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色々ある男
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コーヒーの湯気をぼんやりと見つめながら思い返す。
あれから一ヶ月、色々あった。
ヒートが終わった後、九日ぶりに携帯を開いたら、上司からとりあえず一ヶ月の休暇を申請済みであることと、自宅待機を命じられた。
その間にΩ保護施設に通う合間に、病院でバース再審査、証明書の発行など諸々の手続きに追われてきた。
それもようやく落ち着いて、妊娠が確認できる時期になったので、これまで通院してきた病院に検診にきたのだった。この病院には色々思うところはあるが、一番俺の体について知っている病院だ。だから子供のために割り切った。
今頃妊娠の診断書を貰っていたはずで、休み明けに人事に提出するつもりだったんだが・・・。
妊娠はしていなかったらしい。
腹の中にいるものとばかり思っていただけで実際には存在していなかった子供なのに、不思議なくらい喪失感を感じてしまう。
その時、ふと気配を感じると、自動ドアが開いて長身の美丈夫が入ってくるのが目に入ってきた。
一目で仕立ての良いスーツだと分かるそれを嫌みなく纏い、場違いなほど洗練された姿。
対して俺はボタンダウンの綿シャツにチノパンという平日カジュアル。
なんとなく見つけられたくないような気がして、素知らぬふりをして顔を伏せてスマホを見るそぶりをしていた。まあすぐ見つかるわけだが。
テーブルに影が差して、ふわりと京極の香りが俺を包む。
「見つけましたよ。」
紅茶の瞳が俺を見つめていた。
「何でこの場所が分かるんだよ。」
「それはまぁ、色々ですね。」
「・・・」
ふと気がつくと周りから店内を流れる音楽以外の音が消えていた。店内の人間全ての目が吸い寄せられるようにこいつを見ている。
「・・・場所変えるか。」
俺はそう言って京極と店を出た。
なんとなく並んで歩きながら、俺はいった。
「わざわざ来てくれて、悪かったな。
・・・まあ、そういうことだから。別に流れたとかそう言うわけじゃないし、医者は子供が出来なかった事は、俺の体のためには逆に良かったって言ってたぞ。
・・・そもそも何の覚悟もない俺が親になるとか、あり得なかったしな。」
「そんなことはない・・・。
守はちゃんと親になることを考えていた。私はそれを知っていますよ。」
京極がそう言うと、俺をそっと抱きしめてきた。
突然だったし、そうする理由もよく分からんし、ポカーン状態でされるがままだった。すると、奴の言葉が続いた。
「守はわざわざ隣駅の本屋まで出かけて行って 赤ちゃん雑誌を恥じらいながら買っていたじゃないですか。た〇ひよでしたっけ?」
「・・・」
うん、いったん黙ろうか。
どんな羞恥プレイだよ。
「他にも育児書を見たり、名前の画数を調べたり、毎朝のコーヒーも晩酌も我慢していたでしょう?」
だからお前はなぜそこまで知ってるんだよ。
ちなみに俺達は入籍した日以来会ってない。
何度も誘いはあったが、忙しいで押し切ってきた。
俺は達人の域に達しつつあるスルースキルを発揮した。
「ヒートが安定するまでは妊娠はするなってさ。」
すると、奴はさらにぎゅうぎゅう抱きしめてきてこう言った。
「分かりました。ヒートが安定したら子供を作りましょうね。何人でも。」
「・・・」
神は俺に スルーの頂を目指せと言われているんだろうか。
あれから一ヶ月、色々あった。
ヒートが終わった後、九日ぶりに携帯を開いたら、上司からとりあえず一ヶ月の休暇を申請済みであることと、自宅待機を命じられた。
その間にΩ保護施設に通う合間に、病院でバース再審査、証明書の発行など諸々の手続きに追われてきた。
それもようやく落ち着いて、妊娠が確認できる時期になったので、これまで通院してきた病院に検診にきたのだった。この病院には色々思うところはあるが、一番俺の体について知っている病院だ。だから子供のために割り切った。
今頃妊娠の診断書を貰っていたはずで、休み明けに人事に提出するつもりだったんだが・・・。
妊娠はしていなかったらしい。
腹の中にいるものとばかり思っていただけで実際には存在していなかった子供なのに、不思議なくらい喪失感を感じてしまう。
その時、ふと気配を感じると、自動ドアが開いて長身の美丈夫が入ってくるのが目に入ってきた。
一目で仕立ての良いスーツだと分かるそれを嫌みなく纏い、場違いなほど洗練された姿。
対して俺はボタンダウンの綿シャツにチノパンという平日カジュアル。
なんとなく見つけられたくないような気がして、素知らぬふりをして顔を伏せてスマホを見るそぶりをしていた。まあすぐ見つかるわけだが。
テーブルに影が差して、ふわりと京極の香りが俺を包む。
「見つけましたよ。」
紅茶の瞳が俺を見つめていた。
「何でこの場所が分かるんだよ。」
「それはまぁ、色々ですね。」
「・・・」
ふと気がつくと周りから店内を流れる音楽以外の音が消えていた。店内の人間全ての目が吸い寄せられるようにこいつを見ている。
「・・・場所変えるか。」
俺はそう言って京極と店を出た。
なんとなく並んで歩きながら、俺はいった。
「わざわざ来てくれて、悪かったな。
・・・まあ、そういうことだから。別に流れたとかそう言うわけじゃないし、医者は子供が出来なかった事は、俺の体のためには逆に良かったって言ってたぞ。
・・・そもそも何の覚悟もない俺が親になるとか、あり得なかったしな。」
「そんなことはない・・・。
守はちゃんと親になることを考えていた。私はそれを知っていますよ。」
京極がそう言うと、俺をそっと抱きしめてきた。
突然だったし、そうする理由もよく分からんし、ポカーン状態でされるがままだった。すると、奴の言葉が続いた。
「守はわざわざ隣駅の本屋まで出かけて行って 赤ちゃん雑誌を恥じらいながら買っていたじゃないですか。た〇ひよでしたっけ?」
「・・・」
うん、いったん黙ろうか。
どんな羞恥プレイだよ。
「他にも育児書を見たり、名前の画数を調べたり、毎朝のコーヒーも晩酌も我慢していたでしょう?」
だからお前はなぜそこまで知ってるんだよ。
ちなみに俺達は入籍した日以来会ってない。
何度も誘いはあったが、忙しいで押し切ってきた。
俺は達人の域に達しつつあるスルースキルを発揮した。
「ヒートが安定するまでは妊娠はするなってさ。」
すると、奴はさらにぎゅうぎゅう抱きしめてきてこう言った。
「分かりました。ヒートが安定したら子供を作りましょうね。何人でも。」
「・・・」
神は俺に スルーの頂を目指せと言われているんだろうか。
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