殺人事件? 知ったことか、俺は定時で帰る。

白山 乃愛

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第19話 リモートワークの罠(後編:永遠の労働機関)

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「ひいいぃぃぃぃ!?」

湊が椅子から転げ落ちる。
パチンコ台の中に、聖がいる。
ラオウの代わりに、聖が立ちはだかっている。

「……な、なんでお前がここに!?」

『……この店のセキュリティシステムに介入(ハッキング)しました。……店長には「特別演出」として許可を得ています』

『聖』が、液晶画面の中でオーラを纏った。
もはや世紀末覇者だ。

『……さあ、バトル開始です』

液晶画面にテロップが出る。
【BATTLE BONUS: 借金返済モード突入】

『……ルールは簡単です。……確変が終わるまで、その場から動くことは許可しません』

「……え?」

『……獲得した出玉は、全て私の口座に直結した「電子計数機」に吸い込まれます。……つまり、出せば出すほど借金が減ります(微々たるものですが)』

「……ま、待て! 俺の取り分は!?」

『……ありません。……これは「強制労働」です』

『……行くぞおおお!』

液晶の中の聖が、北斗百裂拳ならぬ『電卓百裂拳』を繰り出した。

アタタタタタタタタタ!!(計算音)

『……大当たり! 1500発! ……借金返済額、6000円!』

台から玉が出る。
しかし、湊の手元には残らない。
全て自動で吸い込まれていく。

「やめろぉぉぉ! 俺の玉が! 俺の輝きがぁぁぁ!」

『……継続率84%です。……簡単には終わらせませんよ?』

聖がニヤリと笑う。
それは、終わらない地獄の始まりだった。

   

【5時間後 15:00:00】

「……もう……終わってくれ……。……ラオウ……俺を倒してくれ……」

湊は、ハンドルを握ったまま泣いていた。
確変が止まらない。
まさかの50連チャン。
一撃7万発。
普段なら脳汁が溢れ出る大記録だ。

しかし、今の湊にとっては「タダ働き」の時間が延びるだけ。
トイレにも行かせてもらえず、ただ虚無の作業を強いられている。

『……まだまだぁ! ……セグ(計算)は残っていますよ!』

液晶の中の聖が、無慈悲に復活演出を出す。
リン(アリス)が「ケーーーーン!!」と叫ぶたびに、湊は「ギャァァァァ!」と絶望する。

隣のアリスは、段ボールの中で爆睡していた。

「……先輩……。……まだ出るんですかぁ……? ……お腹空きましたぁ……」

「……俺だって帰りたいよぉぉぉ!!」

最終的に。
湊は10万発(等価交換で40万円)を叩き出した。
店の記録を更新した。
店員にお祝いのマイクパフォーマンスをされたが、湊の目は死んだ魚のようだった。

   

【18:00:00】

事務所。
湊はげっそりと痩せ細っていた。

「……40万円……。……全部……持っていかれた……」

「……お疲れ様でした、所長」

聖が、ホクホク顔で通帳を見ている。

「……素晴らしい働きぶりでした。……時給換算で8万円。……優秀な『打ち子』ですね」

「……俺は……探偵だ……」

「ですが」

聖が、真顔に戻った。

「……今回の『台のハッキング費用』。……店への『演出協力謝礼金』。……そして、私の『遠隔監視手当』。……締めて『500万円』です」

「……は?」

「……今回の売上40万円を差し引いて、借金総額に『10万円』上乗せしておきます」

「……」

湊は、静かにノートパソコンを閉じた。
そして、二度と開かないようにガムテープでぐるぐる巻きにした。

「……二階堂」

「はいっ!」

「……明日からは……『将棋』だ。……アナログな遊びしかしない……」

「了解です! ……将棋崩しですね!」

湊の目から、一筋の涙がこぼれ落ちた。
大勝ちしたのに借金が増える。
パチンコよりも恐ろしいギャンブル、それは『全残協』という組織そのものだった。

俺たちの定時は、確率変動の彼方に消え失せた。
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