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第14話:愛は呪いよりも強固に、魂を繋ぐ
その日は、帝国の建国を祝う記念日の前夜だった。
ゼノス様と過ごす穏やかな時間の中、突如として私の心臓が、
焼けるような熱を帯びて激しく脈打ち始めた。
(……っ、これは……血の、脈動?)
視界が真っ赤に染まり、自分の中の銀の魔力が、
どす黒い憎悪の色に染め変えられていくのが分かった。
「――シエラ!? どうした、しっかりしろ!」
ゼノス様が私の肩を掴むが、その瞬間に私の体から、
彼を拒絶するような破壊的な衝撃波が放たれた。
「……っ、来ないで……陛下、離れてください!」
それは、リリアーヌが自らの命を削って発動させた、ベルフォート家の禁呪。
「血を分けた同族を、内側から自壊させる」という、最悪の道連れ。
私の魔力が暴走し、離宮の床がひび割れ、窓ガラスが砕け散る。
私の意思に反して、私の力が、愛するゼノス様を傷つけようとしていた。
その時、ルミナス王国の廃墟から、リリアーヌの呪詛が響いてきた。
『あははは! お姉様、苦しいでしょう?
その男も、あんたの魔力でズタズタになればいいわ!
私を捨てた報いよ! 一緒に地獄へ堕ちましょう!』
「黙れ、羽虫が」
ゼノス様が、低く、冷徹な声で一蹴した。
彼は、荒れ狂う私の魔力の奔流を正面から受け、
服が裂け、肌から血を流しながらも、一歩も引かずに私を抱きしめた。
「陛下……! 離れて、死んでしまいます……!」
「死ぬだと? お前の愛がこの程度で俺を殺せると思うか」
ゼノス様は、苦悶に歪む私の頬を大きな手で包み込み、
逃げ場を塞ぐように、深く、激しい口づけを落とした。
「シエラ、俺を見ろ。
お前の血が呪われているというなら、俺の血ですべて書き換えてやる」
ゼノス様は自らの腕を傷つけ、溢れ出した漆黒の魔力を、
口づけを通じて私の中へと直接流し込んできた。
帝国の「黒狼」の血と、私の「銀」の魔力が、私の中で激しくぶつかり合い――。
次の瞬間。
どす黒い呪いは、二人の魔力が溶け合った「黄金の光」に飲み込まれ、
跡形もなく霧散していった。
「が……あ、あああああッ!?」
遠い空の下、呪いを跳ね返されたリリアーヌの絶叫が聞こえた。
自業自得。呪術の代償として、彼女の体は自分自身の憎悪に焼き尽くされ、
今度こそ、歴史の塵となって消えていった。
静寂が戻った部屋で、私はゼノス様の腕の中で激しく息をついた。
「……終わった。もう、お前を縛る鎖はどこにもない」
ゼノス様は、傷ついた腕など気にする様子もなく、
私の目尻に溜まった涙を指で拭った。
「陛下……どうして、あんな無茶を……」
「お前を失うことに比べれば、腕の一本や二本、安いものだ」
彼は私を横抱きにし、荒らされた寝室のベッドへと静かに横たえた。
その瞳には、先ほどまでの破壊的な熱ではなく、
底なしの愛しさと、恐ろしいほどの独占欲が宿っている。
「シエラ。お前の中に、俺の血が混ざった。
これでもう、死が二人を分かつまで……いや、死んでもお前は俺のものだ」
「……はい。私も、あなたのいない天国より、あなたのいる場所を選びます」
窓の外では、建国記念の祝砲が夜空を彩り始めていた。
呪縛を乗り越え、真に一つとなった私たちは、
世界で最も美しく、そして最も苛烈な絆で結ばれた。
もう、私たちを揺るがすものは、この世界のどこにも存在しない。
ゼノス様と過ごす穏やかな時間の中、突如として私の心臓が、
焼けるような熱を帯びて激しく脈打ち始めた。
(……っ、これは……血の、脈動?)
視界が真っ赤に染まり、自分の中の銀の魔力が、
どす黒い憎悪の色に染め変えられていくのが分かった。
「――シエラ!? どうした、しっかりしろ!」
ゼノス様が私の肩を掴むが、その瞬間に私の体から、
彼を拒絶するような破壊的な衝撃波が放たれた。
「……っ、来ないで……陛下、離れてください!」
それは、リリアーヌが自らの命を削って発動させた、ベルフォート家の禁呪。
「血を分けた同族を、内側から自壊させる」という、最悪の道連れ。
私の魔力が暴走し、離宮の床がひび割れ、窓ガラスが砕け散る。
私の意思に反して、私の力が、愛するゼノス様を傷つけようとしていた。
その時、ルミナス王国の廃墟から、リリアーヌの呪詛が響いてきた。
『あははは! お姉様、苦しいでしょう?
その男も、あんたの魔力でズタズタになればいいわ!
私を捨てた報いよ! 一緒に地獄へ堕ちましょう!』
「黙れ、羽虫が」
ゼノス様が、低く、冷徹な声で一蹴した。
彼は、荒れ狂う私の魔力の奔流を正面から受け、
服が裂け、肌から血を流しながらも、一歩も引かずに私を抱きしめた。
「陛下……! 離れて、死んでしまいます……!」
「死ぬだと? お前の愛がこの程度で俺を殺せると思うか」
ゼノス様は、苦悶に歪む私の頬を大きな手で包み込み、
逃げ場を塞ぐように、深く、激しい口づけを落とした。
「シエラ、俺を見ろ。
お前の血が呪われているというなら、俺の血ですべて書き換えてやる」
ゼノス様は自らの腕を傷つけ、溢れ出した漆黒の魔力を、
口づけを通じて私の中へと直接流し込んできた。
帝国の「黒狼」の血と、私の「銀」の魔力が、私の中で激しくぶつかり合い――。
次の瞬間。
どす黒い呪いは、二人の魔力が溶け合った「黄金の光」に飲み込まれ、
跡形もなく霧散していった。
「が……あ、あああああッ!?」
遠い空の下、呪いを跳ね返されたリリアーヌの絶叫が聞こえた。
自業自得。呪術の代償として、彼女の体は自分自身の憎悪に焼き尽くされ、
今度こそ、歴史の塵となって消えていった。
静寂が戻った部屋で、私はゼノス様の腕の中で激しく息をついた。
「……終わった。もう、お前を縛る鎖はどこにもない」
ゼノス様は、傷ついた腕など気にする様子もなく、
私の目尻に溜まった涙を指で拭った。
「陛下……どうして、あんな無茶を……」
「お前を失うことに比べれば、腕の一本や二本、安いものだ」
彼は私を横抱きにし、荒らされた寝室のベッドへと静かに横たえた。
その瞳には、先ほどまでの破壊的な熱ではなく、
底なしの愛しさと、恐ろしいほどの独占欲が宿っている。
「シエラ。お前の中に、俺の血が混ざった。
これでもう、死が二人を分かつまで……いや、死んでもお前は俺のものだ」
「……はい。私も、あなたのいない天国より、あなたのいる場所を選びます」
窓の外では、建国記念の祝砲が夜空を彩り始めていた。
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もう、私たちを揺るがすものは、この世界のどこにも存在しない。
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