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第2話 湯けむり密室殺人(有給消化は命懸け)
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【17:45:00】
葛城 湊(かつらぎ みなと)は、人間をやめかけていた。
場所は、北関東の山奥にある老舗温泉旅館『雪月花(せつげつか)』。
客室の窓際で、湊はガラスにへばりついていた。
ヤモリのように手足を広げ、スマホを頭より高く掲げ、白目を剥いて痙攣している。
「……あ……あぁ……電波ちゃん……? どこ……?」
禁断症状である。
この旅館は、秘境すぎて『圏外』だった。
唯一の頼みの綱である館内フリーWi-Fiは、宿泊客が全員アクセスしているせいで、回線速度が『2Kbps(通信制限以下)』まで落ちていた。
画像一枚開くのに、3分かかる。
現代人にとっては、酸素濃度が薄いのと同じだ。
「先輩、呪いの儀式ですか? お茶飲みます?」
浴衣姿の二階堂(にかいどう)アリスが、こたつで煎餅をかじりながら言った。
彼女の膝の上には、床の間から強奪してきた『鮭をくわえた木彫りの熊(特大サイズ)』が鎮座している。
「黙れ……! あと15分なんだ……!」
湊が窓ガラスに額を打ち付けながら呻く。
今日の18時00分。
湊が全財産と魂を捧げているソシャゲ『アイドル大戦』にて、推しキャラ『ミカエルたん』の限定水着ガチャが開催される。
その排出率は、0.001%。
サーバー戦争に勝つには、光回線が必要不可欠だ。
「この2Kbpsじゃ……ガチャ画面に遷移する前にタイムアウトする……。ミカエルたんの水着が見れない……俺は死ぬ……」
「死因が気持ち悪すぎます!」
「帰るぞ……。今すぐ下山して、麓(ふもと)のコンビニのWi-Fiに接続する」
「無理ですよ! 外はブリザードです! 遭難します!」
「構わん! 推しに会えずに生きるなら、推しを想って死ぬ!」
湊が窓を開け放ち、吹雪の中に飛び出そうとした、その時だった。
「キャーーーーーーッ!!」
館内放送レベルの悲鳴。
それは、湊の「Wi-Fi探しの旅」を妨害する、悪魔の合図だった。
「……幻聴だ。俺には何も聞こえない」
「行きますよWi-Fi中毒者!!」
アリスが湊の浴衣の帯を掴み、コマのように回転させながら引きずっていく。
引きずられながら湊はスマホを見た。
アンテナピクトは『×(圏外)』。
現場は、宿自慢の『露天風呂』だった。
雪見風呂と洒落込みたいところだが、湯船は真っ赤に染まり、初老の男性がプカプカと浮いている。
そして、湯気を切り裂いて叫ぶ、聞き覚えのある大声。
「いいか! これは『雪女』の仕業だ! 被害者の首の傷を見ろ! 氷のように鋭い! だが凶器はない! つまり犯人は、息を吹きかけてカチンコチンに凍らせたんだ!」
「……なんでアンタがいるんですか」
湊が死んだ魚のような目で呟くと、頭に手ぬぐいを乗せた轟(とどろき)刑事が振り返った。
「おお、葛城! 奇遇だな! 俺も湯治(とうじ)に来たんだ! 腰痛でな!」
「腰と一緒に頭も治してこい。……状況は?」
「見ての通りだ! 被害者はこの旅館のオーナー。完全なる密室だ!」
轟刑事が、新雪の積もった地面を指差す。
脱衣所から湯船までは、純白の雪。
そこにあるのは、被害者の下駄の跡だけ。
周囲は断崖絶壁。猿でも登れない。
「足跡なし! 凶器なし! これはもう、空から雪女が舞い降りて、オーナーの魂を抜いたに違いない! 全員、サウナに入って体を温めろ! 雪女対策だ!」
「サウナ!? ふざけんな! Wi-Fiが繋がらない!」
湊は雪の中に裸足で踏み込んだ。
時刻は17時50分。
あと10分。
これを1分で片付ければ、バス停までダッシュで9分。
ギリギリ間に合う。
「……起動(ブート)、5Gモード。」
カッ!
思考加速。
湊の脳内から「寒さ」も「人権」も消え失せる。
残るのは、通信速度(Mbps)への執着のみ。
【スキャン開始】
……対象A:遺体。頸動脈切断。
……対象B:雪面。
(……チッ、低画質だな)
湊の目が、4Kカメラのように絞り込まれる。
被害者の足跡の横に、微かに『線』が見える。
肉眼では見えないレベルだが、Wi-Fiを探す時の湊の動体視力は、野生動物を超える。
……対象C:野次馬。
震える仲居、青ざめる番頭。そして、腕組みをして立っている板長。
(板長……)
・視線が遺体ではなく、露天風呂の『屋根の雨樋(あまどい)』に向いている。
・右手の袖口が濡れている。
・そして、何より……。
(……確定。ロード完了)
板長の足元。
雪駄(せった)ではなく、ゴム長靴。
そのつま先に、キラリと光る『透明な結晶』。
カカカカッ!
脳内で情報がダウンロードされる。
(透明な結晶=氷の破片)
(屋根の雨樋=テグスの支点)
(板長のポケット=不自然な膨らみ)
思考時間、0.3秒。
結論:瞬殺。
「……通信ラグだ」
湊は振り返り、轟刑事に告げた。
「轟さん、雪女はいません。いるのは、アナログなトリックを使った板長だけです」
湊は、板長を『顎』でしゃくった。
「犯人は、あそこの板長だ」
板長がキレた。
「な、何を! 俺はずっと厨房で『ブリ大根』を煮込んでいた! 証拠を見せろ!」
「ブリ大根はどうでもいい。……あなたは屋根の上から『一本釣り』をしたんだ」
「はぁ!?」
「凶器は『氷の包丁』だ。この極寒なら30分で作れる。それにテグス(釣り糸)を結びつけ、屋根の雨樋を通して、露天風呂の真上にセットした」
湊が淡々と解説する。
まるでゲームの攻略wikiを読み上げるように。
「被害者が湯船に入った瞬間、テグスを切って氷の包丁を落下させた。重力加速度を使ったギロチンだ。……凶器は湯船で溶けて証拠隠滅。完璧な計画だ」
板長が鼻で笑った。
「ハッ! 妄想だ! 証拠がないだろう! 氷は溶けたんだぞ!」
「溶けてませんよ。……あなたの長靴のつま先」
湊が指差す。
「氷の破片がへばりついてます。凶器を作った時の削りカスでしょう。……あと、あなたの白衣のポケット。テグスを回収した時に慌てたんでしょうね。釣り糸がはみ出してますよ」
板長が自分のポケットを見る。
キラリと光るテグスの端。
「あ……」
「詰み(チェックメイト)です。……動機は? どうせ料理へのこだわりとか、職人のプライドとか、そういう面倒くさいやつでしょう」
板長が、今までで一番恐ろしい顔になった。
血管がブチ切れる音がした。
「あのオーナーは……! 俺が三日三晩寝ずに仕込んだ『究極の秘伝・鰻(ウナギ)のタレ』を!!」
「タレをどうした」
「『味が薄いから』って言って……! 目の前で『マヨネーズ』と『練乳』を混ぜやがったんだぁぁぁぁ!!」
「……は?」
「鰻だぞ!? 蒲焼だぞ!? それを『テリヤキマヨ練乳味』にしやがった! しかも『こっちの方が若者にウケる』だと!? 日本の食文化へのテロ行為だ! だから処刑したんだ!」
「…………」
湊はスマホを見た。
17時52分。
あと8分。
湊は、深く深くため息をついた。
「マヨネーズと練乳は確かに重罪ですが、殺人の方がもっとBAN対象です。……自首してください。俺は山を降りてガチャを回すんです。あなたの味覚論争に付き合っていると、ログインボーナスが消滅する」
「ふざけるなあああ! 俺はまだ捕まらん! この宿を乗っ取って『鰻マヨ練乳』を根絶やしにするまではぁぁぁ!」
板長は懐から、別の『氷の包丁(二刀流)』を取り出した。
「邪魔する奴は、あられ切りにしてやるぅぅぅ!」
板長が湊に向かって突進してくる。
轟刑事が「危ない! アイス・スラッシャーだ!」と叫ぶ。
しかし、湊は動かない。
腕時計を見る。17時53分。
「二階堂」
「はいっ!」
「そのマヨネーズ野郎を、出荷しろ」
「イエス・ボス!!」
アリスが抱えていた『木彫りの熊(実物大)』が、豪快に旋回した。
ドゴォォォォン!!
「ほげぇぇぇぇ! 肋骨がぁぁぁ!」
板長は美しい放物線を描き、露天風呂の塀を飛び越え、雪の積もった裏山の方角へと飛んでいった。
「……ナイス・サーモン」
「えへへ、熊さんも喜んでます!」
湊はパンパンと手を払う。
「よし、解決。轟さん、犯人は裏山です。俺たちは帰ります。バスが来るんで」
「お、おう……お前らの連携、米軍よりすげえな……」
湊はスマホを握りしめ、アリスの手を引いて走り出した。
17時54分。
バス停まで、あと6分。
雪道を死ぬ気で走れば間に合う!
「急げ二階堂! ミカエルたんが待っている!」
「はい! ……あ、先輩」
「なんだ! 今は1バイトも無駄にするな!」
「さっき、熊を投げた時に……ちょっとコントロールがブレて……」
「ブレて、どうした!」
アリスは走りながら、背後の山を指差した。
板長が吹っ飛んでいった、その方向。
そこには、この村唯一の『携帯電話基地局アンテナ』が立っていた。
いや、『立っていた』。
バキィィィィン……ズズズズズ……。
嫌な音が響く。
板長(人間砲弾)が直撃したアンテナの鉄塔が、ゆっくりと、しかし確実に傾いていく。
そして。
ドガァァァァァァァン!!!!!
アンテナが倒壊し、雪崩を巻き起こしながら谷底へと消えていった。
「……あ」
時が、止まった。
湊のスマホの画面。
アンテナピクトが、『圏外』ですらなく、『SIMなし』のような表示に変わる。
物理的に、電波という概念が消滅した瞬間だった。
【18:00:00】
アイドル大戦、イベント開始時刻。
画面には、虚しく回転するロード中のサークルと、『通信エラー(Timeout)』の文字。
プツン。
湊の中で、何かが切れた。
彼は雪の中に膝から崩れ落ち、虚空に向かって絶叫した。
「あああああああああ!! ミカエルたぁぁぁぁぁん!! 水着ぃぃぃぃぃ!!」
「せ、先輩! しっかりしてください! 現実に戻ってきて!」
湊の目から、光が消えた。
彼は、地獄の底から響くような声で命じた。
「二階堂」
「は、はいぃぃ!」
「板長(犯人)を探せ。……そして、あいつの背骨をアンテナ代わりにする」
「ええええええ!? 人間アンテナ!?」
「人間は水分と電気を通す! 高いところに吊るせばワンチャンいける! 行くぞぉぉぉぉ!!」
こうして、俺の『華麗なる有給休暇』は、極寒の『人間アンテナ実験』へと変わった。
だが、俺は諦めない。
推しの水着を見るその日まで、俺は物理法則さえもねじ曲げてやる。
葛城 湊(かつらぎ みなと)は、人間をやめかけていた。
場所は、北関東の山奥にある老舗温泉旅館『雪月花(せつげつか)』。
客室の窓際で、湊はガラスにへばりついていた。
ヤモリのように手足を広げ、スマホを頭より高く掲げ、白目を剥いて痙攣している。
「……あ……あぁ……電波ちゃん……? どこ……?」
禁断症状である。
この旅館は、秘境すぎて『圏外』だった。
唯一の頼みの綱である館内フリーWi-Fiは、宿泊客が全員アクセスしているせいで、回線速度が『2Kbps(通信制限以下)』まで落ちていた。
画像一枚開くのに、3分かかる。
現代人にとっては、酸素濃度が薄いのと同じだ。
「先輩、呪いの儀式ですか? お茶飲みます?」
浴衣姿の二階堂(にかいどう)アリスが、こたつで煎餅をかじりながら言った。
彼女の膝の上には、床の間から強奪してきた『鮭をくわえた木彫りの熊(特大サイズ)』が鎮座している。
「黙れ……! あと15分なんだ……!」
湊が窓ガラスに額を打ち付けながら呻く。
今日の18時00分。
湊が全財産と魂を捧げているソシャゲ『アイドル大戦』にて、推しキャラ『ミカエルたん』の限定水着ガチャが開催される。
その排出率は、0.001%。
サーバー戦争に勝つには、光回線が必要不可欠だ。
「この2Kbpsじゃ……ガチャ画面に遷移する前にタイムアウトする……。ミカエルたんの水着が見れない……俺は死ぬ……」
「死因が気持ち悪すぎます!」
「帰るぞ……。今すぐ下山して、麓(ふもと)のコンビニのWi-Fiに接続する」
「無理ですよ! 外はブリザードです! 遭難します!」
「構わん! 推しに会えずに生きるなら、推しを想って死ぬ!」
湊が窓を開け放ち、吹雪の中に飛び出そうとした、その時だった。
「キャーーーーーーッ!!」
館内放送レベルの悲鳴。
それは、湊の「Wi-Fi探しの旅」を妨害する、悪魔の合図だった。
「……幻聴だ。俺には何も聞こえない」
「行きますよWi-Fi中毒者!!」
アリスが湊の浴衣の帯を掴み、コマのように回転させながら引きずっていく。
引きずられながら湊はスマホを見た。
アンテナピクトは『×(圏外)』。
現場は、宿自慢の『露天風呂』だった。
雪見風呂と洒落込みたいところだが、湯船は真っ赤に染まり、初老の男性がプカプカと浮いている。
そして、湯気を切り裂いて叫ぶ、聞き覚えのある大声。
「いいか! これは『雪女』の仕業だ! 被害者の首の傷を見ろ! 氷のように鋭い! だが凶器はない! つまり犯人は、息を吹きかけてカチンコチンに凍らせたんだ!」
「……なんでアンタがいるんですか」
湊が死んだ魚のような目で呟くと、頭に手ぬぐいを乗せた轟(とどろき)刑事が振り返った。
「おお、葛城! 奇遇だな! 俺も湯治(とうじ)に来たんだ! 腰痛でな!」
「腰と一緒に頭も治してこい。……状況は?」
「見ての通りだ! 被害者はこの旅館のオーナー。完全なる密室だ!」
轟刑事が、新雪の積もった地面を指差す。
脱衣所から湯船までは、純白の雪。
そこにあるのは、被害者の下駄の跡だけ。
周囲は断崖絶壁。猿でも登れない。
「足跡なし! 凶器なし! これはもう、空から雪女が舞い降りて、オーナーの魂を抜いたに違いない! 全員、サウナに入って体を温めろ! 雪女対策だ!」
「サウナ!? ふざけんな! Wi-Fiが繋がらない!」
湊は雪の中に裸足で踏み込んだ。
時刻は17時50分。
あと10分。
これを1分で片付ければ、バス停までダッシュで9分。
ギリギリ間に合う。
「……起動(ブート)、5Gモード。」
カッ!
思考加速。
湊の脳内から「寒さ」も「人権」も消え失せる。
残るのは、通信速度(Mbps)への執着のみ。
【スキャン開始】
……対象A:遺体。頸動脈切断。
……対象B:雪面。
(……チッ、低画質だな)
湊の目が、4Kカメラのように絞り込まれる。
被害者の足跡の横に、微かに『線』が見える。
肉眼では見えないレベルだが、Wi-Fiを探す時の湊の動体視力は、野生動物を超える。
……対象C:野次馬。
震える仲居、青ざめる番頭。そして、腕組みをして立っている板長。
(板長……)
・視線が遺体ではなく、露天風呂の『屋根の雨樋(あまどい)』に向いている。
・右手の袖口が濡れている。
・そして、何より……。
(……確定。ロード完了)
板長の足元。
雪駄(せった)ではなく、ゴム長靴。
そのつま先に、キラリと光る『透明な結晶』。
カカカカッ!
脳内で情報がダウンロードされる。
(透明な結晶=氷の破片)
(屋根の雨樋=テグスの支点)
(板長のポケット=不自然な膨らみ)
思考時間、0.3秒。
結論:瞬殺。
「……通信ラグだ」
湊は振り返り、轟刑事に告げた。
「轟さん、雪女はいません。いるのは、アナログなトリックを使った板長だけです」
湊は、板長を『顎』でしゃくった。
「犯人は、あそこの板長だ」
板長がキレた。
「な、何を! 俺はずっと厨房で『ブリ大根』を煮込んでいた! 証拠を見せろ!」
「ブリ大根はどうでもいい。……あなたは屋根の上から『一本釣り』をしたんだ」
「はぁ!?」
「凶器は『氷の包丁』だ。この極寒なら30分で作れる。それにテグス(釣り糸)を結びつけ、屋根の雨樋を通して、露天風呂の真上にセットした」
湊が淡々と解説する。
まるでゲームの攻略wikiを読み上げるように。
「被害者が湯船に入った瞬間、テグスを切って氷の包丁を落下させた。重力加速度を使ったギロチンだ。……凶器は湯船で溶けて証拠隠滅。完璧な計画だ」
板長が鼻で笑った。
「ハッ! 妄想だ! 証拠がないだろう! 氷は溶けたんだぞ!」
「溶けてませんよ。……あなたの長靴のつま先」
湊が指差す。
「氷の破片がへばりついてます。凶器を作った時の削りカスでしょう。……あと、あなたの白衣のポケット。テグスを回収した時に慌てたんでしょうね。釣り糸がはみ出してますよ」
板長が自分のポケットを見る。
キラリと光るテグスの端。
「あ……」
「詰み(チェックメイト)です。……動機は? どうせ料理へのこだわりとか、職人のプライドとか、そういう面倒くさいやつでしょう」
板長が、今までで一番恐ろしい顔になった。
血管がブチ切れる音がした。
「あのオーナーは……! 俺が三日三晩寝ずに仕込んだ『究極の秘伝・鰻(ウナギ)のタレ』を!!」
「タレをどうした」
「『味が薄いから』って言って……! 目の前で『マヨネーズ』と『練乳』を混ぜやがったんだぁぁぁぁ!!」
「……は?」
「鰻だぞ!? 蒲焼だぞ!? それを『テリヤキマヨ練乳味』にしやがった! しかも『こっちの方が若者にウケる』だと!? 日本の食文化へのテロ行為だ! だから処刑したんだ!」
「…………」
湊はスマホを見た。
17時52分。
あと8分。
湊は、深く深くため息をついた。
「マヨネーズと練乳は確かに重罪ですが、殺人の方がもっとBAN対象です。……自首してください。俺は山を降りてガチャを回すんです。あなたの味覚論争に付き合っていると、ログインボーナスが消滅する」
「ふざけるなあああ! 俺はまだ捕まらん! この宿を乗っ取って『鰻マヨ練乳』を根絶やしにするまではぁぁぁ!」
板長は懐から、別の『氷の包丁(二刀流)』を取り出した。
「邪魔する奴は、あられ切りにしてやるぅぅぅ!」
板長が湊に向かって突進してくる。
轟刑事が「危ない! アイス・スラッシャーだ!」と叫ぶ。
しかし、湊は動かない。
腕時計を見る。17時53分。
「二階堂」
「はいっ!」
「そのマヨネーズ野郎を、出荷しろ」
「イエス・ボス!!」
アリスが抱えていた『木彫りの熊(実物大)』が、豪快に旋回した。
ドゴォォォォン!!
「ほげぇぇぇぇ! 肋骨がぁぁぁ!」
板長は美しい放物線を描き、露天風呂の塀を飛び越え、雪の積もった裏山の方角へと飛んでいった。
「……ナイス・サーモン」
「えへへ、熊さんも喜んでます!」
湊はパンパンと手を払う。
「よし、解決。轟さん、犯人は裏山です。俺たちは帰ります。バスが来るんで」
「お、おう……お前らの連携、米軍よりすげえな……」
湊はスマホを握りしめ、アリスの手を引いて走り出した。
17時54分。
バス停まで、あと6分。
雪道を死ぬ気で走れば間に合う!
「急げ二階堂! ミカエルたんが待っている!」
「はい! ……あ、先輩」
「なんだ! 今は1バイトも無駄にするな!」
「さっき、熊を投げた時に……ちょっとコントロールがブレて……」
「ブレて、どうした!」
アリスは走りながら、背後の山を指差した。
板長が吹っ飛んでいった、その方向。
そこには、この村唯一の『携帯電話基地局アンテナ』が立っていた。
いや、『立っていた』。
バキィィィィン……ズズズズズ……。
嫌な音が響く。
板長(人間砲弾)が直撃したアンテナの鉄塔が、ゆっくりと、しかし確実に傾いていく。
そして。
ドガァァァァァァァン!!!!!
アンテナが倒壊し、雪崩を巻き起こしながら谷底へと消えていった。
「……あ」
時が、止まった。
湊のスマホの画面。
アンテナピクトが、『圏外』ですらなく、『SIMなし』のような表示に変わる。
物理的に、電波という概念が消滅した瞬間だった。
【18:00:00】
アイドル大戦、イベント開始時刻。
画面には、虚しく回転するロード中のサークルと、『通信エラー(Timeout)』の文字。
プツン。
湊の中で、何かが切れた。
彼は雪の中に膝から崩れ落ち、虚空に向かって絶叫した。
「あああああああああ!! ミカエルたぁぁぁぁぁん!! 水着ぃぃぃぃぃ!!」
「せ、先輩! しっかりしてください! 現実に戻ってきて!」
湊の目から、光が消えた。
彼は、地獄の底から響くような声で命じた。
「二階堂」
「は、はいぃぃ!」
「板長(犯人)を探せ。……そして、あいつの背骨をアンテナ代わりにする」
「ええええええ!? 人間アンテナ!?」
「人間は水分と電気を通す! 高いところに吊るせばワンチャンいける! 行くぞぉぉぉぉ!!」
こうして、俺の『華麗なる有給休暇』は、極寒の『人間アンテナ実験』へと変わった。
だが、俺は諦めない。
推しの水着を見るその日まで、俺は物理法則さえもねじ曲げてやる。
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