博多に移住して人生をやり直す

耶麻寿

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第十六章 チャレンジ

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珈琲加藤グループの全店は、12月28日で今年の営業を終えた。
新年の営業は4日からなので、6連休になっている。

「香山さん、お正月はどこかに行くんですか?」

「2日、3日以外は暇してるよ」

「俺たちと年越しをしませんか?」
仕事終わりに涼介と健太から誘われた。

「いいけど、どこに行く?」

「俺の田舎が佐賀の古湯温泉なんですよ。農家の正月って興味ないですか?
餅つきや蕎麦打ちしたり、温泉もすぐそこです」
涼介が佐賀出身とは知らなかった。

「興味あるよ。東京生まれで、俺には田舎がないんだ」
俺の人生でも知らないことは多い。

「じゃあ、招待します。香山さんは、お土産のスポンサーになって下さい」

「金で済むなら、ありがたいわ」
Z世代って、休みまで上司と一緒にいたくないはず、誘われることに違和感を感じていた。

「休暇中まで、俺と居るって嫌じゃない?」

「嫌なら誘いませんよ。
一緒にお酒を飲むのが楽しみです」
笑顔の二人を見ると、出発日が楽しみになった。
29日に年末の挨拶周りを済ませて、30日の朝から車で出発する。
途中で二人を乗せて、唐津で青果・鮮魚直売所に寄った。

「涼介、魚を選んでくれ」

「やっぱり一番はクエでしょう」

「じゃあそれで」

「一本3万円ですよ」

「正月の旅館に1人で3泊すれば、6万円じゃすまないよ。
遠慮しないで、他にも欲しいのを買っていい」
結局、クエと赤ナマコ、車エビ、イチゴを買って店を出た。
次に酒蔵に寄って、純米吟醸酒を数本買う。
正月用の祝い酒も手に入れてから、古湯に向かった。

山道を抜けると温泉街に出て、さらに進んだら集落に着いた。
中の大きな屋敷に入ると、涼介の祖父と祖母が出迎えてくれる。
買ってきた魚を降ろして、台所まで運ぶ。
前もって電話を入れておいたが、魚の大きさには驚いていた。

俺たちが泊まるのは少し離れた民家で、昔は一族が住んでいた場所だ。
住民が亡くなった後、親戚一同で管理してゲストハウスとして使っている。

「子供の頃から、両親と遊びに来ていた家です。
五右衛門風呂とか、みんな知らないでしょう?」
浴室に案内された。

「本当に大きな釜だな」

「すのこを足で沈めて入るんです」
土間には薪で調理するかまどまである。

「これで炊く飯は最高です」
考えたら高校時代に行ったキャンプの飯ごう炊飯しか、自分で炊いた記憶が無い。
これは、面白い年越しが迎えられそうだ。

「今年は男手があるから、餅つきも楽だわ」
祖父の指導で餅つきに参加した。
蒸しあがったもち米を石の臼に入れて、杵でつく。
これがなかなか難しい。
涼介は慣れたもので、祖父とのコンビで餅がつき上がった。
台に乗せられた餅の塊を食べる大きさに丸めていく。
流石に和菓子まで習っている二人は手つきが違う。
大きな餅があっという間に、食べるサイズに整えられている。

「香山さんもついて下さい」
慣れない手つきで杵を振るう。
祖父の掛け声に合わせると、何とか形になった。

「美味いなあ」
年末に農家の庭で自分でついた餅を食べる、贅沢な時間を味わうことが出来た。

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