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第2話 最強のドラゴンに「お座り」と言ってみた
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「……デカすぎだろ、ふざけんなよ」
王城の跳ね橋の上。
俺、黒瀬カイトは、乾いた笑いを漏らすことしかできなかった。
目の前には、視界を完全に覆い尽くす真紅の絶望。
全身から溶岩のような熱気を撒き散らす、正真正銘のドラゴンだ。
吐く息だけで硫黄の臭いが鼻をつき、俺の眉毛がチリチリと焦げるのがわかる。
『グルルルゥ……。貴様か? 城内から放たれた強大な魔力の主は』
ドラゴンの低い唸り声だけで、大気がビリビリと震え、鼓膜が破れそうだ。
背後の安全地帯(城壁)では、この状況を作った元凶である国王たちが、ガタガタ震えながら見物している。
「カイト様……! 頼みます、あのような化け物、一撃で葬ってください!」
「我らが救世主の力、とくと見せてやれ!」
無責任な声援が背中に突き刺さる。
やかましい。お前らが戦えよ。
俺の背中は冷や汗でグショグショだ。こっちは魔力1の村人なんだぞ。勝てるわけがない。
逃げたい。今すぐ土下座して靴を舐めてでも助かりたい。
だが、後ろを見れば騎士団が弓を構えている。前にはドラゴン。
どっちに転んでも「死」だ。
俺に残された武器は、ふざけたスキル【虚言現(リアル・ライ)】と、ペラペラの舌一枚だけ。
『……人間風情が。なぜ武器を抜かぬ?』
ドラゴンが怪訝そうに目を細めた。
チャンスだ。
相手が「疑問」を持ったということは、まだ「対話」のテーブルに乗っているということだ。
俺は恐怖で笑い出しそうな膝を、無理やり「武者震い」に見えるよう堂々と踏み出した。
そして、わざとらしく大きなあくびを噛み殺してみせる。
詐欺師の鉄則その2。『逃げ場がない時ほど、余裕を見せろ』。
「……あーあ。せっかくの昼寝が台無しだ」
俺はドラゴンの鼻先5メートル――吐息で火傷しそうな距離まで近づき、ゴミを見るような目で彼を見上げた。
『なんだと?』
「武器? 必要ない。たかがトカゲ一匹殺すのに、わざわざ道具を使う人間がいるか?」
俺はポケットに手を突っ込み、もっとも無防備な腹を晒す。
「3秒やる。その間に尻尾を巻いて消えろ。……さもなくば、この大陸の生態系から『ドラゴン』という種族が絶滅することになるぞ」
『ぬかせぇぇぇぇッ!!』
ドラゴンの逆鱗に触れた。
巨大な口が開き、喉の奥で灼熱の炎が渦を巻く。
ブレスが来る。死ぬ。骨も残らない。
俺の本能が「逃げろ」と警鐘を鳴らす。だが、俺は石のように動かない。
ここで防御姿勢を取れば、「攻撃を恐れている」と見抜かれて終わる。
(信じろ……! 俺は最強だ。俺の周囲には、何人たりとも侵せない『絶対不可侵の結界』がある!)
俺は心の中で必死に念じ、口に出してハッタリを叫んだ。
「吐いてみろ! その瞬間、自分の炎が逆流して自滅するのはお前だぞ!!」
ドラゴンの動きが一瞬、ピタリと止まる。
生物としての本能的な警戒。
「こいつ、なぜ死を前にして棒立ちなのか?」という違和感。
(迷ったな? そこが付け入る隙だ!)
俺は畳み掛ける。相手に考える隙を与えるな。
「気づかないか? 俺はすでに、お前の心臓に『魔法の楔』を打ち込んでいる」
『な、に……?』
「俺が指を鳴らせば、お前の心臓は内側から破裂する。……自分の胸に聞いてみろ」
俺は右手を高く掲げ、指を鳴らす構えを取った。
ドラゴンの瞳孔が開く。
今のハッタリで、奴は無意識に自分の胸の鼓動を意識したはずだ。
「ドクン」という普段通りの鼓動が、恐怖というフィルターを通すことで「違和感」に変わる。
《信仰率30%……55%……判定成功》
《嘘現出:対象に『死の予兆』を植え付けます》
『ガッ……!? ぐ、うぅ……ッ!?』
突如、ドラゴンが胸を押さえて苦悶の声を上げた。
実際には何もしていない。俺はただ立っているだけだ。
だが、奴が「心臓を握られている」と信じた瞬間、スキルが現実の激痛を作り出したのだ。
「遅い。しつけが必要だな」
俺は冷酷に言い放ち、パチン! と指を鳴らした。
『ギャアアアアアッ!!』
激痛がドラゴンを襲う(と錯覚している)。
山のような巨体が地面に崩れ落ち、凄まじい地響きが鳴った。
『ま、待て! 降参だ! なんだこの力は……魔法の痕跡すら感じなかったぞ!?』
「魔法? 違うな。これは『支配』だ」
俺は倒れたドラゴンの眼前に立ち、低く囁いた。
「お座り」
『……ッ!?』
「聞こえなかったか? ハウス」
プライド高きドラゴンが、屈辱に顔を歪める。
だが、心臓を握られている(という嘘)恐怖には勝てない。
ズズズ……。
巨大なドラゴンが、おずおずと後ろ足を折り、犬のように地面に座った。
静寂。
そして、城壁から爆発的な歓声が上がった。
「す、すげえええええ!!」
「ドラゴンを手懐けたぞ!」
「カイト様万歳! 最強の英雄万歳!」
俺は内心で(心臓止まるかと思った……今すぐトイレ行きたい……)とへたり込みそうになる足を必死で支え、ドラゴンに背を向けた。
「……興が冷めた。命だけは拾ったな、トカゲ」
さあ、これで一件落着だ。
城に戻って、この震えを止めるために高い酒でも飲もう。
そう思った、次の瞬間だった。
ボムッ!!
背後で白い煙が上がった。
『……見事です、我が主(マスター)』
凛とした、鈴を転がすような女の声。
俺が恐る恐る振り返ると――。
そこには、巨大なドラゴンの姿はなかった。
代わりに、燃えるような赤い長髪に、真紅のドレスを纏った美女が跪いていた。
頭には二本の角。背中には小さな翼。
間違いなく、さっきのドラゴンだ。
「……は?」
彼女は頬を紅潮させ、潤んだ瞳で俺を見上げ、とんでもないことを言った。
「これほど圧倒的な『雄』に敗北したのは初めて……♡ 竜の掟に従い、私はあなた様の『伴侶(妻)』となります」
「は?」
「さあマスター、今すぐ契約の儀式(キス)を! そして末永く、死が二人を分かつまで離れませぬ!」
美女が感極まって俺に抱きついてくる。
「ぐえっ……!?」
ミシミシッ!!
俺の背骨から、聞いてはいけない音がした。
柔らかい感触? そんなもの楽しむ余裕はない。
万力で締め上げられているような、致死レベルのパワーだ。
(痛い痛い痛い! 折れる! 背骨が粉になる!!)
城壁からは「おおお! 英雄様、ドラゴンを嫁にするとは!」と冷やかしの声。
待て。待ってくれ。
俺はレベル1の貧弱一般人だぞ?
こんな馬鹿力女と結婚してみろ。
「あなた~♡」とハグされただけで、俺の上半身と下半身がサヨナラすることになるぞ!?
「ちょ、離せ! 苦し……!」
「まあ、照れていらっしゃるのですか? 可愛らしい♡ 一生愛しますわ!!」
「ぎゃあああああああ!!」
だめだ、完全に信じきっている上に、話が通じない。
最強の詐欺師カイト。
ドラゴンを倒した結果、「物理的に愛が重すぎる嫁」に命を脅かされることになった。
王城の跳ね橋の上。
俺、黒瀬カイトは、乾いた笑いを漏らすことしかできなかった。
目の前には、視界を完全に覆い尽くす真紅の絶望。
全身から溶岩のような熱気を撒き散らす、正真正銘のドラゴンだ。
吐く息だけで硫黄の臭いが鼻をつき、俺の眉毛がチリチリと焦げるのがわかる。
『グルルルゥ……。貴様か? 城内から放たれた強大な魔力の主は』
ドラゴンの低い唸り声だけで、大気がビリビリと震え、鼓膜が破れそうだ。
背後の安全地帯(城壁)では、この状況を作った元凶である国王たちが、ガタガタ震えながら見物している。
「カイト様……! 頼みます、あのような化け物、一撃で葬ってください!」
「我らが救世主の力、とくと見せてやれ!」
無責任な声援が背中に突き刺さる。
やかましい。お前らが戦えよ。
俺の背中は冷や汗でグショグショだ。こっちは魔力1の村人なんだぞ。勝てるわけがない。
逃げたい。今すぐ土下座して靴を舐めてでも助かりたい。
だが、後ろを見れば騎士団が弓を構えている。前にはドラゴン。
どっちに転んでも「死」だ。
俺に残された武器は、ふざけたスキル【虚言現(リアル・ライ)】と、ペラペラの舌一枚だけ。
『……人間風情が。なぜ武器を抜かぬ?』
ドラゴンが怪訝そうに目を細めた。
チャンスだ。
相手が「疑問」を持ったということは、まだ「対話」のテーブルに乗っているということだ。
俺は恐怖で笑い出しそうな膝を、無理やり「武者震い」に見えるよう堂々と踏み出した。
そして、わざとらしく大きなあくびを噛み殺してみせる。
詐欺師の鉄則その2。『逃げ場がない時ほど、余裕を見せろ』。
「……あーあ。せっかくの昼寝が台無しだ」
俺はドラゴンの鼻先5メートル――吐息で火傷しそうな距離まで近づき、ゴミを見るような目で彼を見上げた。
『なんだと?』
「武器? 必要ない。たかがトカゲ一匹殺すのに、わざわざ道具を使う人間がいるか?」
俺はポケットに手を突っ込み、もっとも無防備な腹を晒す。
「3秒やる。その間に尻尾を巻いて消えろ。……さもなくば、この大陸の生態系から『ドラゴン』という種族が絶滅することになるぞ」
『ぬかせぇぇぇぇッ!!』
ドラゴンの逆鱗に触れた。
巨大な口が開き、喉の奥で灼熱の炎が渦を巻く。
ブレスが来る。死ぬ。骨も残らない。
俺の本能が「逃げろ」と警鐘を鳴らす。だが、俺は石のように動かない。
ここで防御姿勢を取れば、「攻撃を恐れている」と見抜かれて終わる。
(信じろ……! 俺は最強だ。俺の周囲には、何人たりとも侵せない『絶対不可侵の結界』がある!)
俺は心の中で必死に念じ、口に出してハッタリを叫んだ。
「吐いてみろ! その瞬間、自分の炎が逆流して自滅するのはお前だぞ!!」
ドラゴンの動きが一瞬、ピタリと止まる。
生物としての本能的な警戒。
「こいつ、なぜ死を前にして棒立ちなのか?」という違和感。
(迷ったな? そこが付け入る隙だ!)
俺は畳み掛ける。相手に考える隙を与えるな。
「気づかないか? 俺はすでに、お前の心臓に『魔法の楔』を打ち込んでいる」
『な、に……?』
「俺が指を鳴らせば、お前の心臓は内側から破裂する。……自分の胸に聞いてみろ」
俺は右手を高く掲げ、指を鳴らす構えを取った。
ドラゴンの瞳孔が開く。
今のハッタリで、奴は無意識に自分の胸の鼓動を意識したはずだ。
「ドクン」という普段通りの鼓動が、恐怖というフィルターを通すことで「違和感」に変わる。
《信仰率30%……55%……判定成功》
《嘘現出:対象に『死の予兆』を植え付けます》
『ガッ……!? ぐ、うぅ……ッ!?』
突如、ドラゴンが胸を押さえて苦悶の声を上げた。
実際には何もしていない。俺はただ立っているだけだ。
だが、奴が「心臓を握られている」と信じた瞬間、スキルが現実の激痛を作り出したのだ。
「遅い。しつけが必要だな」
俺は冷酷に言い放ち、パチン! と指を鳴らした。
『ギャアアアアアッ!!』
激痛がドラゴンを襲う(と錯覚している)。
山のような巨体が地面に崩れ落ち、凄まじい地響きが鳴った。
『ま、待て! 降参だ! なんだこの力は……魔法の痕跡すら感じなかったぞ!?』
「魔法? 違うな。これは『支配』だ」
俺は倒れたドラゴンの眼前に立ち、低く囁いた。
「お座り」
『……ッ!?』
「聞こえなかったか? ハウス」
プライド高きドラゴンが、屈辱に顔を歪める。
だが、心臓を握られている(という嘘)恐怖には勝てない。
ズズズ……。
巨大なドラゴンが、おずおずと後ろ足を折り、犬のように地面に座った。
静寂。
そして、城壁から爆発的な歓声が上がった。
「す、すげえええええ!!」
「ドラゴンを手懐けたぞ!」
「カイト様万歳! 最強の英雄万歳!」
俺は内心で(心臓止まるかと思った……今すぐトイレ行きたい……)とへたり込みそうになる足を必死で支え、ドラゴンに背を向けた。
「……興が冷めた。命だけは拾ったな、トカゲ」
さあ、これで一件落着だ。
城に戻って、この震えを止めるために高い酒でも飲もう。
そう思った、次の瞬間だった。
ボムッ!!
背後で白い煙が上がった。
『……見事です、我が主(マスター)』
凛とした、鈴を転がすような女の声。
俺が恐る恐る振り返ると――。
そこには、巨大なドラゴンの姿はなかった。
代わりに、燃えるような赤い長髪に、真紅のドレスを纏った美女が跪いていた。
頭には二本の角。背中には小さな翼。
間違いなく、さっきのドラゴンだ。
「……は?」
彼女は頬を紅潮させ、潤んだ瞳で俺を見上げ、とんでもないことを言った。
「これほど圧倒的な『雄』に敗北したのは初めて……♡ 竜の掟に従い、私はあなた様の『伴侶(妻)』となります」
「は?」
「さあマスター、今すぐ契約の儀式(キス)を! そして末永く、死が二人を分かつまで離れませぬ!」
美女が感極まって俺に抱きついてくる。
「ぐえっ……!?」
ミシミシッ!!
俺の背骨から、聞いてはいけない音がした。
柔らかい感触? そんなもの楽しむ余裕はない。
万力で締め上げられているような、致死レベルのパワーだ。
(痛い痛い痛い! 折れる! 背骨が粉になる!!)
城壁からは「おおお! 英雄様、ドラゴンを嫁にするとは!」と冷やかしの声。
待て。待ってくれ。
俺はレベル1の貧弱一般人だぞ?
こんな馬鹿力女と結婚してみろ。
「あなた~♡」とハグされただけで、俺の上半身と下半身がサヨナラすることになるぞ!?
「ちょ、離せ! 苦し……!」
「まあ、照れていらっしゃるのですか? 可愛らしい♡ 一生愛しますわ!!」
「ぎゃあああああああ!!」
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