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第6話 最強のドラゴン vs 狂信者の聖女
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「死になさい、泥棒猫」
「貴方こそ消えなさい、トカゲ女」
王城の謁見の間が、崩壊寸前だった。
俺、黒瀬カイトは、部屋の隅っこにある柱の陰でガタガタ震えていた。
目の前では、二人の美女が対峙している。
一人は、真紅のドレスを纏った元ドラゴンのルビィ。
もう一人は、純白の修道服に身を包んだ聖女エリス。
ルビィの背後には、城の壁を溶かすほどの灼熱の炎が渦巻き、
エリスの背後には、網膜を焼くほどの神々しい光がスパークしている。
物理最強 vs 精神最強。
この世の終わりみたいな光景だ。
「カイト様は、私を選びました! 昨夜、私の上で『背骨が折れるかと思った』と愛を囁いてくださいました!」
「あら、聞き間違いでは? カイト様はさきほど、私の信仰心に打たれて『鏡が割れた』と感動しておられました!」
やめてくれ。
どっちも事実だけど、ニュアンスが致命的に間違ってる。
背骨は本当に折れかけたし、鏡はただの事故だ。
「ええい、口で言っても無駄ですね! 燃やして差し上げますわ!」
「神罰を下します!」
ドオオオオオオンッ!!
炎と光が激突し、爆風が広間を吹き荒れる。
衛兵たちが悲鳴を上げて吹き飛んでいく中、俺は必死に柱にしがみついていた。
(……誰か助けて。警察呼んで)
このままだと、俺の死因は「痴話喧嘩の巻き添え」になる。
伝説の英雄の最期としては、あまりにも情けなさすぎる。
「カイト様!」
不意に、二人が同時に俺を振り返った。
殺意に満ちた目で互いを睨み合ったまま、甘い声で問いかけてくる。
「選んでくださいまし! 世界を灰にできる私と、世界を癒やせるこの女。……どちらが『正妻』にふさわしいか!」
「カイト様……。神の代弁者である私を選びますよね? もしトカゲを選ぶというなら……その穢れた眼球を『浄化』しなければなりません」
詰んだ。
ルビィを選べば、エリスに目を潰される。
エリスを選べば、ルビィに焼かれる。
沈黙すれば、二人同時に攻撃される。
逃げ場なし。
俺の脳細胞が、フル回転で「生き残るための嘘」を検索する。
詐欺師の鉄則その5。『二者択一を迫られたら、第三の選択肢(スケールアップ)で煙に負け』。
俺は震える膝を隠し、マントを翻して二人の間に割って入った。
「……やめろ」
俺は、あえて「呆れた」ようにため息をついた。
「カイト様……?」
「……くだらん。実にくだらん争いだ」
俺は両手を広げ、天を仰いだ。
「俺の『器』が、たかだか一人の女で満たされると思っているのか?」
「えっ?」
「俺は『神』に近づいた男だぞ? 竜の武力も、聖女の癒やしも、俺にとっては『右腕』と『左腕』に過ぎん」
俺は二人の顔を交互に見つめ、傲慢に言い放った。
「どちらかを選ぶ? 笑わせるな。……『両方』だ」
最低のセリフだ。
日本で言えば、結婚詐欺師が一番口にしてはいけない言葉、「二人とも愛してる」だ。
だが、この状況では「英雄の豪快さ」に変換される……はず!
一瞬の沈黙。
そして。
「「……はぅっ♡」」
二人の美女が、同時に頬を染めて崩れ落ちた。
「さ、さすがはマスター……! 一夫一妻などという人間の小さな常識には縛られないのですわ!」
「なんて慈悲深い……! トカゲごときと共に愛してくださるなんて、まさに神の愛……!」
成功した。
チョロすぎて逆に不安になるが、とりあえず命は助かった。
「わかりましたわ! では、私が『第一夫人』ということで手を打ちましょう!」
「あら、譲りませんよ? 私が正妻で、あなたがペットです」
バチバチバチッ!
火花は散っているが、さっきまでの「殺し合い」からはランクダウンしたようだ。
俺は額の冷や汗を拭った。
(……ふぅ。これで今夜は安眠できるか……?)
そう思った、その時だった。
ヒュンッ!!
俺の背後の影から、鋭い殺気が走った。
暗殺者だ。
この騒ぎに乗じて、天井裏から忍び寄っていた黒い影が、俺の首めがけて短剣を振り下ろしていた。
(――見えなかっ……!?)
反応できない。死ぬ。
俺が「死」を自覚するより速く。
ドゴォッ!!
パァァァンッ!!
二つの衝撃音が重なった。
「……この、泥棒猫ォォォォッ!!!」
「害虫がぁぁぁぁっ!!!」
ルビィの裏拳と、エリスの光魔法が、同時に暗殺者に直撃していた。
痴話喧嘩でテンションが最高潮に達していた二人は、「俺に近づく新しい女(または敵)」に対して、過剰なまでの反応速度を見せたのだ。
「あ、ガ……ッ!?」
暗殺者は、断末魔を上げる暇もなかった。
ルビィの拳で肋骨が粉砕され、エリスの魔法で魂ごと浄化され、ボロ雑巾のように壁に叩きつけられた。
シーン……。
静まり返る広間。
壁にめり込んだ哀れな暗殺者(だったもの)を見て、俺は顔面蒼白になった。
あの一撃、俺が食らっていたらミンチになっていたぞ。
「あら? 虫がいましたわ」
「汚らわしい。カイト様に触れようとするなど、万死に値します」
二人は何事もなかったかのように、ニッコリと微笑んで俺に向き直った。
「さあカイト様。邪魔者は消えました。……寝室へ行きましょう?」
「いいえ、沐浴が先です。私が背中を流します(聖水で)」
二人に両腕をガッチリと掴まれる。
万力のような力(ルビィ)と、呪いのような重圧(エリス)。
俺、黒瀬カイト。
最強の矛と、最強の盾を手に入れた結果。
身動きが一切取れなくなりました。
「貴方こそ消えなさい、トカゲ女」
王城の謁見の間が、崩壊寸前だった。
俺、黒瀬カイトは、部屋の隅っこにある柱の陰でガタガタ震えていた。
目の前では、二人の美女が対峙している。
一人は、真紅のドレスを纏った元ドラゴンのルビィ。
もう一人は、純白の修道服に身を包んだ聖女エリス。
ルビィの背後には、城の壁を溶かすほどの灼熱の炎が渦巻き、
エリスの背後には、網膜を焼くほどの神々しい光がスパークしている。
物理最強 vs 精神最強。
この世の終わりみたいな光景だ。
「カイト様は、私を選びました! 昨夜、私の上で『背骨が折れるかと思った』と愛を囁いてくださいました!」
「あら、聞き間違いでは? カイト様はさきほど、私の信仰心に打たれて『鏡が割れた』と感動しておられました!」
やめてくれ。
どっちも事実だけど、ニュアンスが致命的に間違ってる。
背骨は本当に折れかけたし、鏡はただの事故だ。
「ええい、口で言っても無駄ですね! 燃やして差し上げますわ!」
「神罰を下します!」
ドオオオオオオンッ!!
炎と光が激突し、爆風が広間を吹き荒れる。
衛兵たちが悲鳴を上げて吹き飛んでいく中、俺は必死に柱にしがみついていた。
(……誰か助けて。警察呼んで)
このままだと、俺の死因は「痴話喧嘩の巻き添え」になる。
伝説の英雄の最期としては、あまりにも情けなさすぎる。
「カイト様!」
不意に、二人が同時に俺を振り返った。
殺意に満ちた目で互いを睨み合ったまま、甘い声で問いかけてくる。
「選んでくださいまし! 世界を灰にできる私と、世界を癒やせるこの女。……どちらが『正妻』にふさわしいか!」
「カイト様……。神の代弁者である私を選びますよね? もしトカゲを選ぶというなら……その穢れた眼球を『浄化』しなければなりません」
詰んだ。
ルビィを選べば、エリスに目を潰される。
エリスを選べば、ルビィに焼かれる。
沈黙すれば、二人同時に攻撃される。
逃げ場なし。
俺の脳細胞が、フル回転で「生き残るための嘘」を検索する。
詐欺師の鉄則その5。『二者択一を迫られたら、第三の選択肢(スケールアップ)で煙に負け』。
俺は震える膝を隠し、マントを翻して二人の間に割って入った。
「……やめろ」
俺は、あえて「呆れた」ようにため息をついた。
「カイト様……?」
「……くだらん。実にくだらん争いだ」
俺は両手を広げ、天を仰いだ。
「俺の『器』が、たかだか一人の女で満たされると思っているのか?」
「えっ?」
「俺は『神』に近づいた男だぞ? 竜の武力も、聖女の癒やしも、俺にとっては『右腕』と『左腕』に過ぎん」
俺は二人の顔を交互に見つめ、傲慢に言い放った。
「どちらかを選ぶ? 笑わせるな。……『両方』だ」
最低のセリフだ。
日本で言えば、結婚詐欺師が一番口にしてはいけない言葉、「二人とも愛してる」だ。
だが、この状況では「英雄の豪快さ」に変換される……はず!
一瞬の沈黙。
そして。
「「……はぅっ♡」」
二人の美女が、同時に頬を染めて崩れ落ちた。
「さ、さすがはマスター……! 一夫一妻などという人間の小さな常識には縛られないのですわ!」
「なんて慈悲深い……! トカゲごときと共に愛してくださるなんて、まさに神の愛……!」
成功した。
チョロすぎて逆に不安になるが、とりあえず命は助かった。
「わかりましたわ! では、私が『第一夫人』ということで手を打ちましょう!」
「あら、譲りませんよ? 私が正妻で、あなたがペットです」
バチバチバチッ!
火花は散っているが、さっきまでの「殺し合い」からはランクダウンしたようだ。
俺は額の冷や汗を拭った。
(……ふぅ。これで今夜は安眠できるか……?)
そう思った、その時だった。
ヒュンッ!!
俺の背後の影から、鋭い殺気が走った。
暗殺者だ。
この騒ぎに乗じて、天井裏から忍び寄っていた黒い影が、俺の首めがけて短剣を振り下ろしていた。
(――見えなかっ……!?)
反応できない。死ぬ。
俺が「死」を自覚するより速く。
ドゴォッ!!
パァァァンッ!!
二つの衝撃音が重なった。
「……この、泥棒猫ォォォォッ!!!」
「害虫がぁぁぁぁっ!!!」
ルビィの裏拳と、エリスの光魔法が、同時に暗殺者に直撃していた。
痴話喧嘩でテンションが最高潮に達していた二人は、「俺に近づく新しい女(または敵)」に対して、過剰なまでの反応速度を見せたのだ。
「あ、ガ……ッ!?」
暗殺者は、断末魔を上げる暇もなかった。
ルビィの拳で肋骨が粉砕され、エリスの魔法で魂ごと浄化され、ボロ雑巾のように壁に叩きつけられた。
シーン……。
静まり返る広間。
壁にめり込んだ哀れな暗殺者(だったもの)を見て、俺は顔面蒼白になった。
あの一撃、俺が食らっていたらミンチになっていたぞ。
「あら? 虫がいましたわ」
「汚らわしい。カイト様に触れようとするなど、万死に値します」
二人は何事もなかったかのように、ニッコリと微笑んで俺に向き直った。
「さあカイト様。邪魔者は消えました。……寝室へ行きましょう?」
「いいえ、沐浴が先です。私が背中を流します(聖水で)」
二人に両腕をガッチリと掴まれる。
万力のような力(ルビィ)と、呪いのような重圧(エリス)。
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