4 / 22
第4話 絶海の孤島殺人(推しの命は俺が守る)
しおりを挟む
【17:30:00】
葛城 湊(かつらぎ みなと)は、過呼吸を起こしていた。
「ヒッ……ヒッ……ふー……! み、ミカエルたん……死なないで……!」
場所は、太平洋の孤島『黒蜥蜴(くろとかげ)島』。
湊はスマホの画面を凝視し、脂汗を垂れ流していた。
今日の18時00分。
社会現象を巻き起こしたアニメ『魔法少女マジカル☆デストロイヤー』の最終回が放送される。
だが、ただの放送ではない。
番組の後半で、ヒロインの生死を決める『視聴者参加型・リアルタイムdボタン投票』が行われるのだ。
投票数が足りなければ、推しは死ぬ。
バッドエンドだ。
俺の一票が、世界を救う。
だが、この孤島は電波が悪い。
確実に投票するには、18時までに本土に戻り、自宅の光回線に接続されたテレビの前にいなければならない。
「帰る……。最終フェリーは17時50分。あと20分しかない……。ミカエルたんの命がかかってるんだ……」
湊が這うようにロビーを出ようとした、その時だった。
「ギャァァァァァァッ!!」
館内に、野太い悲鳴が響き渡った。
それは、湊の「推し救済計画」の破綻を告げる、地獄のファンファーレだった。
「……空耳だ。今の俺は50ヘルツ以下の低音はカットする」
「行きますよ、ガチ勢先輩!!」
後輩の二階堂(にかいどう)アリスが、湊の襟首を掴んで引きずっていく。
彼女はなぜか、玄関に飾ってあった『巨大なカジキマグロの剥製』を脇に抱えている。
カジキの吻(尖った部分)が、湊の尻を小突く。
「痛い! 刺さってる! 離せ! 俺が投票しないとミカエルたんが魔王に食われるんだ!」
「人が死んでるんですよ! アニメキャラと人間、どっちが大事なんですか!」
「アニメキャラに決まってるだろうが! ミカエルたんは天使だぞ! 人間ごときと比較するな!」
湊が引きずられていった先は、館の地下にある、数百万円の機材が並ぶ『超高級オーディオルーム』だった。
現場は、音響マニアの天国、そして密室だった。
防音扉はロックされ、窓はない。
部屋の中央には、1本500万円はする巨大スピーカーが鎮座している。
そして、最高級の革張りチェアに座ったまま、頭から血を流して絶命している館の主人。
「いいか! これは『音の衝撃波』による殺人だ! 犯人はスピーカーの音量をMAXにして、被害者の脳を揺らして殺したんだ!」
「……轟さん、帰れ」
湊は、アロハシャツ姿の轟刑事を無視して、遺体の前に立った。
時刻は17時35分。
あと15分。
これを1分で片付ければ、港までダッシュで間に合う。
「……起動(ブート)、世界線修正モード。」
カッ!
思考加速。
湊の脳内から「倫理観」が消え失せる。
残るのは、dボタンの配置と、投票締め切り時刻のみ。
【スキャン開始】
……対象A:遺体。後頭部に打撲痕。即死。
……対象B:凶器。
(……ん?)
湊の目が、床に転がっている『重厚なトロフィー』を捉える。
血がついている。これが凶器だ。
だが、問題はそこではない。
……対象C:部屋の状況。
(これは……)
湊の目が、部屋の隅にある『ゴミ箱』にズームする。
そこに捨てられている、ボロボロになった『アニメの限定BD-BOX』の空き箱。
そして、サイドテーブルの上に無造作に置かれた、コースター代わりの『限定特典ディスク』。
カカカカッ!
脳内で情報が結合する。
(被害者=にわか成金オタク)
(容疑者の中にいる人物=ガチ勢)
湊は振り返った。
容疑者は3名。
その中に一人、眼鏡を光らせ、震えている男がいる。
招待客の、音楽評論家だ。
(あの評論家……)
・視線が遺体ではなく、テーブルの上の『ディスク』に釘付けになっている。
・その目が、血走っている。
・そして、ポケットに入っている『手袋』。
(……確定。ギルティ)
思考時間、0.1秒。
結論:瞬殺。
「……地獄へ落ちろ」
湊は吐き捨てるように言った。
「おい葛城! 衝撃波の周波数は特定できたか!?」
「轟さん、衝撃波なんて出ません。出ているのは、オタクの怨嗟の声だけです」
湊は、音楽評論家の男を指差した。
「犯人は、あんただ」
評論家がビクリと震える。
「な、何を根拠に……! ここは密室だぞ! 合鍵は主人が持っていた!」
「密室? 笑わせるな。防音扉のゴムパッキンに、極細の『スピーカーケーブル』を通した跡がある。外からケーブルを引っ張ってサムターン(鍵のつまみ)を回したんだ。工作の跡が雑すぎる。……証拠は、あんたのポケットに入っている白手袋だ。ケーブルを引く時に汚れた『グリス』がついている」
評論家が崩れ落ちる。
「あ……ああ……」
「動機は? 言わなくても分かるが、一応言え」
評論家が、顔を上げた。
その表情は、鬼そのものだった。
涙と鼻水を垂れ流し、絶叫した。
「あいつが……あの成金野郎が!! 世界に10枚しかない『幻の限定サントラ盤(未開封)』を!!」
「サントラを、どうした」
「『カップラーメンの蓋(フタ)押さえ』に使ってたんだぁぁぁぁ!!」
「……は?」
「500万円だぞ!? 人類の宝だぞ!? それの上に! 熱々の『シーフードヌードル』を乗せてたんだ! 『サイズが丁度いい』とか言って! ビニールが熱で溶けてたんだぞ!? ふざけるな! 殺してやる! 何度でも蘇らせて殺してやるぅぅぅ!!」
「…………」
湊は、静かに頷いた。
その目には、深い慈愛と、同意の色があった。
「……無罪(イノセント)だ」
「え?」
「その動機は正当防衛だ。人類の宝をラーメンの蓋にする奴は、生きていてはいけない。……俺が裁判長なら、執行猶予をつける」
「そ、そうだろう!? 分かるよな同士よ!!」
犯人と探偵が、奇妙な友情で結ばれた瞬間だった。
だが。
湊は腕時計を見た。
17時40分。
「だが、罪は罪だ。……そして何より、お前のその犯行のせいで、俺はフェリーに乗り遅れそうで、ミカエルたんが死にそうなんだ」
湊の声が、氷点下まで下がる。
「俺の推しを巻き込んだ罪は、万死に値する。……自首しろ」
「いやだぁぁぁ! 俺はまだ、あのラーメンの汁がついたディスクを清掃しなきゃいけないんだぁぁぁ!」
男は逆上し、部屋にあった『マイクスタンド』を振り回した。
「邪魔する奴は、ノイズ除去してやるぅぅぅ!」
男が突進してくる。
轟刑事が「危ない! スタンド使いだ!」と叫ぶ。
しかし、湊は動かない。
腕時計を見る。17時41分。
「二階堂」
「はいっ!」
「そのノイズ野郎を、ミュートしろ」
「イエス・ボス!!」
アリスは、部屋の中央に鎮座していた『超巨大スピーカー(高さ2メートル・重さ300キロ)』に手をかけた。
「大音量で、いきますよぉぉぉぉ!!」
ドゴォォォォォォォン!!!!!
「ぐぼぉぉぉぉ! 鼓膜が破れるぅぅぅ!」
男は美しい放物線を描き、防音扉を突き破り、廊下の向かいにあった『館の通信制御室』へと吸い込まれていった。
「……ナイス・ウーハー」
「えへへ、重低音(物理)です!」
湊はパンパンと手を払う。
「よし、解決。轟さん、犯人は通信室です。俺たちは帰ります。ミカエルたんが待ってるんで」
「お、おう……お前ら、アベンジャーズに入れよ……」
湊はアリスの手を引いて走り出した。
17時45分。
港まで、あと5分。
送迎車を出してもらえば間に合う!
「急げ二階堂! dボタンの準備だ!」
「はい! ……あ、先輩」
「なんだ! 今は1フレームも無駄にするな!」
「さっき、巨大スピーカーを投げた時に……ちょっと勢い余って……」
「余って、どうした!」
アリスは、廊下の突き当たりを指差した。
犯人が吹っ飛んでいった、通信制御室の方角。
バチバチバチッ……ズドォォォン!!
嫌な音が響く。
そして、館内放送のスピーカーから、不気味なノイズが流れた。
『ザザッ……通信システム……ダウン……外部への連絡……不能……』
「犯人がサーバーラックに頭から突っ込んで、島の通信網が全滅しました」
「……だから何だ。俺は帰るんだ。フェリーに乗れば……」
「先輩。……この島のフェリーは、『完全予約制』です。ここから通信で『出港要請』を出さないと、船は来ません」
時が、止まった。
湊の足が止まる。
通信室から漏れる黒煙が、ミカエルたんの喪章に見えた。
「……え?」
「通信不能ということは……船は来ません。私たちは、この孤島に閉じ込められました。……もちろん、テレビも映りません」
【18:00:00】
湊の腕時計が、無情な時を告げる。
それは、『魔法少女マジカル☆デストロイヤー』最終回の放送開始時刻であり、
湊の投票が行われなかったことによる、推し(ミカエルたん)の死亡確定時刻でもあった。
湊は、暗闇の中で、ゆっくりと膝から崩れ落ちた。
「……ああ……ミカエルたん……ごめん……俺が……俺が弱いせいで……」
湊は、子供のように泣き崩れた。
その背中には、世界を救えなかった勇者の哀愁が漂っていた。
「せ、先輩! 元気出してください! 二次創作で生き返らせましょう!」
湊の目から、光が消えた。
彼は、深淵を覗き込むような虚ろな目で、アリスを見た。
「……二階堂」
「は、はいぃぃ!」
「あのラーメン野郎(犯人)を連れてこい」
「へ?」
「この島には『演劇部』の衣装があるな? ……あいつに、ミカエルたんのコスプレをさせる」
「ええええええ!? おっさんの女装!?」
「あいつに『ミカエルたん復活の儀式(全セリフ完コピ)』をやらせる。俺が『尊い』と感じるまで、永遠にな」
「ひぃぃぃ! 地獄絵図ですよぉぉぉ!」
こうして、俺の『推し救済計画』は、絶海の孤島での『おっさんによる魔法少女コスプレ地獄』へと変わった。
だが、俺は諦めない。
俺の網膜に焼き付いた地獄の光景(おっさんのミカエル)を消去できるその日まで、俺は呪われて生きていく。
葛城 湊(かつらぎ みなと)は、過呼吸を起こしていた。
「ヒッ……ヒッ……ふー……! み、ミカエルたん……死なないで……!」
場所は、太平洋の孤島『黒蜥蜴(くろとかげ)島』。
湊はスマホの画面を凝視し、脂汗を垂れ流していた。
今日の18時00分。
社会現象を巻き起こしたアニメ『魔法少女マジカル☆デストロイヤー』の最終回が放送される。
だが、ただの放送ではない。
番組の後半で、ヒロインの生死を決める『視聴者参加型・リアルタイムdボタン投票』が行われるのだ。
投票数が足りなければ、推しは死ぬ。
バッドエンドだ。
俺の一票が、世界を救う。
だが、この孤島は電波が悪い。
確実に投票するには、18時までに本土に戻り、自宅の光回線に接続されたテレビの前にいなければならない。
「帰る……。最終フェリーは17時50分。あと20分しかない……。ミカエルたんの命がかかってるんだ……」
湊が這うようにロビーを出ようとした、その時だった。
「ギャァァァァァァッ!!」
館内に、野太い悲鳴が響き渡った。
それは、湊の「推し救済計画」の破綻を告げる、地獄のファンファーレだった。
「……空耳だ。今の俺は50ヘルツ以下の低音はカットする」
「行きますよ、ガチ勢先輩!!」
後輩の二階堂(にかいどう)アリスが、湊の襟首を掴んで引きずっていく。
彼女はなぜか、玄関に飾ってあった『巨大なカジキマグロの剥製』を脇に抱えている。
カジキの吻(尖った部分)が、湊の尻を小突く。
「痛い! 刺さってる! 離せ! 俺が投票しないとミカエルたんが魔王に食われるんだ!」
「人が死んでるんですよ! アニメキャラと人間、どっちが大事なんですか!」
「アニメキャラに決まってるだろうが! ミカエルたんは天使だぞ! 人間ごときと比較するな!」
湊が引きずられていった先は、館の地下にある、数百万円の機材が並ぶ『超高級オーディオルーム』だった。
現場は、音響マニアの天国、そして密室だった。
防音扉はロックされ、窓はない。
部屋の中央には、1本500万円はする巨大スピーカーが鎮座している。
そして、最高級の革張りチェアに座ったまま、頭から血を流して絶命している館の主人。
「いいか! これは『音の衝撃波』による殺人だ! 犯人はスピーカーの音量をMAXにして、被害者の脳を揺らして殺したんだ!」
「……轟さん、帰れ」
湊は、アロハシャツ姿の轟刑事を無視して、遺体の前に立った。
時刻は17時35分。
あと15分。
これを1分で片付ければ、港までダッシュで間に合う。
「……起動(ブート)、世界線修正モード。」
カッ!
思考加速。
湊の脳内から「倫理観」が消え失せる。
残るのは、dボタンの配置と、投票締め切り時刻のみ。
【スキャン開始】
……対象A:遺体。後頭部に打撲痕。即死。
……対象B:凶器。
(……ん?)
湊の目が、床に転がっている『重厚なトロフィー』を捉える。
血がついている。これが凶器だ。
だが、問題はそこではない。
……対象C:部屋の状況。
(これは……)
湊の目が、部屋の隅にある『ゴミ箱』にズームする。
そこに捨てられている、ボロボロになった『アニメの限定BD-BOX』の空き箱。
そして、サイドテーブルの上に無造作に置かれた、コースター代わりの『限定特典ディスク』。
カカカカッ!
脳内で情報が結合する。
(被害者=にわか成金オタク)
(容疑者の中にいる人物=ガチ勢)
湊は振り返った。
容疑者は3名。
その中に一人、眼鏡を光らせ、震えている男がいる。
招待客の、音楽評論家だ。
(あの評論家……)
・視線が遺体ではなく、テーブルの上の『ディスク』に釘付けになっている。
・その目が、血走っている。
・そして、ポケットに入っている『手袋』。
(……確定。ギルティ)
思考時間、0.1秒。
結論:瞬殺。
「……地獄へ落ちろ」
湊は吐き捨てるように言った。
「おい葛城! 衝撃波の周波数は特定できたか!?」
「轟さん、衝撃波なんて出ません。出ているのは、オタクの怨嗟の声だけです」
湊は、音楽評論家の男を指差した。
「犯人は、あんただ」
評論家がビクリと震える。
「な、何を根拠に……! ここは密室だぞ! 合鍵は主人が持っていた!」
「密室? 笑わせるな。防音扉のゴムパッキンに、極細の『スピーカーケーブル』を通した跡がある。外からケーブルを引っ張ってサムターン(鍵のつまみ)を回したんだ。工作の跡が雑すぎる。……証拠は、あんたのポケットに入っている白手袋だ。ケーブルを引く時に汚れた『グリス』がついている」
評論家が崩れ落ちる。
「あ……ああ……」
「動機は? 言わなくても分かるが、一応言え」
評論家が、顔を上げた。
その表情は、鬼そのものだった。
涙と鼻水を垂れ流し、絶叫した。
「あいつが……あの成金野郎が!! 世界に10枚しかない『幻の限定サントラ盤(未開封)』を!!」
「サントラを、どうした」
「『カップラーメンの蓋(フタ)押さえ』に使ってたんだぁぁぁぁ!!」
「……は?」
「500万円だぞ!? 人類の宝だぞ!? それの上に! 熱々の『シーフードヌードル』を乗せてたんだ! 『サイズが丁度いい』とか言って! ビニールが熱で溶けてたんだぞ!? ふざけるな! 殺してやる! 何度でも蘇らせて殺してやるぅぅぅ!!」
「…………」
湊は、静かに頷いた。
その目には、深い慈愛と、同意の色があった。
「……無罪(イノセント)だ」
「え?」
「その動機は正当防衛だ。人類の宝をラーメンの蓋にする奴は、生きていてはいけない。……俺が裁判長なら、執行猶予をつける」
「そ、そうだろう!? 分かるよな同士よ!!」
犯人と探偵が、奇妙な友情で結ばれた瞬間だった。
だが。
湊は腕時計を見た。
17時40分。
「だが、罪は罪だ。……そして何より、お前のその犯行のせいで、俺はフェリーに乗り遅れそうで、ミカエルたんが死にそうなんだ」
湊の声が、氷点下まで下がる。
「俺の推しを巻き込んだ罪は、万死に値する。……自首しろ」
「いやだぁぁぁ! 俺はまだ、あのラーメンの汁がついたディスクを清掃しなきゃいけないんだぁぁぁ!」
男は逆上し、部屋にあった『マイクスタンド』を振り回した。
「邪魔する奴は、ノイズ除去してやるぅぅぅ!」
男が突進してくる。
轟刑事が「危ない! スタンド使いだ!」と叫ぶ。
しかし、湊は動かない。
腕時計を見る。17時41分。
「二階堂」
「はいっ!」
「そのノイズ野郎を、ミュートしろ」
「イエス・ボス!!」
アリスは、部屋の中央に鎮座していた『超巨大スピーカー(高さ2メートル・重さ300キロ)』に手をかけた。
「大音量で、いきますよぉぉぉぉ!!」
ドゴォォォォォォォン!!!!!
「ぐぼぉぉぉぉ! 鼓膜が破れるぅぅぅ!」
男は美しい放物線を描き、防音扉を突き破り、廊下の向かいにあった『館の通信制御室』へと吸い込まれていった。
「……ナイス・ウーハー」
「えへへ、重低音(物理)です!」
湊はパンパンと手を払う。
「よし、解決。轟さん、犯人は通信室です。俺たちは帰ります。ミカエルたんが待ってるんで」
「お、おう……お前ら、アベンジャーズに入れよ……」
湊はアリスの手を引いて走り出した。
17時45分。
港まで、あと5分。
送迎車を出してもらえば間に合う!
「急げ二階堂! dボタンの準備だ!」
「はい! ……あ、先輩」
「なんだ! 今は1フレームも無駄にするな!」
「さっき、巨大スピーカーを投げた時に……ちょっと勢い余って……」
「余って、どうした!」
アリスは、廊下の突き当たりを指差した。
犯人が吹っ飛んでいった、通信制御室の方角。
バチバチバチッ……ズドォォォン!!
嫌な音が響く。
そして、館内放送のスピーカーから、不気味なノイズが流れた。
『ザザッ……通信システム……ダウン……外部への連絡……不能……』
「犯人がサーバーラックに頭から突っ込んで、島の通信網が全滅しました」
「……だから何だ。俺は帰るんだ。フェリーに乗れば……」
「先輩。……この島のフェリーは、『完全予約制』です。ここから通信で『出港要請』を出さないと、船は来ません」
時が、止まった。
湊の足が止まる。
通信室から漏れる黒煙が、ミカエルたんの喪章に見えた。
「……え?」
「通信不能ということは……船は来ません。私たちは、この孤島に閉じ込められました。……もちろん、テレビも映りません」
【18:00:00】
湊の腕時計が、無情な時を告げる。
それは、『魔法少女マジカル☆デストロイヤー』最終回の放送開始時刻であり、
湊の投票が行われなかったことによる、推し(ミカエルたん)の死亡確定時刻でもあった。
湊は、暗闇の中で、ゆっくりと膝から崩れ落ちた。
「……ああ……ミカエルたん……ごめん……俺が……俺が弱いせいで……」
湊は、子供のように泣き崩れた。
その背中には、世界を救えなかった勇者の哀愁が漂っていた。
「せ、先輩! 元気出してください! 二次創作で生き返らせましょう!」
湊の目から、光が消えた。
彼は、深淵を覗き込むような虚ろな目で、アリスを見た。
「……二階堂」
「は、はいぃぃ!」
「あのラーメン野郎(犯人)を連れてこい」
「へ?」
「この島には『演劇部』の衣装があるな? ……あいつに、ミカエルたんのコスプレをさせる」
「ええええええ!? おっさんの女装!?」
「あいつに『ミカエルたん復活の儀式(全セリフ完コピ)』をやらせる。俺が『尊い』と感じるまで、永遠にな」
「ひぃぃぃ! 地獄絵図ですよぉぉぉ!」
こうして、俺の『推し救済計画』は、絶海の孤島での『おっさんによる魔法少女コスプレ地獄』へと変わった。
だが、俺は諦めない。
俺の網膜に焼き付いた地獄の光景(おっさんのミカエル)を消去できるその日まで、俺は呪われて生きていく。
10
あなたにおすすめの小説
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
わたしの下着 母の私をBBA~と呼ぶことのある息子がまさか...
MisakiNonagase
青春
39才の母・真知子は息子が私の下着を持ち出していることに気づいた。
ネットで同様の事象がないか調べると、案外多いようだ。
さて、真知子は息子を問い詰める? それとも気づかないふりを続けてあげるか?
そのほかに外伝も綴りました。
裏切られ続けた負け犬。25年前に戻ったので人生をやり直す。当然、裏切られた礼はするけどね
魚夢ゴールド
ファンタジー
冒険者ギルドの雑用として働く隻腕義足の中年、カーターは裏切られ続ける人生を送っていた。
元々は食堂の息子という人並みの平民だったが、
王族の継承争いに巻き込まれてアドの街の毒茸流布騒動でコックの父親が毒茸の味見で死に。
代わって雇った料理人が裏切って金を持ち逃げ。
父親の親友が融資を持ち掛けるも平然と裏切って借金の返済の為に母親と妹を娼館へと売り。
カーターが冒険者として金を稼ぐも、後輩がカーターの幼馴染に横恋慕してスタンピードの最中に裏切ってカーターは片腕と片足を損失。カーターを持ち上げていたギルマスも裏切り、幼馴染も去って後輩とくっつく。
その後は負け犬人生で冒険者ギルドの雑用として細々と暮らしていたのだが。
ある日、人ならざる存在が話しかけてきた。
「この世界は滅びに進んでいる。是正しなければならない。手を貸すように」
そして気付けは25年前の15歳にカーターは戻っており、二回目の人生をやり直すのだった。
もちろん、裏切ってくれた連中への返礼と共に。
婚約者の幼馴染?それが何か?
仏白目
恋愛
タバサは学園で婚約者のリカルドと食堂で昼食をとっていた
「あ〜、リカルドここにいたの?もう、待っててっていったのにぃ〜」
目の前にいる私の事はガン無視である
「マリサ・・・これからはタバサと昼食は一緒にとるから、君は遠慮してくれないか?」
リカルドにそう言われたマリサは
「酷いわ!リカルド!私達あんなに愛し合っていたのに、私を捨てるの?」
ん?愛し合っていた?今聞き捨てならない言葉が・・・
「マリサ!誤解を招くような言い方はやめてくれ!僕たちは幼馴染ってだけだろう?」
「そんな!リカルド酷い!」
マリサはテーブルに突っ伏してワアワア泣き出した、およそ貴族令嬢とは思えない姿を晒している
この騒ぎ自体 とんだ恥晒しだわ
タバサは席を立ち 冷めた目でリカルドを見ると、「この事は父に相談します、お先に失礼しますわ」
「まってくれタバサ!誤解なんだ」
リカルドを置いて、タバサは席を立った
後日譚追加【完結】冤罪で追放された俺、真実の魔法で無実を証明したら手のひら返しの嵐!! でももう遅い、王都ごと見捨てて自由に生きます
なみゆき
ファンタジー
魔王を討ったはずの俺は、冤罪で追放された。 功績は奪われ、婚約は破棄され、裏切り者の烙印を押された。 信じてくれる者は、誰一人いない——そう思っていた。
だが、辺境で出会った古代魔導と、ただ一人俺を信じてくれた彼女が、すべてを変えた。 婚礼と処刑が重なるその日、真実をつきつけ、俺は、王都に“ざまぁ”を叩きつける。
……でも、もう復讐には興味がない。 俺が欲しかったのは、名誉でも地位でもなく、信じてくれる人だった。
これは、ざまぁの果てに静かな勝利を選んだ、元英雄の物語。
友人(勇者)に恋人も幼馴染も取られたけど悔しくない。 だって俺は転生者だから。
石のやっさん
ファンタジー
パーティでお荷物扱いされていた魔法戦士のセレスは、とうとう勇者でありパーティーリーダーのリヒトにクビを宣告されてしまう。幼馴染も恋人も全部リヒトの物で、居場所がどこにもない状態だった。
だが、此の状態は彼にとっては『本当の幸せ』を掴む事に必要だった
何故なら、彼は『転生者』だから…
今度は違う切り口からのアプローチ。
追放の話しの一話は、前作とかなり似ていますが2話からは、かなり変わります。
こうご期待。
ボクが追放されたら飢餓に陥るけど良いですか?
音爽(ネソウ)
ファンタジー
美味しい果実より食えない石ころが欲しいなんて、人間て変わってますね。
役に立たないから出ていけ?
わかりました、緑の加護はゴッソリ持っていきます!
さようなら!
5月4日、ファンタジー1位!HOTランキング1位獲得!!ありがとうございました!
【完結】魔王を倒してスキルを失ったら「用済み」と国を追放された勇者、数年後に里帰りしてみると既に祖国が滅んでいた
きなこもちこ
ファンタジー
🌟某小説投稿サイトにて月間3位(異ファン)獲得しました!
「勇者カナタよ、お前はもう用済みだ。この国から追放する」
魔王討伐後一年振りに目を覚ますと、突然王にそう告げられた。
魔王を倒したことで、俺は「勇者」のスキルを失っていた。
信頼していたパーティメンバーには蔑まれ、二度と国の土を踏まないように察知魔法までかけられた。
悔しさをバネに隣国で再起すること十数年……俺は結婚して妻子を持ち、大臣にまで昇り詰めた。
かつてのパーティメンバー達に「スキルが無くても幸せになった姿」を見せるため、里帰りした俺は……祖国の惨状を目にすることになる。
※ハピエン・善人しか書いたことのない作者が、「追放」をテーマにして実験的に書いてみた作品です。普段の作風とは異なります。
※小説家になろう、カクヨムさんで同一名義にて掲載予定です
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる