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第1話 その名探偵、定時につき(思考速度は光速、性格は最悪)
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【16:48:00】
葛城 湊(かつらぎ みなと)は、PCのモニターを舐めるように見つめていた。
いや、実際、少し舌が出ていた。
画面に映っているのは、『牛牛パラダイス』の公式サイト。
特上厚切り牛タンの画像である。
「……ハァ、ハァ……タン元ちゃん……今すぐその柔らかい肉壁に、レモン汁という名の聖水をぶっかけてやるからな……」
湊は、恐怖の形相で独り言を呟いていた。
彼にとって『定時退社』とは、ただの帰宅ではない。
『聖戦』だ。
17時30分の予約に間に合うためには、17時00分00秒に会社を出て、17時03分の電車に飛び乗らなければならない。
そのために、彼は今、キーボードの『エンターキー』を叩く指の角度さえも、空気抵抗を減らすフォームに改良していた。
あと12分。
あと12分で、俺は社畜という皮を脱ぎ捨て、肉を食らう捕食者となる。
ドガシャァァァァァァァン!!!!!
事務所の壁が、爆散した。
ドアではない。
壁だ。
「せ、せ、先輩ーーっ!! 緊急事態(ハルマゲドン)です!!」
粉塵の中から現れたのは、後輩の二階堂(にかいどう)アリス。
彼女はなぜか、工事現場のショベルカーに乗っていた。
いや、ショベルカーの『バケット(先端部分)』だけを、素手で引きちぎって抱えていた。
湊はモニターから視線を1ミクロンも動かさず、般若のような顔で告げた。
「……二階堂。俺は今、牛タンと脳内で結婚式を挙げている最中だ。その鉄屑を捨てて失せろ」
「結婚してる場合じゃないです! 殺人です! また死にました!」
「人は死ぬ! 明日も死ぬ! いちいち報告するな!」
「場所がヤバいんです! 先輩が予約してる『牛牛パラダイス』の入り口です!」
ピタリ。
湊の呼吸が止まった。
ゆっくりと、首の骨が鳴る音と共に振り返る。
「……なんだと?」
「被害者が店の自動ドアに挟まったまま絶命してます! しかも、轟(とどろき)刑事が『犯人は地底人だ! 入り口を封鎖せよ!』って叫んで、生コン車を呼んでます!」
「生コン!? あいつは頭にセメントでも詰まってるのか!」
「あと2分で入り口がコンクリートで埋められます! そうなったら、先輩の牛タンは永遠に『発掘調査待ち』になります!」
バァァァァン!!
湊はデスクをチョップで両断した。
その目から、理性の光が完全に消え失せた。
「許さん……。俺の胃袋に土を盛る奴は、神だろうと仏だろうと、論理のミキサーにかけて液状化してやる」
「ひぃっ! 先輩の目が牛(マッド・カウ)になってます!」
「行くぞ、二階堂」
「は、はい!」
「制限時間は1分だ。カップ麺の蓋を開ける前に終わらせる」
湊は窓ガラスを突き破って飛び出した。
ドアを開ける時間すら惜しかったのだ。
現場は、地獄のフェス会場のようだった。
パトカーのサイレン。逃げ惑う野次馬。
そして、ミキサー車の上に立ち、指揮者のように棒を振るトレンチコートの巨漢。
「いいか! 奴らは地面の下にいる! モグラ人間だ! モグラ人間に法の裁き(生コン)を流し込めぇぇぇ!」
轟刑事が、幻覚と戦っていた。
ミキサー車のドラムが、グルグルと殺意の回転を始めている。
「……邪魔だぁぁぁ!」
湊はドロップキックで轟刑事を吹っ飛ばし、遺体の前に着地した。
時刻は16時53分。
あと7分。
生コン発射まで、あと30秒。
「……起動(ブート)、強制執行(オーバーキル)。」
カッッッ!!!
湊の脳内で、ヒューズが飛ぶ音がした。
世界がモノクロになり、俺の牛タンを邪魔する『敵』だけが、赤く発光して見える。
【超高速スキャン開始】
……対象A:遺体。背中に刺し傷。
……対象B:地面。アスファルトの隙間。
(……あ?)
湊の目が、顕微鏡レベルにズームする。
黒い隙間に、キラキラ光る『金色の粉』。
……対象C:野次馬50名。
(雑魚、雑魚、雑魚……ん?)
(ストップ)
派手なスーツの男。
・挙動不審レベルMAX。
・右手のカフスボタンが無い。
・そして、靴の裏。
(……確定。死刑)
靴底の溝に、『金粉』がこびりついている。
この状況証拠だけで十分だ。
裁判? 知るか。俺が法律だ。
思考時間、0.02秒。
結論:瞬殺。
「……おい」
湊は立ち上がり、地獄の底から響くような声を出した。
「おい葛城! モグラ人間は見つかったか!?」
「轟さん、あなたは後で病院に行け。脳のMRIを撮れ」
湊は、野次馬の中にいた派手なスーツの男の胸倉を、瞬間移動のような速度で掴み上げた。
「……ギャッ!?」
「犯人は、この成金野郎だ」
男が宙に浮く。
「は、はあ!? 俺はこのビルのオーナーだぞ! 何を証拠に……」
「黙れ。お前の靴の裏、金粉まみれだ。……このビルの最上階のレストラン『ゴールデン・キング』の厨房に入ったな?」
「なっ!?」
「さらに、遺体の横の側溝に、お前の趣味の悪い『K・G(クソ・ゴージャス)』入りのカフスボタンが落ちていた。言い逃れできると思うなよ」
男の顔色が、黄金色から、使用済みのティッシュのような色に変わる。
「ど、どうして……一瞬で……」
「俺の牛タンへの道を塞いだからだ」
湊は男を地面に叩きつけた。
「動機は? 手短に言え。3文字以内で」
男が震えながら叫ぶ。
「あいつが……あいつが俺の『顔写真入り特製・黄金絵皿』を見て……『フリスビー』って言ったんだ!」
「……は?」
「5文字になっちゃったけど! 俺の皿だぞ! 一枚10万円もするんだ! それを『公園で犬に投げたらよく飛びそうですね』って笑いやがった! だから殺した!」
「…………」
湊は天を仰いだ。
あまりのくだらなさに、一周回って殺意が湧いた。
「皿なんてどうでもいい。……いいか、この世には『割れてもいい皿』と『焼かなきゃいけない肉』がある。貴様は後者を邪魔した。万死に値する」
「な……っ! 俺の皿を馬鹿にするなぁぁぁ!」
男は逆上し、ポケットから血塗れの『純金ナイフ』を取り出した。
「お前の首もフリスビーにしてやるぅぅぅ!!」
男がナイフを振り回して突進してくる。
轟刑事が「危ない! モグラ人間の逆襲だ!」と意味不明なことを叫ぶ。
しかし、湊は動かない。
腕時計を見る。16時56分。
「二階堂」
「ういっす!」
「そのフリスビー野郎を、大気圏外へ廃棄しろ」
「イエス・ボス!!」
アリスが抱えていた『ショベルカーのバケット(重さ200キロ)』が、物理法則を無視して旋回した。
ドゴォォォォォォォォン!!!!!
「あべしっ!!」
男は美しい放物線を描き、自らが所有するビルの2階『オーナー室』の防弾ガラスを突き破って、中に吸い込まれていった。
「……ナイス・ショット」
「えへへ、場外ホームランです!」
湊はパンパンと手を払う。
「よし、解決。轟さん、あとは頼みます。あと生コン車は帰して。コンクリート流したら俺がお前を埋めるぞ」
「お、おう……お前、人間やめたのか……?」
湊は腕時計を見る。
16時58分。
勝った。
完全勝利だ。
邪魔なオーナーも消えた。生コンも阻止した。あとは肉を食うだけだ。
湊はスキップで『牛牛パラダイス』の入り口へ向かった。
自動ドアが開く。
「いらっしゃいませー!」
店員の声。
炭火の香り。
湊は満面の笑みで、予約画面を突きつけた。
「17時30分予約の葛城だ!! 一番高い肉を全部持ってこい!!」
しかし。
店長の顔が、なぜか死人のように青白かった。
「あ、あの……葛城様……」
「なんだ。まさか、肉が無いとは言わせんぞ」
「肉はあるのですが……」
店長は、震える指で天井を指差した。
アリスがオーナーを吹っ飛ばした、あの2階の『オーナー室』の方を。
「実は、このビルの『電気・ガス・水道』の集中管理システムは、全てオーナー室にありまして……」
「……あ?」
「オーナーが吹き飛んだ拍子に、制御盤に頭から突っ込んだらしく……。たった今、ビル全体のライフラインが『爆発』しました……」
ボンッ!!
店長の言葉に合わせるように、店内の照明が消えた。
換気扇が止まる。
そして、何より恐ろしいことに。
「……無煙ロースターの火が、消えました」
時が、止まった。
暗闇の中で、湊は立ち尽くす。
目の前には、焼かれることを待っている、冷たい牛タン。
そして、その原因を作った(物理的にオーナーを制御盤にミサイルとして撃ち込んだ)、自分の後輩へ向く。
「あ……」
アリスが鉄塊を背中に隠し、冷や汗を滝のように流した。
「せ、先輩……私、ビルごとダウンさせちゃいました……?」
キーンコーンカーンコーン……。
17時00分。
定時のチャイムが、街に虚しく響き渡る。
それは、湊の「残業確定」と「牛タンの死」を告げる、終わりのラッパだった。
ブブブブッ。
湊のスマホが震える。
上司からのメッセージ。『ビル停電の件で、警察と消防から連絡が来ている。至急対応せよ』。
「……二階堂」
「は、はいぃぃ!」
暗闇の中で、湊の目が赤く光った。
彼は、地獄の底から這い上がってきた悪鬼のような声で命じた。
「AEDを持ってこい」
「へ?」
「あのオーナーを叩き起こせ。電圧MAXだ。黒焦げになっても構わん。パスワードを吐くまで蘇生と感電を繰り返すぞ」
「ひぃぃぃ! それフランケンシュタインの実験ですよぉぉぉ!」
こうして、俺の『華麗なる定時退社』は、闇の中の『マッドサイエンス(蘇生実験)』へと変わった。
だが、俺は諦めない。
牛タンに火が通るその日まで、俺は悪魔にでもなってやる。
~あとがき~
ここまで読んでいただきありがとうございます。 もし面白いと感じていただけたら、お気に入りや応援をいただけると嬉しいです。 執筆の励みにしています
葛城 湊(かつらぎ みなと)は、PCのモニターを舐めるように見つめていた。
いや、実際、少し舌が出ていた。
画面に映っているのは、『牛牛パラダイス』の公式サイト。
特上厚切り牛タンの画像である。
「……ハァ、ハァ……タン元ちゃん……今すぐその柔らかい肉壁に、レモン汁という名の聖水をぶっかけてやるからな……」
湊は、恐怖の形相で独り言を呟いていた。
彼にとって『定時退社』とは、ただの帰宅ではない。
『聖戦』だ。
17時30分の予約に間に合うためには、17時00分00秒に会社を出て、17時03分の電車に飛び乗らなければならない。
そのために、彼は今、キーボードの『エンターキー』を叩く指の角度さえも、空気抵抗を減らすフォームに改良していた。
あと12分。
あと12分で、俺は社畜という皮を脱ぎ捨て、肉を食らう捕食者となる。
ドガシャァァァァァァァン!!!!!
事務所の壁が、爆散した。
ドアではない。
壁だ。
「せ、せ、先輩ーーっ!! 緊急事態(ハルマゲドン)です!!」
粉塵の中から現れたのは、後輩の二階堂(にかいどう)アリス。
彼女はなぜか、工事現場のショベルカーに乗っていた。
いや、ショベルカーの『バケット(先端部分)』だけを、素手で引きちぎって抱えていた。
湊はモニターから視線を1ミクロンも動かさず、般若のような顔で告げた。
「……二階堂。俺は今、牛タンと脳内で結婚式を挙げている最中だ。その鉄屑を捨てて失せろ」
「結婚してる場合じゃないです! 殺人です! また死にました!」
「人は死ぬ! 明日も死ぬ! いちいち報告するな!」
「場所がヤバいんです! 先輩が予約してる『牛牛パラダイス』の入り口です!」
ピタリ。
湊の呼吸が止まった。
ゆっくりと、首の骨が鳴る音と共に振り返る。
「……なんだと?」
「被害者が店の自動ドアに挟まったまま絶命してます! しかも、轟(とどろき)刑事が『犯人は地底人だ! 入り口を封鎖せよ!』って叫んで、生コン車を呼んでます!」
「生コン!? あいつは頭にセメントでも詰まってるのか!」
「あと2分で入り口がコンクリートで埋められます! そうなったら、先輩の牛タンは永遠に『発掘調査待ち』になります!」
バァァァァン!!
湊はデスクをチョップで両断した。
その目から、理性の光が完全に消え失せた。
「許さん……。俺の胃袋に土を盛る奴は、神だろうと仏だろうと、論理のミキサーにかけて液状化してやる」
「ひぃっ! 先輩の目が牛(マッド・カウ)になってます!」
「行くぞ、二階堂」
「は、はい!」
「制限時間は1分だ。カップ麺の蓋を開ける前に終わらせる」
湊は窓ガラスを突き破って飛び出した。
ドアを開ける時間すら惜しかったのだ。
現場は、地獄のフェス会場のようだった。
パトカーのサイレン。逃げ惑う野次馬。
そして、ミキサー車の上に立ち、指揮者のように棒を振るトレンチコートの巨漢。
「いいか! 奴らは地面の下にいる! モグラ人間だ! モグラ人間に法の裁き(生コン)を流し込めぇぇぇ!」
轟刑事が、幻覚と戦っていた。
ミキサー車のドラムが、グルグルと殺意の回転を始めている。
「……邪魔だぁぁぁ!」
湊はドロップキックで轟刑事を吹っ飛ばし、遺体の前に着地した。
時刻は16時53分。
あと7分。
生コン発射まで、あと30秒。
「……起動(ブート)、強制執行(オーバーキル)。」
カッッッ!!!
湊の脳内で、ヒューズが飛ぶ音がした。
世界がモノクロになり、俺の牛タンを邪魔する『敵』だけが、赤く発光して見える。
【超高速スキャン開始】
……対象A:遺体。背中に刺し傷。
……対象B:地面。アスファルトの隙間。
(……あ?)
湊の目が、顕微鏡レベルにズームする。
黒い隙間に、キラキラ光る『金色の粉』。
……対象C:野次馬50名。
(雑魚、雑魚、雑魚……ん?)
(ストップ)
派手なスーツの男。
・挙動不審レベルMAX。
・右手のカフスボタンが無い。
・そして、靴の裏。
(……確定。死刑)
靴底の溝に、『金粉』がこびりついている。
この状況証拠だけで十分だ。
裁判? 知るか。俺が法律だ。
思考時間、0.02秒。
結論:瞬殺。
「……おい」
湊は立ち上がり、地獄の底から響くような声を出した。
「おい葛城! モグラ人間は見つかったか!?」
「轟さん、あなたは後で病院に行け。脳のMRIを撮れ」
湊は、野次馬の中にいた派手なスーツの男の胸倉を、瞬間移動のような速度で掴み上げた。
「……ギャッ!?」
「犯人は、この成金野郎だ」
男が宙に浮く。
「は、はあ!? 俺はこのビルのオーナーだぞ! 何を証拠に……」
「黙れ。お前の靴の裏、金粉まみれだ。……このビルの最上階のレストラン『ゴールデン・キング』の厨房に入ったな?」
「なっ!?」
「さらに、遺体の横の側溝に、お前の趣味の悪い『K・G(クソ・ゴージャス)』入りのカフスボタンが落ちていた。言い逃れできると思うなよ」
男の顔色が、黄金色から、使用済みのティッシュのような色に変わる。
「ど、どうして……一瞬で……」
「俺の牛タンへの道を塞いだからだ」
湊は男を地面に叩きつけた。
「動機は? 手短に言え。3文字以内で」
男が震えながら叫ぶ。
「あいつが……あいつが俺の『顔写真入り特製・黄金絵皿』を見て……『フリスビー』って言ったんだ!」
「……は?」
「5文字になっちゃったけど! 俺の皿だぞ! 一枚10万円もするんだ! それを『公園で犬に投げたらよく飛びそうですね』って笑いやがった! だから殺した!」
「…………」
湊は天を仰いだ。
あまりのくだらなさに、一周回って殺意が湧いた。
「皿なんてどうでもいい。……いいか、この世には『割れてもいい皿』と『焼かなきゃいけない肉』がある。貴様は後者を邪魔した。万死に値する」
「な……っ! 俺の皿を馬鹿にするなぁぁぁ!」
男は逆上し、ポケットから血塗れの『純金ナイフ』を取り出した。
「お前の首もフリスビーにしてやるぅぅぅ!!」
男がナイフを振り回して突進してくる。
轟刑事が「危ない! モグラ人間の逆襲だ!」と意味不明なことを叫ぶ。
しかし、湊は動かない。
腕時計を見る。16時56分。
「二階堂」
「ういっす!」
「そのフリスビー野郎を、大気圏外へ廃棄しろ」
「イエス・ボス!!」
アリスが抱えていた『ショベルカーのバケット(重さ200キロ)』が、物理法則を無視して旋回した。
ドゴォォォォォォォォン!!!!!
「あべしっ!!」
男は美しい放物線を描き、自らが所有するビルの2階『オーナー室』の防弾ガラスを突き破って、中に吸い込まれていった。
「……ナイス・ショット」
「えへへ、場外ホームランです!」
湊はパンパンと手を払う。
「よし、解決。轟さん、あとは頼みます。あと生コン車は帰して。コンクリート流したら俺がお前を埋めるぞ」
「お、おう……お前、人間やめたのか……?」
湊は腕時計を見る。
16時58分。
勝った。
完全勝利だ。
邪魔なオーナーも消えた。生コンも阻止した。あとは肉を食うだけだ。
湊はスキップで『牛牛パラダイス』の入り口へ向かった。
自動ドアが開く。
「いらっしゃいませー!」
店員の声。
炭火の香り。
湊は満面の笑みで、予約画面を突きつけた。
「17時30分予約の葛城だ!! 一番高い肉を全部持ってこい!!」
しかし。
店長の顔が、なぜか死人のように青白かった。
「あ、あの……葛城様……」
「なんだ。まさか、肉が無いとは言わせんぞ」
「肉はあるのですが……」
店長は、震える指で天井を指差した。
アリスがオーナーを吹っ飛ばした、あの2階の『オーナー室』の方を。
「実は、このビルの『電気・ガス・水道』の集中管理システムは、全てオーナー室にありまして……」
「……あ?」
「オーナーが吹き飛んだ拍子に、制御盤に頭から突っ込んだらしく……。たった今、ビル全体のライフラインが『爆発』しました……」
ボンッ!!
店長の言葉に合わせるように、店内の照明が消えた。
換気扇が止まる。
そして、何より恐ろしいことに。
「……無煙ロースターの火が、消えました」
時が、止まった。
暗闇の中で、湊は立ち尽くす。
目の前には、焼かれることを待っている、冷たい牛タン。
そして、その原因を作った(物理的にオーナーを制御盤にミサイルとして撃ち込んだ)、自分の後輩へ向く。
「あ……」
アリスが鉄塊を背中に隠し、冷や汗を滝のように流した。
「せ、先輩……私、ビルごとダウンさせちゃいました……?」
キーンコーンカーンコーン……。
17時00分。
定時のチャイムが、街に虚しく響き渡る。
それは、湊の「残業確定」と「牛タンの死」を告げる、終わりのラッパだった。
ブブブブッ。
湊のスマホが震える。
上司からのメッセージ。『ビル停電の件で、警察と消防から連絡が来ている。至急対応せよ』。
「……二階堂」
「は、はいぃぃ!」
暗闇の中で、湊の目が赤く光った。
彼は、地獄の底から這い上がってきた悪鬼のような声で命じた。
「AEDを持ってこい」
「へ?」
「あのオーナーを叩き起こせ。電圧MAXだ。黒焦げになっても構わん。パスワードを吐くまで蘇生と感電を繰り返すぞ」
「ひぃぃぃ! それフランケンシュタインの実験ですよぉぉぉ!」
こうして、俺の『華麗なる定時退社』は、闇の中の『マッドサイエンス(蘇生実験)』へと変わった。
だが、俺は諦めない。
牛タンに火が通るその日まで、俺は悪魔にでもなってやる。
~あとがき~
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※ハピエン・善人しか書いたことのない作者が、「追放」をテーマにして実験的に書いてみた作品です。普段の作風とは異なります。
※小説家になろう、カクヨムさんで同一名義にて掲載予定です
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