殺人事件? 知ったことか、俺は定時で帰る。

白山 乃愛

文字の大きさ
20 / 22

第18話 100万再生の代償(後編:その箱はアートになる)

しおりを挟む
【数日後 22:00:00】

葛城探偵事務所。
異様な緊張感が漂っていた。

「……ふっふっふ。……聖。今回の俺は『天才』だ」

葛城 湊が、ニヤリと笑う。
事務所の中央には、万年床が敷かれている。
そして、その横には人間一人が入れるサイズの『業務用スチールロッカー』が置かれていた。

「今回の企画は『超・寝配信』だ! 俺はただ寝る! 視聴者からのスパチャ(投げ銭)に応じて過激な罰ゲームを受けるが、朝まで一歩も動かなければ総取りだ!」

「……ほう。……前回の『醤油ロケット』で全身打撲のはずですが、耐えられるのですか?」

御茶ノ水 聖が、疑いの目を向ける。

「愚問だな。……俺の精神力はダイヤモンドだ。……さあ、配信スタートだ!」

湊が布団に潜り込み、毛布を頭まで被る。
配信開始。
タイトル:『【閲覧注意】激痛に耐えながら朝まで寝てみた(画質軽量版)』

   

【配信開始 10分後】

布団の中にいるのは、湊ではない。
湊のパジャマを着た、二階堂アリスだ。
顔には、アリスがマジックで描いた『へのへのもへじ』のようなお面をつけている。
本来なら即バレするクオリティだが、湊が画質設定を『144p(最低画質)』にしているため、視聴者にはボヤけたイケメンに見えていた。

『画質ワロタw』
『回線弱すぎだろ』
『本当に寝てるのか?』

ピロン♪(1000円)

聖がマイクに向かって淡々と言う。

「……1000円のスパチャ、ありがとうございます。……メニュー1番『熱々の鍋焼きうどん(直乗せ)』です」

聖が、コンロで煮えたぎった鍋を、布団の上(顔面付近)に置いた。
ジュウウウウ!

普通なら火傷する。
しかし。

「…………(スヤァ)」

アリス(偽湊)はピクリとも動かない。
彼女の皮膚は、ゴリラの革より頑丈だ。

『えっ?』
『熱くないの?』
『皮膚感覚死んでるのかwww』

ピロリン♪(50000円)

「……5万円入りました。……メニュー2番『サボテンとの抱擁』です」

聖が、トゲだらけの巨大サボテンを布団の中にねじ込んだ。
ブスッ! ザクッ!

「…………(ムニャムニャ)」

アリスはサボテンを抱き枕のように抱きしめ、二度寝を始めた。

『すげぇぇぇ!!』
『こいつ鉄人か!?』
『感動した! 赤スパ(高額投げ銭)投げるわ!』

チャリン! ピロリン! ドガァァァン!
画面が虹色のスパチャで埋め尽くされる。
総額500万円突破。
伝説の神回となっていた。

   

【その頃、事務所の片隅で】

画面には映らない、部屋の隅にあるロッカーの中。

「……クックック。……チョロい。チョロすぎるぜ愚民ども」

本物の湊が、狭いロッカーの中でワイン(安物)を揺らしていた。
スマホで配信を見ながら、ほくそ笑んでいる。

これぞ真の『不労所得システム』。
自分は安全地帯で酒を飲み、アリスが体を張って金を稼ぐ。
完璧だ。

「……さて、そろそろツマミのサラミでも食べるか」

湊がロッカーの中でビニールの袋を開けた。
パリッ。

   

【配信画面】

「……ん?」

聖が眼鏡の位置を直した。
高性能集音マイクが、微かなノイズを拾った。
ロッカーの方角から聞こえる、咀嚼音。

聖はニヤリと笑った。
最初から気づいていないわけがなかった。
スパチャが貯まるまで泳がせていただけだ。

「……皆様。……素晴らしい耐久力ですね。……ですが、お気づきでしょうか?」

聖がカメラ目線で語りかける。
照明を落とし、懐中電灯で自分の顔を照らす。

「……部屋の隅にある『開かずのロッカー』から、時折『何かを食べる音』が聞こえることを」

『え? ホラー?』
『ラップ音?』
『あの中に霊がいるのか!?』

「……そこで。……シークレット・メニューを解放します」

聖がテロップを出した。

【緊急クエスト:悪霊退散】
・¥100,000:ロッカーに向けて『ドロップキック』
・¥500,000:ロッカーを『圧縮(プレス)』
・¥1,000,000:ロッカーを『完全粉砕(スクラップ)』

『うおおおおお! 除霊だ!』
『ロッカーの中身が気になる!』
『湊(偽)よ! 悪霊を倒せ!』

ピロリン♪(10万円)

「……10万円入りました。……おい、そこで寝ている『湊』さん」

「……あ、はいっ!」

布団の中のアリス(偽湊)が、野太い声で返事をして飛び起きた。
お面がズレて『へのへのもへじ』が見えているが、画質が悪いので視聴者は気づかない。

「……リクエストです。……あのロッカーに『ドロップキック』をお願いします」

「ラジャです! ……悪霊退散!」

アリスが布団から飛び出し、助走をつけてロッカーに向かった。

「……ま、待て! やめろ!」

ロッカーの中から、本物の湊の悲鳴が聞こえる。
しかし、アリスには聞こえない。
彼女は「湊になりきっている」ため、仕事に忠実だ。

「……マッスル・キックぅぅぅ!!」

ドガァッ!!

「ぎゃあああああああ!!」

ロッカーが大きく凹んだ。
中から断末魔が響く。

『!?』
『今、中で誰か叫んだぞw』
『悪霊の悲鳴か!?』
『もっとやれ! 100万投げるわ!』

ドガァァァン!!(100万円スパチャ)

「……出ました。100万円。……オーダーは『ロッカーの完全粉砕』です」

聖が無慈悲に告げる。
その目は、完全に獲物を狩る獣の目だった。

「……アリスさん。……プレス機になりなさい」

「イエス・P! ……圧縮しますぅ!」

「待ってくれぇぇぇ! 俺だ! 所長だ! 中にいるんだ!」

湊がロッカーを内側から叩く。
しかし、扉は先ほどのキックで歪んでしまい、開かない。
完全なる鉄の棺桶。

「……必殺! マッスル・ハグ・プレス!!」

アリスがロッカーごと抱きしめた。
背中の筋肉が盛り上がり、スーツが弾け飛ぶ。

メキメキメキメキ……!

鉄のロッカーが、アリスの腕の中で、アルミ缶のように潰れていく。
中の空間が、半分になり、3分の1になり……。

「いぎぎぎぎ! あがががが! 薄くなる! 俺が2次元になるぅぅぅ!」

「……ファイナル・スクイーズ!!」

グシャァッ!!

ロッカーは、厚さ10センチほどの『鉄板』に圧縮された。
中からの悲鳴は、もう聞こえなかった。

   

【翌朝 10:00:00】

葛城探偵事務所。
中央には、奇妙な形にねじ曲がった鉄板(元ロッカー)が飾られていた。
タイトルカードが添えられている。

『作品名:欲望の末路(作者:アリス)』

「……く……くるじい……」

鉄板の隙間から、湊のうめき声が聞こえる。
奇跡的に生きていた。
骨が軟体動物のように変形し、隙間にフィットしているらしい。

「……聖……。……スパチャ……。……1000万……」

湊が息も絶え絶えに、金銭を要求する。
体が潰れても、欲望は潰れない。

「……ああ、収益ですか」

聖は、優雅に紅茶を飲みながら言った。

「規約違反です。『替え玉行為』および『心霊商法』が発覚し、アカウントはBANされました」

「……え」

「スパチャは全額返金。……つまり売上は0円です」

「……」

「ですが、朗報があります」

聖がスマホを見せた。
オークションサイトの画面だ。

「この『湊入りの鉄板』を現代アートとして出品したところ……なんと『2000万円』で落札されました」

「……えっ!? 売れた!?」

湊が歓喜する。
体は潰れたが、2000万なら安いものだ。
借金が返せる。

「……ただし」

聖が画面をスクロールする。

「落札者からキャンセルが入りました。……理由は『夜な夜なうめき声が聞こえて気味が悪いから』だそうです」

「……」

「さらに、キャンセル料と配送費、そして『産業廃棄物処理費用』。……私の『プロデュース料』。……締めて『3000万円』の請求です」

「……」

「今回の売上0円を差し引いて、借金総額に『3000万円』上乗せしておきます」

湊は、鉄板の中で泣いた。
涙が鉄の隙間からポタポタと落ちる。

「……二階堂」

「は、はいっ!」

「……このまま……スクラップ工場に……運んでくれ……」

「ダメですよ」

聖が、鉄板の上にお尻を乗せて座った。

「死んだら借金が返せません。……この鉄板のまま、次は『人間カーリング』のストーン役をやってもらいます」

「嫌だぁぁぁぁぁ!! 人間に戻りたいぃぃぃ!!」

薄っぺらくなった湊の悲鳴が、事務所に響き渡る。
楽して稼ごうとした男は、物理的にも社会的にも、ペラペラの存在になってしまったのだ。

俺たちの定時は、もう二度と訪れない。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

わたしの下着 母の私をBBA~と呼ぶことのある息子がまさか...

MisakiNonagase
青春
39才の母・真知子は息子が私の下着を持ち出していることに気づいた。 ネットで同様の事象がないか調べると、案外多いようだ。 さて、真知子は息子を問い詰める? それとも気づかないふりを続けてあげるか? そのほかに外伝も綴りました。

裏切られ続けた負け犬。25年前に戻ったので人生をやり直す。当然、裏切られた礼はするけどね

魚夢ゴールド
ファンタジー
冒険者ギルドの雑用として働く隻腕義足の中年、カーターは裏切られ続ける人生を送っていた。 元々は食堂の息子という人並みの平民だったが、 王族の継承争いに巻き込まれてアドの街の毒茸流布騒動でコックの父親が毒茸の味見で死に。 代わって雇った料理人が裏切って金を持ち逃げ。 父親の親友が融資を持ち掛けるも平然と裏切って借金の返済の為に母親と妹を娼館へと売り。 カーターが冒険者として金を稼ぐも、後輩がカーターの幼馴染に横恋慕してスタンピードの最中に裏切ってカーターは片腕と片足を損失。カーターを持ち上げていたギルマスも裏切り、幼馴染も去って後輩とくっつく。 その後は負け犬人生で冒険者ギルドの雑用として細々と暮らしていたのだが。 ある日、人ならざる存在が話しかけてきた。 「この世界は滅びに進んでいる。是正しなければならない。手を貸すように」 そして気付けは25年前の15歳にカーターは戻っており、二回目の人生をやり直すのだった。 もちろん、裏切ってくれた連中への返礼と共に。 

婚約者の幼馴染?それが何か?

仏白目
恋愛
タバサは学園で婚約者のリカルドと食堂で昼食をとっていた 「あ〜、リカルドここにいたの?もう、待っててっていったのにぃ〜」 目の前にいる私の事はガン無視である 「マリサ・・・これからはタバサと昼食は一緒にとるから、君は遠慮してくれないか?」 リカルドにそう言われたマリサは 「酷いわ!リカルド!私達あんなに愛し合っていたのに、私を捨てるの?」 ん?愛し合っていた?今聞き捨てならない言葉が・・・ 「マリサ!誤解を招くような言い方はやめてくれ!僕たちは幼馴染ってだけだろう?」 「そんな!リカルド酷い!」 マリサはテーブルに突っ伏してワアワア泣き出した、およそ貴族令嬢とは思えない姿を晒している  この騒ぎ自体 とんだ恥晒しだわ タバサは席を立ち 冷めた目でリカルドを見ると、「この事は父に相談します、お先に失礼しますわ」 「まってくれタバサ!誤解なんだ」 リカルドを置いて、タバサは席を立った

後日譚追加【完結】冤罪で追放された俺、真実の魔法で無実を証明したら手のひら返しの嵐!! でももう遅い、王都ごと見捨てて自由に生きます

なみゆき
ファンタジー
魔王を討ったはずの俺は、冤罪で追放された。 功績は奪われ、婚約は破棄され、裏切り者の烙印を押された。 信じてくれる者は、誰一人いない——そう思っていた。 だが、辺境で出会った古代魔導と、ただ一人俺を信じてくれた彼女が、すべてを変えた。 婚礼と処刑が重なるその日、真実をつきつけ、俺は、王都に“ざまぁ”を叩きつける。 ……でも、もう復讐には興味がない。 俺が欲しかったのは、名誉でも地位でもなく、信じてくれる人だった。 これは、ざまぁの果てに静かな勝利を選んだ、元英雄の物語。

友人(勇者)に恋人も幼馴染も取られたけど悔しくない。 だって俺は転生者だから。

石のやっさん
ファンタジー
パーティでお荷物扱いされていた魔法戦士のセレスは、とうとう勇者でありパーティーリーダーのリヒトにクビを宣告されてしまう。幼馴染も恋人も全部リヒトの物で、居場所がどこにもない状態だった。 だが、此の状態は彼にとっては『本当の幸せ』を掴む事に必要だった 何故なら、彼は『転生者』だから… 今度は違う切り口からのアプローチ。 追放の話しの一話は、前作とかなり似ていますが2話からは、かなり変わります。 こうご期待。

ボクが追放されたら飢餓に陥るけど良いですか?

音爽(ネソウ)
ファンタジー
美味しい果実より食えない石ころが欲しいなんて、人間て変わってますね。 役に立たないから出ていけ? わかりました、緑の加護はゴッソリ持っていきます! さようなら! 5月4日、ファンタジー1位!HOTランキング1位獲得!!ありがとうございました!

【完結】魔王を倒してスキルを失ったら「用済み」と国を追放された勇者、数年後に里帰りしてみると既に祖国が滅んでいた

きなこもちこ
ファンタジー
🌟某小説投稿サイトにて月間3位(異ファン)獲得しました! 「勇者カナタよ、お前はもう用済みだ。この国から追放する」 魔王討伐後一年振りに目を覚ますと、突然王にそう告げられた。 魔王を倒したことで、俺は「勇者」のスキルを失っていた。 信頼していたパーティメンバーには蔑まれ、二度と国の土を踏まないように察知魔法までかけられた。 悔しさをバネに隣国で再起すること十数年……俺は結婚して妻子を持ち、大臣にまで昇り詰めた。 かつてのパーティメンバー達に「スキルが無くても幸せになった姿」を見せるため、里帰りした俺は……祖国の惨状を目にすることになる。 ※ハピエン・善人しか書いたことのない作者が、「追放」をテーマにして実験的に書いてみた作品です。普段の作風とは異なります。 ※小説家になろう、カクヨムさんで同一名義にて掲載予定です

処理中です...