私がいなくなってから「実は愛していた」なんて、滑稽にもほどがあります。どうぞそのまま、空っぽの部屋で後悔なさってください。

葉山 乃愛

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第45話:偽りの残響と、名もなき者の進軍

王都の深淵、静寂を切り裂く地響きと共にせり上がったのは、黄金の玉座に鎮座する「建国王の骸」だった。


その眼窩には、私が三年間流し続け、教会が搾取し続けてきた魔力が、紅い炎となって不気味に揺らめいている。


「……数百年の間、この国は死体の延命のために、生きた人間の絶望を吸い上げ続けてきたというわけね」


私は、自らの手の中で砕いた真紅の結晶……その純粋な魔力の残滓を、泥の翼へと吸い込ませた。


沸き上がるのは、圧倒的な全能感。だが、それ以上に私の心を支配していたのは、神話という名の巨大な詐欺に対する、冷徹なまでの怒りだった。


「エリス様。あの骸……ただの死体ではありません。都の全霊脈が、あの黄金の鎧に集束しています」


カイルが私の隣に並び、漆黒の炎を纏った剣を正眼に構えた。


かつて私のために舌を抜かれた少年の面影は、今や一人の冷酷な守護者へと変貌を遂げている。


彼は私を護る盾ではなく、私と共に世界を壊す、鋭利な刃そのものだった。


「……オオ……贄(にえ)ヨ……。我ガ肉トナリ……永久(とわ)ノ……揺リ籠ヘ……」


骸が顎をガクガクと鳴らし、言葉にならない執着を吐き出す。


その瞬間、玉座から放たれた黄金の鎖が、生き残っていた民たちの「影」を強引に引きずり出し始めた。


「あははっ! 面白い! あの骨、みんなの影を食べて自分の肉にしようとしてるんだよ、お姉ちゃん!」


影の中から飛び出したリリィが、泥の爪を振るい、空を舞う鎖を次々と切り裂いていく。


「食べさせてたまるもんですか。この国の民は、今日この時から、私の『私有物』なのですから」


私は泥の翼を大きく羽ばたかせ、黄金の玉座へと肉薄した。


「カイル! 私が正面を叩きます! 貴方はあの鎧の継ぎ目、霊脈の接点を断ちなさい!」


「御意!」


カイルが影に溶けるように姿を消す。次の瞬間、骸の背後から漆黒の斬撃が幾重にも重なり、黄金の鎧に深い亀裂を刻み込んだ。


「オオオォォォッ!!」


骸が咆哮し、玉座の周囲に展開されていた聖域が、強烈な衝撃波となって私たちを襲う。


私はその衝撃を泥の盾で受け止めながら、漆黒の大剣を骸の眉間へと真っ直ぐに突き立てた。


「建国王? 神? ……そんな古い看板、私が今ここで粉々に砕いて差し上げますわ!」


剣先が骸の骨に触れた瞬間、私の中に流れ込んできたのは、初代国王がかつて抱いた「死への恐怖」という、卑小な感情だった。


そう、この国の始まりは、英雄の伝説などではなく、ただ死を恐れた一人の男の執念に過ぎなかったのだ。


「……笑わせないで。貴方のせいで、私は『エリス』という名前すら奪われた身代わりとして地獄を見たのよ」


私は魔力をさらに暴走させ、大剣を力任せに押し込んだ。黄金の鎧が悲鳴を上げ、亀裂からまばゆい光が溢れ出す。


だが、骸の骨が砕け散る寸前。


玉座の影から、もはや肉体の形すら保てていない「本物のエリス」の魂が、私を嘲笑うように浮かび上がった。


「……ねえ、お母様たちが言わなかった? 私こそが、この国の真の『器』だって。……偽物の貴女に、私は殺せない」


光の渦の中から現れたのは、私と瓜二つの顔を持ちながら、瞳の奥に邪悪な「正統」を宿した、真実の令嬢だった。


彼女の手には、私が今まで一度も見たことがない、クロムウェル家に代々伝わる「真の聖剣」が握られていた。
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