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MORITARIN 6
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Episode -2 C
♦ ♦ ♦ ♦ ♦
気を失って倒れたウグのそばで、モンドは助ける方法も見つけられないまま、ずっとウグの名を呼び続けていた。
モンド:「ウグ! ウグ……おい、ウグ……どうすりゃいいんだ……」
そんなバラクたちの様子を見ていた『紫のマント』は、考え込んだ末に『茶色のマント』を呼ぶ。
パッド:「ロター!」
ロター:「なに?」
パッド:「虫どもって、仲間同士で助け合ったり……するもんなのか?」
ロター:「何言ってんだよ。虫にそんなのない! 余計なこと言ってないで、ここをさっさと片付けるぞ。」
パッド:「俺もそう思ってたけど……あいつら見てみろよ。変じゃないか?」
ロター:「お前が一瞬、勘違いしただけだ……今そんなに忙しくもないけど……」
ロター:「どうする? ここ、俺が片付けちまおうか?」[伸びをしながら]
パッド:「……いや。俺がやる。」
ロター:「……好きにしろ」
パッドは胸に引っかかった感じを押し込め、バラクへ向けて両腕を伸ばした。
今度はさっきと違い、紫がかった白い球体を生み出す。
その球を少し大きくして、バラクへ撃ち込もうとした――その瞬間。
パッド:「……違う。……いや、違う!」
彼は球体の性質を変え、倒れている巨大バラクへ向けて放った。
球体の力がウグを持ち上げ、ゆっくりと遠くへ運び始める。
パッド:「それでも自分だけ助かろうとしないで、ああしてるの……なんか立派だな。今回は見逃す。」
パッド:「……そうだ。生きろ。」
パッドは、なぜか“そうしなきゃいけない”気がした。説明できない、不思議な感覚だった。
[この日、パッドの瞬間的な判断は、のちにとんでもない結果を呼ぶことになる。]
ふわりと浮いて運ばれていくウグを追いかけ、モンドもついて行く。
心配でたまらず、気を失ったウグの名を何度も必死に呼ぶ。
モンド:「ウグ、ウグ……頼む、目ぇ覚ませ……ウグ……」
パッド:「……見ろよ、あれ……。……なんで、あんなことするんだ?」
切断されたウグの前脚の下に、イートが押しつぶされるように倒れているのを見つけたロターは……
とりあえず、その前脚をどこかへ放り投げた。
気絶していたイートは徐々に意識を取り戻し、しばらくして目を開ける。
様子をうかがっていたロターは……やがてイートの意識が戻ったのを確認し、彼のそばへ歩み寄った。
イートは意識が戻り、頭が冴えるにつれ、失っていた記憶も戻ってきたようだった。
イート:[呟く]「あっ……俺は……そうだ!! 逃げなきゃ!」
状況を知らないロターは、イートへ向かって丁寧に頭を下げ、挨拶をする。
ロター:「ごきげんよう、イート様。私はオルピン総司令官様の命令により――」
ロターが話している途中で、イートが必死に逃げ出した。
イート:「今がチャンスだ! 森へ行くんだ!」
慌てて逃げるイートを見送るロターとパッド。
ロター:「あの~」
もう一度呼びかけるが、イートは何かに取り憑かれたみたいに逃げるのに必死だ。
結局ロターは指先に小さな球体を作り、イートへ放った。
球体は、四肢を使って必死に這うイートへ向かって飛んでいく……
小さかった球体は広がり、大きく回転しながらイートを一気に包み込んだ。
まるでシャボン玉に閉じ込めるみたいに――そして球体は急速に収縮を始める。
イート:「うわっ! 何だこれ! ぐぇっ、ぐっ、ぐぁっ、うぐっ!」
強い収縮で、イートは口を開けなくなった。
ロターは、取り乱した彼が落ち着くまで!! のんびり待っている。
イート:「……」
ロター:「『赤い鶏』イート様。はじめまして。ご挨拶申し上げます。」
ロター:「私どもはポルン様の補佐、ロターとパッドでございます。」
イート:「ぽっ?」
ロター:「お目にかかれて光栄です!……伝説だと伺っております。」
イート:「ぐぁっ?」
ロター:「単刀直入に申し上げますと、ポルン様が一度お会いしたいと。ゆえに、私どもが先に参上いたしました。」
イート:「うぐっ!!」
ロター:「……はい?」
イート:「ぐぅっ!!!!」
ロター:「そ、それでは……どういたしましょう。こちらで場を整えてもよろしいでしょうか?」
イート:「んぐ! んぐ!」
ロター:「え……あ……」
ロター:「では、そのように準備いたします。」
ロターは同時に、イートを締めつけていた何かを解除した。
イート:「ぷはっ……はぁ……はぁ……」
ロターとパッドは互いに間合いを取り、腰を折って礼をする。
この慌ただしい瞬間にも、パッドの頭の中はバラクの異常な行動への疑念でいっぱいだった。
パッド:[……なんで、ああした?]
ロター:「それでは、オルピン総司令官――ポルン様をお迎えいたします。」
パッド:[まさか……!]
ロターとパッドの間に、光の柱が立ち上がる。
光は左右へ広がり、やがて門の形を成し、眩い輝きの中にポルンの影がゆっくり浮かび上がった。
ついに光の門が開き、ポルンがその奥から静かに歩み出てくる。
[黄金のフクロウ、ポルン――オルピンの総司令官。イートとは昔……いや、もっと昔……ずっとずっと昔からの友だ。]
ポルン:「おっ! これは誰かと思ったら。イート、俺だよ! ポルンだ~!」[両腕を広げて喜びを示す]
ポルンは、なぜか余裕があるように見えるのに、足取りはかなり焦っているようだった。
平然を装い、イートへ明るく手を振るが、内心は落ち着いていない。
できるだけ表に出さないようにしているポルン。対して、ぽかんと見つめるイート。
ポルンを見たイートの脳裏に、過去――あの日の記憶がよぎった。
イート:「……ポルン……」
イートはもう一度ポルンを見て、それから自分の小さく、みすぼらしくなった手を見る。
イート:「……俺がこうなったのは全部……ポルン、お前のせいだ。」
イートが呟く間に、素早く近づいたポルンがイートの手を掴んだ。
ポルン:「俺のせいじゃない……違う!! 俺のせいじゃない。」
ポルン:「……お前のせいだ。」
イート:「はぁ!?」
ポルン:「うん~」
♢ ♢ ♢ ♢ ♢
今のロギは……ドトリ村へ引っ越してきて、まだたった五時間しか経っていない。
腹が立って無我夢中で走ってきたのに、気づけば行き止まりの路地に立っていた。
当然、ロギはこの辺りの地理なんてまるで分からない。
両手を顎の下に寄せ、恐怖が押し寄せてくるみたいな顔をする。
左右をきょろきょろ見回し、結局、気の向く方へまた走り出すロギ……しばらくして――
また立ち止まる。もう戻り道すら思い出せない。
人影ひとつない路地を、歩いて歩いて歩き続けても、ここがどこなのか分からない……
ロギはただ、全部が怖かった。
大声で泣きたい気持ちを、何度も何度も堪える。
焦りと恐怖が膨らむほど、呼吸まで不安定になる。
大きな瞳には涙が溜まり、頬は赤く火照っていた。
今にも泣き出しそうなのに、必死に我慢しているのが不思議なくらいだ。
ロギは父さんの名を呼んでみる。
けれどやっぱり、父さんの声は返ってこない。
もう耐えられない。日陰の路地で、その場に座り込んでしまった。
泣き出してしまいそうになった、その瞬間――
白い子犬が一匹、ロギの方へ近づいてきた。
興奮していたロギの感情が、一瞬で落ち着いていく。
見知らぬ子犬は、まるで「撫でて」と言うみたいに、
尻尾を振ってロギの手の下へ、すっと頭を差し出した。
ロギは子犬を撫で、心が少し救われる。
抑えきれなかった感情に、静けさが戻ってきたのだ。
「わんちゃん……ここ、どこ? 私、迷子になっちゃった。
……どうしよう……」
その瞬間、子犬は耳をぴんと立てて周囲を探り、
ある道へ向かって走り出した。
ロギは思わず子犬を呼びながら、後を追いかける。
「待って! 一緒に行って! 私も一緒に!」
気づけば子犬は、紺色の門をくぐって民家の中へ入っていった。
そこでは白髪の老婦人が一人、子犬を探していた。
子犬を追ってきた怯えた子ども――ロギを見つけた老婦人は、
優しい声でロギに話しかける。
おばあさん:あらまあ、どこの子かと思ったら。見ない顔だねぇ?
どうしてここまで来たんだい?
ロギ:今日引っ越してきたんですけど……道に迷って……
[言い終わる前に涙が溢れそうで……]
おばあさん:おやおや、ちょっと待っておいで。
おばあさんは、か弱いロギの心を察し、
冷蔵庫から冷たい飲み物を出し、温かい言葉をかけた。
しばらくして……
おばあさん:おほほ~。今日、引っ越してくる家があるって言ってたっけね! あらまあ!
ロギ:はい……
おばあさん:だから皆、出払ってたのかい。そうかそうか。
じゃあ、このばあちゃんについておいで。
ロギ:わんちゃんは……?
おばあさん:うんうん。わんちゃんはご飯の続きでも食べさせとこうねぇ。
ロギはおばあさんの後を歩いていく……路地はあちこち、ほんとに複雑だ。
路地を抜けると、遠くに――ここへ来る時に乗ってきた青いトラックと、
これから住む家……?が見えた。
おばあさんに連れられ無事に家まで着いたロギは、
一緒に来たおばあさんを探してきょろきょろした。お礼を言いたかったのに――
おばあさんはもう近所の人たちと混じって、楽しそうに話していた。
ロギはおばあさんへ深くお辞儀をしてから、家の中へ駆け込み、父さんを呼ぶ。
ロギ:「父さん!」
[父さんの声が聞こえた。]
父:「お~、ロギ。帰ってきたか。おかえり。
これから住む家、見てみようか?」
父さんとロギは新しい家の隅々を見て回る。
引っ越し荷物はすでに片づけられ、家はきれいに掃除されていた。
父さんは残りの用事を済ませ、夕食の準備をするつもりだった。
父:「ロギ、先にお風呂入っておいで。それから夕飯にしよう。それと……」
[父さんは小さな画面の付いた機械と、紙の束を渡した。]
ロギ:「父さん、これなに?」
父:「さっきダビっていう男の子が、ロギの友だちだって言って、
これ置いてったんだ。ロギに渡してくれってさ。」
ロギ:「あ、赤い髪の?」
父:「うん~」
ロギは風呂に入り、新居で父さんと初めての夕食を食べ終えた。
歯を磨き、自分の部屋へ入ったロギが呟く。
「はぁ……疲れた……」
幼い女の子には、本当に大変な一日だった。
気持ちは複雑で、いろんな感情が絡まり合って、言葉にしづらい。
その時ふと、ダビが置いていった紙の束と電子機器が目に入った。
紙の束の表には、汚い字で数行書いてある。
「ごめん。笑ってごめん。悪かった。許して : )
話のまとめとバミューダ、置いていく。」
『バミューダ』はどう見ても古いタブレットだった。安っぽくて古びた感じで、
誰かが壊れたものを直したみたいに、変な部品が繋がっている。充電器までしっかり入っていた。
「なにこの、やたら気が利くやつ……!」
ロギは布団にうつ伏せになって話のまとめをざっと読み、だいたいの内容を掴んだ。
それから横のバミューダをいじり、スイッチを探して押す。
普通のパソコンみたいな起動画面が流れ――
いつの間にか自動でチャット画面が開いた。
画面の一番上には『ドトリ村バミューダ』と表示されていて、
管理者は『エリ』と書かれている。
まだ会話履歴がないのを見ると、どうやら――
ロギは、自分が夕飯をちょっと早く食べたのかな、と思った。
「……あっ! アイス食べたい……!」
-2 C END
♦ ♦ ♦ ♦ ♦
気を失って倒れたウグのそばで、モンドは助ける方法も見つけられないまま、ずっとウグの名を呼び続けていた。
モンド:「ウグ! ウグ……おい、ウグ……どうすりゃいいんだ……」
そんなバラクたちの様子を見ていた『紫のマント』は、考え込んだ末に『茶色のマント』を呼ぶ。
パッド:「ロター!」
ロター:「なに?」
パッド:「虫どもって、仲間同士で助け合ったり……するもんなのか?」
ロター:「何言ってんだよ。虫にそんなのない! 余計なこと言ってないで、ここをさっさと片付けるぞ。」
パッド:「俺もそう思ってたけど……あいつら見てみろよ。変じゃないか?」
ロター:「お前が一瞬、勘違いしただけだ……今そんなに忙しくもないけど……」
ロター:「どうする? ここ、俺が片付けちまおうか?」[伸びをしながら]
パッド:「……いや。俺がやる。」
ロター:「……好きにしろ」
パッドは胸に引っかかった感じを押し込め、バラクへ向けて両腕を伸ばした。
今度はさっきと違い、紫がかった白い球体を生み出す。
その球を少し大きくして、バラクへ撃ち込もうとした――その瞬間。
パッド:「……違う。……いや、違う!」
彼は球体の性質を変え、倒れている巨大バラクへ向けて放った。
球体の力がウグを持ち上げ、ゆっくりと遠くへ運び始める。
パッド:「それでも自分だけ助かろうとしないで、ああしてるの……なんか立派だな。今回は見逃す。」
パッド:「……そうだ。生きろ。」
パッドは、なぜか“そうしなきゃいけない”気がした。説明できない、不思議な感覚だった。
[この日、パッドの瞬間的な判断は、のちにとんでもない結果を呼ぶことになる。]
ふわりと浮いて運ばれていくウグを追いかけ、モンドもついて行く。
心配でたまらず、気を失ったウグの名を何度も必死に呼ぶ。
モンド:「ウグ、ウグ……頼む、目ぇ覚ませ……ウグ……」
パッド:「……見ろよ、あれ……。……なんで、あんなことするんだ?」
切断されたウグの前脚の下に、イートが押しつぶされるように倒れているのを見つけたロターは……
とりあえず、その前脚をどこかへ放り投げた。
気絶していたイートは徐々に意識を取り戻し、しばらくして目を開ける。
様子をうかがっていたロターは……やがてイートの意識が戻ったのを確認し、彼のそばへ歩み寄った。
イートは意識が戻り、頭が冴えるにつれ、失っていた記憶も戻ってきたようだった。
イート:[呟く]「あっ……俺は……そうだ!! 逃げなきゃ!」
状況を知らないロターは、イートへ向かって丁寧に頭を下げ、挨拶をする。
ロター:「ごきげんよう、イート様。私はオルピン総司令官様の命令により――」
ロターが話している途中で、イートが必死に逃げ出した。
イート:「今がチャンスだ! 森へ行くんだ!」
慌てて逃げるイートを見送るロターとパッド。
ロター:「あの~」
もう一度呼びかけるが、イートは何かに取り憑かれたみたいに逃げるのに必死だ。
結局ロターは指先に小さな球体を作り、イートへ放った。
球体は、四肢を使って必死に這うイートへ向かって飛んでいく……
小さかった球体は広がり、大きく回転しながらイートを一気に包み込んだ。
まるでシャボン玉に閉じ込めるみたいに――そして球体は急速に収縮を始める。
イート:「うわっ! 何だこれ! ぐぇっ、ぐっ、ぐぁっ、うぐっ!」
強い収縮で、イートは口を開けなくなった。
ロターは、取り乱した彼が落ち着くまで!! のんびり待っている。
イート:「……」
ロター:「『赤い鶏』イート様。はじめまして。ご挨拶申し上げます。」
ロター:「私どもはポルン様の補佐、ロターとパッドでございます。」
イート:「ぽっ?」
ロター:「お目にかかれて光栄です!……伝説だと伺っております。」
イート:「ぐぁっ?」
ロター:「単刀直入に申し上げますと、ポルン様が一度お会いしたいと。ゆえに、私どもが先に参上いたしました。」
イート:「うぐっ!!」
ロター:「……はい?」
イート:「ぐぅっ!!!!」
ロター:「そ、それでは……どういたしましょう。こちらで場を整えてもよろしいでしょうか?」
イート:「んぐ! んぐ!」
ロター:「え……あ……」
ロター:「では、そのように準備いたします。」
ロターは同時に、イートを締めつけていた何かを解除した。
イート:「ぷはっ……はぁ……はぁ……」
ロターとパッドは互いに間合いを取り、腰を折って礼をする。
この慌ただしい瞬間にも、パッドの頭の中はバラクの異常な行動への疑念でいっぱいだった。
パッド:[……なんで、ああした?]
ロター:「それでは、オルピン総司令官――ポルン様をお迎えいたします。」
パッド:[まさか……!]
ロターとパッドの間に、光の柱が立ち上がる。
光は左右へ広がり、やがて門の形を成し、眩い輝きの中にポルンの影がゆっくり浮かび上がった。
ついに光の門が開き、ポルンがその奥から静かに歩み出てくる。
[黄金のフクロウ、ポルン――オルピンの総司令官。イートとは昔……いや、もっと昔……ずっとずっと昔からの友だ。]
ポルン:「おっ! これは誰かと思ったら。イート、俺だよ! ポルンだ~!」[両腕を広げて喜びを示す]
ポルンは、なぜか余裕があるように見えるのに、足取りはかなり焦っているようだった。
平然を装い、イートへ明るく手を振るが、内心は落ち着いていない。
できるだけ表に出さないようにしているポルン。対して、ぽかんと見つめるイート。
ポルンを見たイートの脳裏に、過去――あの日の記憶がよぎった。
イート:「……ポルン……」
イートはもう一度ポルンを見て、それから自分の小さく、みすぼらしくなった手を見る。
イート:「……俺がこうなったのは全部……ポルン、お前のせいだ。」
イートが呟く間に、素早く近づいたポルンがイートの手を掴んだ。
ポルン:「俺のせいじゃない……違う!! 俺のせいじゃない。」
ポルン:「……お前のせいだ。」
イート:「はぁ!?」
ポルン:「うん~」
♢ ♢ ♢ ♢ ♢
今のロギは……ドトリ村へ引っ越してきて、まだたった五時間しか経っていない。
腹が立って無我夢中で走ってきたのに、気づけば行き止まりの路地に立っていた。
当然、ロギはこの辺りの地理なんてまるで分からない。
両手を顎の下に寄せ、恐怖が押し寄せてくるみたいな顔をする。
左右をきょろきょろ見回し、結局、気の向く方へまた走り出すロギ……しばらくして――
また立ち止まる。もう戻り道すら思い出せない。
人影ひとつない路地を、歩いて歩いて歩き続けても、ここがどこなのか分からない……
ロギはただ、全部が怖かった。
大声で泣きたい気持ちを、何度も何度も堪える。
焦りと恐怖が膨らむほど、呼吸まで不安定になる。
大きな瞳には涙が溜まり、頬は赤く火照っていた。
今にも泣き出しそうなのに、必死に我慢しているのが不思議なくらいだ。
ロギは父さんの名を呼んでみる。
けれどやっぱり、父さんの声は返ってこない。
もう耐えられない。日陰の路地で、その場に座り込んでしまった。
泣き出してしまいそうになった、その瞬間――
白い子犬が一匹、ロギの方へ近づいてきた。
興奮していたロギの感情が、一瞬で落ち着いていく。
見知らぬ子犬は、まるで「撫でて」と言うみたいに、
尻尾を振ってロギの手の下へ、すっと頭を差し出した。
ロギは子犬を撫で、心が少し救われる。
抑えきれなかった感情に、静けさが戻ってきたのだ。
「わんちゃん……ここ、どこ? 私、迷子になっちゃった。
……どうしよう……」
その瞬間、子犬は耳をぴんと立てて周囲を探り、
ある道へ向かって走り出した。
ロギは思わず子犬を呼びながら、後を追いかける。
「待って! 一緒に行って! 私も一緒に!」
気づけば子犬は、紺色の門をくぐって民家の中へ入っていった。
そこでは白髪の老婦人が一人、子犬を探していた。
子犬を追ってきた怯えた子ども――ロギを見つけた老婦人は、
優しい声でロギに話しかける。
おばあさん:あらまあ、どこの子かと思ったら。見ない顔だねぇ?
どうしてここまで来たんだい?
ロギ:今日引っ越してきたんですけど……道に迷って……
[言い終わる前に涙が溢れそうで……]
おばあさん:おやおや、ちょっと待っておいで。
おばあさんは、か弱いロギの心を察し、
冷蔵庫から冷たい飲み物を出し、温かい言葉をかけた。
しばらくして……
おばあさん:おほほ~。今日、引っ越してくる家があるって言ってたっけね! あらまあ!
ロギ:はい……
おばあさん:だから皆、出払ってたのかい。そうかそうか。
じゃあ、このばあちゃんについておいで。
ロギ:わんちゃんは……?
おばあさん:うんうん。わんちゃんはご飯の続きでも食べさせとこうねぇ。
ロギはおばあさんの後を歩いていく……路地はあちこち、ほんとに複雑だ。
路地を抜けると、遠くに――ここへ来る時に乗ってきた青いトラックと、
これから住む家……?が見えた。
おばあさんに連れられ無事に家まで着いたロギは、
一緒に来たおばあさんを探してきょろきょろした。お礼を言いたかったのに――
おばあさんはもう近所の人たちと混じって、楽しそうに話していた。
ロギはおばあさんへ深くお辞儀をしてから、家の中へ駆け込み、父さんを呼ぶ。
ロギ:「父さん!」
[父さんの声が聞こえた。]
父:「お~、ロギ。帰ってきたか。おかえり。
これから住む家、見てみようか?」
父さんとロギは新しい家の隅々を見て回る。
引っ越し荷物はすでに片づけられ、家はきれいに掃除されていた。
父さんは残りの用事を済ませ、夕食の準備をするつもりだった。
父:「ロギ、先にお風呂入っておいで。それから夕飯にしよう。それと……」
[父さんは小さな画面の付いた機械と、紙の束を渡した。]
ロギ:「父さん、これなに?」
父:「さっきダビっていう男の子が、ロギの友だちだって言って、
これ置いてったんだ。ロギに渡してくれってさ。」
ロギ:「あ、赤い髪の?」
父:「うん~」
ロギは風呂に入り、新居で父さんと初めての夕食を食べ終えた。
歯を磨き、自分の部屋へ入ったロギが呟く。
「はぁ……疲れた……」
幼い女の子には、本当に大変な一日だった。
気持ちは複雑で、いろんな感情が絡まり合って、言葉にしづらい。
その時ふと、ダビが置いていった紙の束と電子機器が目に入った。
紙の束の表には、汚い字で数行書いてある。
「ごめん。笑ってごめん。悪かった。許して : )
話のまとめとバミューダ、置いていく。」
『バミューダ』はどう見ても古いタブレットだった。安っぽくて古びた感じで、
誰かが壊れたものを直したみたいに、変な部品が繋がっている。充電器までしっかり入っていた。
「なにこの、やたら気が利くやつ……!」
ロギは布団にうつ伏せになって話のまとめをざっと読み、だいたいの内容を掴んだ。
それから横のバミューダをいじり、スイッチを探して押す。
普通のパソコンみたいな起動画面が流れ――
いつの間にか自動でチャット画面が開いた。
画面の一番上には『ドトリ村バミューダ』と表示されていて、
管理者は『エリ』と書かれている。
まだ会話履歴がないのを見ると、どうやら――
ロギは、自分が夕飯をちょっと早く食べたのかな、と思った。
「……あっ! アイス食べたい……!」
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