嘘つきは英雄の始まり

葉山 乃愛

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第1話 その嘘は、現実(リアル)を侵食する

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「――殺せ。資源の無駄だ」


異世界に召喚されて、わずか3分。

俺、黒瀬カイト(27)に下されたのは「死刑判決」だった。


場所は、やたらとカビ臭い王城の広間。

目の前には、黄金の玉座にふんぞり返る豚のような国王と、俺をゴミを見るような目で見下ろす騎士たち。

俺の足元には、ついさっき俺の価値を測り終えた水晶玉が虚しく転がっている。


【名前:カイト 職業:村人 魔力:1】


日本で結婚詐欺から怪しい壺の販売まで、あらゆる嘘を武器に生きてきた俺だが、この世界の神様は俺以上に性格が悪いらしい。

両脇を騎士に固められ、冷たい剣先が首筋に食い込む。

皮膚が切れる痛み。ツー、と血が流れる感覚がリアルすぎて吐き気がする。


「ま、待ってください陛下! 俺にはまだ――」


「黙れ。魔力1の『村人』など、魔物の餌にもならん。即刻始末しろ」


国王がゴミを払うように手を振った。

騎士の腕がしなり、剣が高く振り上げられる。


死ぬ。

それも、こんなふざけた理由で。

そう直感した瞬間、頭の奥で不快な電子音が鳴り響いた。


《緊急インストール……完了》

《ユニークスキル【虚言現(リアル・ライ)】が覚醒しました》

《発動条件:対象があなたの嘘を「真実」だと信じ込むこと》

《効果:信じられている間のみ、その嘘を「現実」として固定する》


……は?


時が止まったように感じる。

嘘が、現実になる? 俺が相手を騙しきれば、それが本当になるってことか?


俺の唇が、勝手に弧を描いた。

震えが止まる。冷や汗が引く。

状況はクソだ。だが、「他人を騙す」という土俵において、俺に勝てる奴なんてこの世にいやしない。


「……クク、ハハハハハッ!!」


処刑寸前の男が突如として狂ったように高笑いを始めたことに、騎士たちが気味悪がって動きを止める。

俺はゆっくりと顔を上げ、騎士ではなく、玉座の王を射抜くように見据えた。

詐欺師の基本テクニックその1。『相手の不安を煽り、主導権を奪え』。


「哀れだなあ、この国の王は。そんな『不良品』を信じて、国宝をドブに捨てるとは」


「……不良品、だと?」


王の眉がピクリと動く。食いついた。

俺は神官が大事そうに抱えている水晶玉を、顎でしゃくって見せた。


「おい神官。その水晶玉、ずいぶん古そうだが……まさか測定限界が『100』とかじゃないだろうな?」


神官は顔を真っ赤にして叫んだ。

「ぶ、無礼な! これは古代遺跡から発掘された国宝級の魔道具だ! 『五桁』までの魔力を正確に弾き出す!」


五桁。つまり一万以上か。

よし、情報は引き出した。あとは料理するだけだ。


「そうか。だから俺が『1』と表示されたんだな」


俺はニヤリと笑い、両手を広げて見せた。


「俺の魔力はな、53万だ」


何の根拠もないデタラメを、さも真実であるかのように吐き捨てる。


「そのポンコツじゃ測定しきれずに、50周回って『1』と表示されたんだよ! 桁溢れ(オーバーフロー)も知らんのか!」


「ば、馬鹿な! 人間ごときがそんな魔力を……!」


「信じないか? なら試してみろ」


俺は一歩、前へ踏み出す。

心臓は破裂しそうだ。もし「嘘だ」と見抜かれたら即死。

だが、俺は最強のポーカーフェイスで、ハッタリを重ねる。


「俺が本気で魔力を解放すれば、この城ごと王都は消し飛ぶ。……俺を殺すなら殺せ。だがその瞬間、俺の魔力が暴走して、貴様らも全員道連れだ!!」


王の目に「恐怖」が走る。騎士たちが後ずさる。

(こいつの態度……まさか、本当なのか?)


その疑念が、確信に変わる瞬間。


《信仰率45%……60%……判定成功》

《事象改変を開始します》


ズズズズズッ……!!


突如、城全体が激震に見舞われた。

俺の体から、視界を覆い尽くすほどの漆黒のオーラ(ただの幻影)が噴き出し、天井の豪華なシャンデリアが粉々に砕け散る。

窓の外、晴天だった空が一瞬で闇に染まり、ドス黒い雷が落ちた。


「ひ、ひいいぃぃっ!?」

「本当だ! 測定不能の化け物だ!!」

「お助けください! どうかお鎮まりを!!」


騎士たちは剣を捨てて平伏し、さっきまで威張っていた神官は腰を抜かして失禁した。

国王でさえ、玉座から転がり落ちて震えている。


俺は内心で(危っぶねええええ!! 足ガクガクなんだけど!?)と絶叫しながら、表面上は冷徹な魔王のように腕を組んだ。


「……分かればいい。詫びとして、最高級の酒と部屋を用意しろ。話はそれからだ」


――勝った。

俺は安堵のため息をつこうとした。

だが、その時だ。


バンッ!!


大広間の扉が乱暴に開かれた。

血まみれの伝令兵が、転がるように飛び込んでくる。


「へ、陛下! 大変です!! 城門前に『本物のドラゴン』が現れました!!」


「な、なんだと!?」


「ドラゴンはこう言っています! 『城内に強大な魔力を感じた。我より強いオスがいるなら、喰い殺してやる』と!!」


王と家臣たちの視線が、一斉に俺に突き刺さる。

期待と、尊敬と、依存の眼差し。


「おお……!! なんというタイミング!」

「カイト様! あなた様の強大な魔力に惹かれて、ドラゴンが来たのです!」

「さあカイト様! あのようなトカゲ風情、指先ひとつで消し炭にしてやってください!!」


……は?


俺の頬が引きつる。

いや、無理だろ。

俺の強さは「嘘」だ。

「城を消し飛ばす」という嘘は現実になったが、それはあくまで「現象」の話。

俺自身はレベル1の村人のままだぞ!?


だが、今さら「できません」と言えば?

嘘がバレて、スキル解除。ドラゴンの前に突き出されて終わりだ。


やるしかない。

俺は震える膝をマントで隠し、絶望的な笑顔で振り返った。


「……やれやれ。到着早々、準備運動にもならんわ」


レベル1の詐欺師 vs 本物のドラゴン。

バレたら即死の、最悪な異世界生活が始まった。
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