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第3話 暴走新幹線(トイレは使用禁止です)
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【10:55:00】
葛城 湊(かつらぎ みなと)の顔色は、死体よりも悪かった。
青を通り越して、土気色だ。
場所は、東京行き新幹線『のぞみ』のグリーン車。
出張帰りの湊は、シートベルトなど存在しない座席で、冷や汗を流しながら、ある一点に全神経を集中させていた。
『肛門』である。
昨晩、接待で食べた『生ガキ(30個)』。
それが今、湊の腸内で『市民革命』を起こしていた。
下腹部で暴れ回る暴徒たち。
括約筋(かつやくきん)という名の城門は、すでに耐久値の限界(レッドゾーン)を迎えている。
「……うぅ……あと5分……」
湊はうわ言のように呟いた。
現在時刻、10時55分。
あと5分耐えれば、この地獄の『腹痛ビッグウェーブ』が一旦引くはずだ。
そうしたら、優雅にトイレへ向かい、すべてを水に流す。
「先輩、顔色が土偶みたいですよ? 駅弁食べます? 『ひっぱりだこ飯』ですよ」
隣の席で、二階堂(にかいどう)アリスがタコを咀嚼している。
その匂いがきつい。
今の湊にとっては、この匂いすら致死性の毒ガスだ。
「……二階堂。俺に話しかけるな。今、城門を守る衛兵たちを鼓舞している」
「衛兵!? 先輩のお尻、戦場なんですか!?」
「黙れ。……よし、波が引いてきた……今だ」
湊は、生まれたての小鹿のように震える足で立ち上がった。
目指すは車両後方の多目的トイレ。
そこは、選ばれし者(グリーン車客)のみが使えるサンクチュアリ。
湊が一歩を踏み出した、その時だった。
「キャーーーーーーッ!!」
悲鳴。
またか。
またなのか。
湊の視線の先、目指すべきトイレのドアが開かれ、中から女性客が崩れ落ちてきた。
そして、開かれたドアの奥には――
便座に座ったまま絶命している、スーツ姿の男性の遺体。
「……嘘だろ」
湊の目の前で、腸内の革命軍が再び蜂起した。
城門が、悲鳴を上げる。
現場は、16号車の多目的トイレ前。
通路は野次馬と車掌で溢れかえり、通行不能になっていた。
そして、その中心で仁王立ちする、見覚えのありすぎるトレンチコート。
「いいか! これは『時速300キロの密室』だ! トイレの鍵は掛かっていた! だが犯人はいない! つまり犯人は、窓から飛び降りた『忍者』だ!」
「……轟さん」
湊は、腹を押さえながら、幽鬼のような声で呼んだ。
「おお、葛城! 奇遇だな! 俺も出張帰りだ! ……どうした、脂汗が凄いぞ? 忍者に怯えているのか?」
「腹が……限界なんです……。トイレを……貸してください……」
「馬鹿者! ここは殺害現場だぞ! 鑑識が来るまで封鎖だ! 次の駅まであと30分、全員動くな!」
「30分……!?」
湊の脳内で、何かが切れる音がした。
理性ではない。
尊厳を繋ぎ止める最後の糸だ。
30分も待てば、俺は社会的に死ぬ。
この満席のグリーン車で、俺は『漏らした男』としてX(旧Twitter)のトレンド入りを果たす。
それだけは。
それだけは、死んでも避けなければならない。
時刻は10時58分。
限界まで、あと2分。
いや、1分かもしれない。
衛兵たちが次々と倒れていくのが分かる。
「……起動(ブート)、緊急事態宣言(パンデミック)。」
ギュルルルルル!!!
腹の轟音と共に、湊の脳が覚醒する。
かつてないほどの集中力。
なぜなら、失敗=社会的な死だからだ。
【超・極限スキャン開始】
視界が赤く染まる。痛みのせいか、怒りのせいか。
……対象A:遺体。胸にアイスピック状の刺し傷。
……対象B:個室内。鍵は内側からロック。
(……ん?)
湊の目が、激痛の中で一点を見逃さない。
トイレのドアの下。
数ミリの隙間に、『青いプラスチック片』が挟まっている。
……対象C:野次馬(乗客)。
そして、通路の奥で、ワゴンを押して立ち尽くしている車内販売のパーサー(女性)。
(あの販売員……)
・視線が泳いでいる。
・そして、ワゴンの上段。
・そこにあるはずの『ある商品』が、一つだけ砕けている。
(……確定)
ワゴンの隅に、凶器の先端が隠されている。
そして、彼女のエプロンのポケットから覗く、不自然な『硬貨』のようなもの。
カカカカッ!
脳内で情報が結合する。
(砕けた商品=新幹線名物『スゴイカタイアイス』)
(凶器=凍らせたスプーン?)
(青い破片=スプーンの柄)
思考時間、0.01秒。
括約筋の限界まで、あと30秒。
「……どけぇぇぇぇ!」
湊は叫び、轟刑事を突き飛ばした。
「おい葛城! 忍者がいたか!?」
「忍者は新幹線に乗りません! いるのは、アイスを愛しすぎた販売員だけです!」
湊は、脂汗を流しながら販売員を指差した。
「犯人は、そこの車内販売のあなただ!」
販売員が目を見開く。
「な、何を! 私はただ通りかかっただけで……」
「嘘をつくな! あなたのワゴンの上段! 『シンカンセンスゴイカタイアイス』が一つ、粉砕されていますね! 凶器に使ったんでしょう!」
「そ、そんな……アイスで人は殺せません!」
「普通のアイスならな! だが、新幹線のアイスはダイヤモンドより硬い! あなたはそれをタオルに包んで鈍器として使い、被害者を殴打した! ……そしてトドメは、研ぎ澄ませた『専用スプーン』だ!」
湊が指差す。
「トイレのドアの下に、あなたが折ってしまった『専用スプーン』の青い破片が落ちていますよ! 指紋がついているはずだ!」
販売員が自分のポケットを押さえる。
「あ……」
「動機は!? 早く言え! 俺には時間がないんだ! 1秒もないんだ!」
湊が鬼の形相で迫る。
販売員が、涙目で叫んだ。
「あいつが……あの客が! 私の売ったアイスを!」
「アイスをどうした!」
「『硬すぎて食えねえよ!』って文句を言って……あろうことか、ホットコーヒーをかけて溶かそうとしたのよ!」
「……は?」
「邪道よ! あのアイスは、体温でじっくり溶かしながら食べるのが作法なの! コーヒーをかけるなんて冒涜だわ! 許せなかったのよ!」
「…………」
湊は腹を押さえ、くの字になりながら絶叫した。
「知るかぁぁぁぁ!! アイスの食い方なんて自由だろ!! 俺にとっては、今この腹の中にある『流動体』の方が重大問題なんだ!!」
「な、なによ! 私のプライドアイスより、あんたのウンコの方が大事だって言うの!?」
「当たり前だ!! 国家予算より重い!!」
「ふざけないで! 私は逃げるわ! 次の駅で降りてやる!」
販売員は、目の前の『重厚な車内販売用ワゴン(満載状態で50キロ)』を、湊に向けて突撃させた。
「どきなさい! 轢き殺すわよ!」
轟刑事が「危ない! キラーワゴンの特攻だ!」と叫ぶ。
しかし、湊は動けない。
一歩でも動けば、決壊する。
「に、二階堂……!」
「はいっ!」
「そのアイス野郎を、脱線させろ!」
「イエス・ボス!!」
アリスは、自分の座っていた『グリーン車の座席(3列シート)』に手をかけた。
床のボルトが、悲鳴を上げる。
「えいやぁぁぁぁぁ!!」
ベリベリベリィィィッ!!!
アリスは、座席を床から引き剥がした。
A席、B席、C席が繋がったままの、巨大な鉄塊。
「グリーン料金分の働きはしますよぉぉぉ!」
ドゴォォォォォォォン!!!!!
「きゃあああああ!」
アリスがフルスイングした3列シートが、販売員のワゴンに激突した。
ワゴンは粉砕され、大量のアイスが手裏剣のように飛び散る。
販売員は反動で吹き飛び、後方のデッキまで吹っ飛んでいった。
「……ナイス・リクライニング」
「えへへ、フルフラットにしてやりました!」
湊は、這いつくばりながらトイレに向かった。
「よ、よし……解決だ……。轟さん、犯人はデッキです……。俺は……トイレに……」
湊がトイレのドアに手をかけた。
神よ。
感謝します。
しかし。
「あ、お待ちください!」
車掌が青ざめて叫んだ。
「な、なんだ……もう事件は……」
車掌は、アリスが振り回した『3列シート』の残骸を指差した。
シートの脚が、トイレのドアの電子ロックパネルに深々と突き刺さっている。
「座席の脚が、制御盤を貫通しました!」
「……え?」
「安全装置が作動し、ドアが完全ロックされました! このドアは……車両基地で解体しない限り、二度と開きません!」
ガシュッ。
無情なロック音が、湊の耳に届く。
「そ、そんな……」
「さらに、座席を引き剥がした衝撃で、この車両の電気系統がショートしました。……緊急停止します」
キキキキキキキッ!!!!!
急ブレーキ。
時速300キロからの停止。
G(重力)が、湊の腹部を襲う。
時が、止まった。
湊の腸内で、最後のファンファーレが鳴り響く。
革命軍の勝利宣言だ。
城門が、音もなく開かれていく。
「……二階堂」
「は、はいぃぃ!」
湊は、悟りを開いた仏のような顔で、アリスを見た。
その瞳からは、一筋の涙が流れていた。
「……替えのパンツ、持ってるか?」
「も、持ってませんよぉぉぉ! ここは戦場じゃないですもん!」
「そうか……。なら、俺のコートを貸してくれ。……腰に巻く」
「せ、せんぱぁぁぁぁい!! 尊厳がぁぁぁぁ!!」
車内アナウンスが流れる。
『ただいま、急停車いたしました。安全確認のため、しばらくの間、運転を見合わせます……』
こうして、俺の『社会人としての尊厳』は、新幹線のトイレ前で、アイスと共に溶けて消えた。
だが、俺は諦めない。
俺の伝説(汚名)が風化するその日まで、俺は強く生きていく。
葛城 湊(かつらぎ みなと)の顔色は、死体よりも悪かった。
青を通り越して、土気色だ。
場所は、東京行き新幹線『のぞみ』のグリーン車。
出張帰りの湊は、シートベルトなど存在しない座席で、冷や汗を流しながら、ある一点に全神経を集中させていた。
『肛門』である。
昨晩、接待で食べた『生ガキ(30個)』。
それが今、湊の腸内で『市民革命』を起こしていた。
下腹部で暴れ回る暴徒たち。
括約筋(かつやくきん)という名の城門は、すでに耐久値の限界(レッドゾーン)を迎えている。
「……うぅ……あと5分……」
湊はうわ言のように呟いた。
現在時刻、10時55分。
あと5分耐えれば、この地獄の『腹痛ビッグウェーブ』が一旦引くはずだ。
そうしたら、優雅にトイレへ向かい、すべてを水に流す。
「先輩、顔色が土偶みたいですよ? 駅弁食べます? 『ひっぱりだこ飯』ですよ」
隣の席で、二階堂(にかいどう)アリスがタコを咀嚼している。
その匂いがきつい。
今の湊にとっては、この匂いすら致死性の毒ガスだ。
「……二階堂。俺に話しかけるな。今、城門を守る衛兵たちを鼓舞している」
「衛兵!? 先輩のお尻、戦場なんですか!?」
「黙れ。……よし、波が引いてきた……今だ」
湊は、生まれたての小鹿のように震える足で立ち上がった。
目指すは車両後方の多目的トイレ。
そこは、選ばれし者(グリーン車客)のみが使えるサンクチュアリ。
湊が一歩を踏み出した、その時だった。
「キャーーーーーーッ!!」
悲鳴。
またか。
またなのか。
湊の視線の先、目指すべきトイレのドアが開かれ、中から女性客が崩れ落ちてきた。
そして、開かれたドアの奥には――
便座に座ったまま絶命している、スーツ姿の男性の遺体。
「……嘘だろ」
湊の目の前で、腸内の革命軍が再び蜂起した。
城門が、悲鳴を上げる。
現場は、16号車の多目的トイレ前。
通路は野次馬と車掌で溢れかえり、通行不能になっていた。
そして、その中心で仁王立ちする、見覚えのありすぎるトレンチコート。
「いいか! これは『時速300キロの密室』だ! トイレの鍵は掛かっていた! だが犯人はいない! つまり犯人は、窓から飛び降りた『忍者』だ!」
「……轟さん」
湊は、腹を押さえながら、幽鬼のような声で呼んだ。
「おお、葛城! 奇遇だな! 俺も出張帰りだ! ……どうした、脂汗が凄いぞ? 忍者に怯えているのか?」
「腹が……限界なんです……。トイレを……貸してください……」
「馬鹿者! ここは殺害現場だぞ! 鑑識が来るまで封鎖だ! 次の駅まであと30分、全員動くな!」
「30分……!?」
湊の脳内で、何かが切れる音がした。
理性ではない。
尊厳を繋ぎ止める最後の糸だ。
30分も待てば、俺は社会的に死ぬ。
この満席のグリーン車で、俺は『漏らした男』としてX(旧Twitter)のトレンド入りを果たす。
それだけは。
それだけは、死んでも避けなければならない。
時刻は10時58分。
限界まで、あと2分。
いや、1分かもしれない。
衛兵たちが次々と倒れていくのが分かる。
「……起動(ブート)、緊急事態宣言(パンデミック)。」
ギュルルルルル!!!
腹の轟音と共に、湊の脳が覚醒する。
かつてないほどの集中力。
なぜなら、失敗=社会的な死だからだ。
【超・極限スキャン開始】
視界が赤く染まる。痛みのせいか、怒りのせいか。
……対象A:遺体。胸にアイスピック状の刺し傷。
……対象B:個室内。鍵は内側からロック。
(……ん?)
湊の目が、激痛の中で一点を見逃さない。
トイレのドアの下。
数ミリの隙間に、『青いプラスチック片』が挟まっている。
……対象C:野次馬(乗客)。
そして、通路の奥で、ワゴンを押して立ち尽くしている車内販売のパーサー(女性)。
(あの販売員……)
・視線が泳いでいる。
・そして、ワゴンの上段。
・そこにあるはずの『ある商品』が、一つだけ砕けている。
(……確定)
ワゴンの隅に、凶器の先端が隠されている。
そして、彼女のエプロンのポケットから覗く、不自然な『硬貨』のようなもの。
カカカカッ!
脳内で情報が結合する。
(砕けた商品=新幹線名物『スゴイカタイアイス』)
(凶器=凍らせたスプーン?)
(青い破片=スプーンの柄)
思考時間、0.01秒。
括約筋の限界まで、あと30秒。
「……どけぇぇぇぇ!」
湊は叫び、轟刑事を突き飛ばした。
「おい葛城! 忍者がいたか!?」
「忍者は新幹線に乗りません! いるのは、アイスを愛しすぎた販売員だけです!」
湊は、脂汗を流しながら販売員を指差した。
「犯人は、そこの車内販売のあなただ!」
販売員が目を見開く。
「な、何を! 私はただ通りかかっただけで……」
「嘘をつくな! あなたのワゴンの上段! 『シンカンセンスゴイカタイアイス』が一つ、粉砕されていますね! 凶器に使ったんでしょう!」
「そ、そんな……アイスで人は殺せません!」
「普通のアイスならな! だが、新幹線のアイスはダイヤモンドより硬い! あなたはそれをタオルに包んで鈍器として使い、被害者を殴打した! ……そしてトドメは、研ぎ澄ませた『専用スプーン』だ!」
湊が指差す。
「トイレのドアの下に、あなたが折ってしまった『専用スプーン』の青い破片が落ちていますよ! 指紋がついているはずだ!」
販売員が自分のポケットを押さえる。
「あ……」
「動機は!? 早く言え! 俺には時間がないんだ! 1秒もないんだ!」
湊が鬼の形相で迫る。
販売員が、涙目で叫んだ。
「あいつが……あの客が! 私の売ったアイスを!」
「アイスをどうした!」
「『硬すぎて食えねえよ!』って文句を言って……あろうことか、ホットコーヒーをかけて溶かそうとしたのよ!」
「……は?」
「邪道よ! あのアイスは、体温でじっくり溶かしながら食べるのが作法なの! コーヒーをかけるなんて冒涜だわ! 許せなかったのよ!」
「…………」
湊は腹を押さえ、くの字になりながら絶叫した。
「知るかぁぁぁぁ!! アイスの食い方なんて自由だろ!! 俺にとっては、今この腹の中にある『流動体』の方が重大問題なんだ!!」
「な、なによ! 私のプライドアイスより、あんたのウンコの方が大事だって言うの!?」
「当たり前だ!! 国家予算より重い!!」
「ふざけないで! 私は逃げるわ! 次の駅で降りてやる!」
販売員は、目の前の『重厚な車内販売用ワゴン(満載状態で50キロ)』を、湊に向けて突撃させた。
「どきなさい! 轢き殺すわよ!」
轟刑事が「危ない! キラーワゴンの特攻だ!」と叫ぶ。
しかし、湊は動けない。
一歩でも動けば、決壊する。
「に、二階堂……!」
「はいっ!」
「そのアイス野郎を、脱線させろ!」
「イエス・ボス!!」
アリスは、自分の座っていた『グリーン車の座席(3列シート)』に手をかけた。
床のボルトが、悲鳴を上げる。
「えいやぁぁぁぁぁ!!」
ベリベリベリィィィッ!!!
アリスは、座席を床から引き剥がした。
A席、B席、C席が繋がったままの、巨大な鉄塊。
「グリーン料金分の働きはしますよぉぉぉ!」
ドゴォォォォォォォン!!!!!
「きゃあああああ!」
アリスがフルスイングした3列シートが、販売員のワゴンに激突した。
ワゴンは粉砕され、大量のアイスが手裏剣のように飛び散る。
販売員は反動で吹き飛び、後方のデッキまで吹っ飛んでいった。
「……ナイス・リクライニング」
「えへへ、フルフラットにしてやりました!」
湊は、這いつくばりながらトイレに向かった。
「よ、よし……解決だ……。轟さん、犯人はデッキです……。俺は……トイレに……」
湊がトイレのドアに手をかけた。
神よ。
感謝します。
しかし。
「あ、お待ちください!」
車掌が青ざめて叫んだ。
「な、なんだ……もう事件は……」
車掌は、アリスが振り回した『3列シート』の残骸を指差した。
シートの脚が、トイレのドアの電子ロックパネルに深々と突き刺さっている。
「座席の脚が、制御盤を貫通しました!」
「……え?」
「安全装置が作動し、ドアが完全ロックされました! このドアは……車両基地で解体しない限り、二度と開きません!」
ガシュッ。
無情なロック音が、湊の耳に届く。
「そ、そんな……」
「さらに、座席を引き剥がした衝撃で、この車両の電気系統がショートしました。……緊急停止します」
キキキキキキキッ!!!!!
急ブレーキ。
時速300キロからの停止。
G(重力)が、湊の腹部を襲う。
時が、止まった。
湊の腸内で、最後のファンファーレが鳴り響く。
革命軍の勝利宣言だ。
城門が、音もなく開かれていく。
「……二階堂」
「は、はいぃぃ!」
湊は、悟りを開いた仏のような顔で、アリスを見た。
その瞳からは、一筋の涙が流れていた。
「……替えのパンツ、持ってるか?」
「も、持ってませんよぉぉぉ! ここは戦場じゃないですもん!」
「そうか……。なら、俺のコートを貸してくれ。……腰に巻く」
「せ、せんぱぁぁぁぁい!! 尊厳がぁぁぁぁ!!」
車内アナウンスが流れる。
『ただいま、急停車いたしました。安全確認のため、しばらくの間、運転を見合わせます……』
こうして、俺の『社会人としての尊厳』は、新幹線のトイレ前で、アイスと共に溶けて消えた。
だが、俺は諦めない。
俺の伝説(汚名)が風化するその日まで、俺は強く生きていく。
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