博多に移住して人生をやり直す

耶麻寿

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第十六章 チャレンジ

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12月に入り、奈良屋町店の開店準備は加速している。
涼介と健太が新しく入れた厨房機器のテストを兼ねて、スポンジや焼菓子の試作を続けていた。
俺は引っ越し業者に全てを依頼して、今は3階に住んでいる。
もとの家はハウスクリーニングが終り次第、新しい借主に引き渡されることになっていた。

「名前だけの社長になってから、1年かかって初めて社長室が出来た」
武内社長は自分のオフィスが出来て嬉しそうだ。
事務スぺ―スを含めて7坪だが、会計事務は全てPOSレジ経由のクラウド会計だから派遣社員で済ませる。

「人が足りないから、社長も俺も現場のシフトが組まれています」

「その方が現場のことが分かるから大丈夫だよ。
何かあっても、ここに来れば、いつでも香山さんと話せるわ」
確かに顔を合わせる回数は増えるだろう、風通しがいい組織は上手く行く。

1階のカフェ部分は、プロのインテリアデザイナーに監修を頼んでいる。
煉瓦の壁に白い天井、空間を横切る黒い梁がシックな印象の内装だ。
高い位置の明り取り窓がオーストラリアのカフェっぽい。
ここに椅子とテーブルが入れば、店は形になる。
全ての準備が終わったのは、プレオープンの3日前だった。

「ソウルに行くのが延期になって、悪かったな」
花蓮とは11月にソウル旅行に行く約束をしていたが、スケジュールが押して来年2月に変更してもらった。

「仕方が無いよ。香椎の店を作る予定は無かったし、毅の店が出来上がる大事な時だったもん」
プレオープンの2日前に連れて来た。
涼介や健太とは顔見知りだし、何回か見に来ているので出来上がった店をじっくりと見ていた。

「素敵な店になったね、店内の絵やポスターもセンスいい」

「インテリアデザイナーに任せたんだ。
椅子やテーブルまで決めてもらった」

「お金がかかってるから、プロに任せる事も必要だね」

「ああ、全財産を突っ込んだ上に銀行からも借りてる」

「いくらぐらい?」
本当は余裕があるけど、あえて厳しいと言ってみた。

「建築費を2億円借りた。30年返済だ」

「想像もつかないね」

「失敗したら、店を取り上げられる」

「私も一緒に働いて、返済の手伝いをするよ。パンも焼けるし、料理も自信がある」
ずっとそうだったが、彼女は俺に金銭面では甘えない。
プレゼントも欲しがらないし、あまり奢られるのも嫌ってる。
すぐに割り勘にしようと言い出す。

「困ったら言うから、もう少し待ってくれ」

「分かってる、毅に無理は言わないよ」
花蓮がどんどん大人になっていく。
ちょっと寂しいが、頼もしい面でもある。

「まずは明後日が終わって、正式オープンからが勝負になる」

「明後日は私も来ていいの?」

「是非、来てくれ。ご両親も一緒だと嬉しい」
先週には招待状を出していた。

「弟たちが来たがってるの」

「家族、みんなで来てくれ。是非、俺の店を見てもらいたい」
ここが勝負だ、畳み掛けて行こう。


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