ、と蝶番が鳴く。
廊下を歩く足音がしない。裸足だ。
フローリングをペタ、ペタと踏む湿った音が、俺の枕元で止まった。
 
「……拓也。起きてるんでしょ?」
 
鼻にかかった、甘ったるい声。
寝たふりを続けるのは無理だった。俺は観念して、重たい瞼を開けた。
 
「……何時だと思ってんだよ。明日は早いんだろ」
 
月明かりが逆光になって、愛梨の顔は見えない。
だが、その異様な格好に、俺の思考はショートした。
 
上は、見慣れたヨレヨレのTシャツ。
だが、下は何も穿いていなかった。
 
健康的で、少し肉付きのいい太腿が露わになっている。
股間のあたりには、薄い陰毛の影と、そこから太腿を伝って垂れる「何か」が光っていた。
 
「お前……酒でも飲んだのか? 下、穿き忘れてんぞ」
 
俺が視線を逸らそうとすると、愛梨がガバリと布団に入ってきた。
石鹸の匂いじゃない。
もっと生臭くて、甘くて、脳髄を痺れさせるような「雌」の匂いが、俺の鼻腔を犯す。
 
「穿き忘れたんじゃないよ」
 
愛梨が俺の上に跨る。
柔らかい感触が、下腹部に押し当てられる。
 
「……邪魔だから、脱いできたの」
 
「は? お前、何言って……」
 
「見て」
 
愛梨が俺の顔の前に、細長い棒のようなものを突きつけた。
スマホの画面明かりで、それが何か分かった瞬間、背筋が凍った。
 
排卵検査薬。
判定窓には、くっきりと二本の線――陽性反応が出ていた。
 
「今日なの」
 
愛梨の瞳が、暗闇の中でギラリと光った。
それは幼馴染に向ける目じゃない。獲物を狙う獣の目であり、同時に、愛を乞う捨て犬の目でもあった。
 
「今日が一番、妊娠しやすい日なの」
 
「……だから、なんだよ。俺には関係ねぇだろ」
 
「関係あるよ!」
 
愛梨が叫んだ。俺の胸ぐらを掴む力が、痛いほど強い。
 
「明日、東京行くんだよ? もう会えないんだよ? 寂しいよ……私、一人で生きていける自信ないよ……っ」
 
大粒の涙が、俺の頬に落ちる。
 
「だから……お土産が欲しいの」
 
「……お土産?」
 
「拓也の赤ちゃん……私のお腹に入れて、持って帰りたいの」
 
狂ってる。
22年間、兄妹のように育ってきた俺たちだぞ?
妊娠? 赤ちゃん?
そんなことしたら、お前の人生も、俺の人生も滅茶苦茶になる。東京での就職も、未来も、全部台無しだ。
 
頭では分かっている。
拒絶しなければならない。
 
けれど。
 
目の前で泣きじゃくる愛梨の、露わになった秘部が、俺の理性を嘲笑っていた。
とぷ、とぷ、と愛液を溢れさせ、俺を受け入れる準備を完了させている「そこ」が、強烈な引力で俺を引きずり込む。
 
「……責任なんて、取らせないから」
 
愛梨が腰を沈めた。
亀頭が、熱くて濡れた肉の割れ目に触れる。
 
「誰にも言わない。一人で産んで、一人で育てる。……拓也は、気持ちよくなって、中に出すだけでいいの」
 
「……バカ野郎」
 
俺の手は、無意識に愛梨の腰を掴んでいた。
拒絶じゃない。
これ以上ないほど深く、彼女を串刺しにするための体勢を整えていた。
 
ずっと好きだった。
誰にも渡したくなかった。
東京なんて行かせたくなかった。
 
そのどす黒い独占欲が、「中出し」という暴虐な許可証を得て、爆発する。
 
「明日、歩けなくなっても知らねぇぞ」
 
「……望むところだよ。……いっぱい、注いで?」
 
ズプッ。
 
湿った音が、部屋に響いた。
それは、俺たちが「ただの幼馴染」を殺して、「共犯者」になった音だった。
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