αの愛し子の黙示録(完結)

ビスケット

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伝わらない男

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「・・・桐生、小山田は馬鹿だから恐らく伝わってない。」

ちなみに、小山田の鎖骨に付けられたキスマークも、伝わらない男によって、
「やっべーこんなところぶつけてら(笑)」
で片付けられていた。

「分かってる。そろそろ分からせないとな。」

「・・・ほどほどにしてやれよ?」

「善処する。」


桐生と庄司のそんなやりとりなど耳に入っていない小山田は、しゃべり続けた。

「最近、ちらほらみんな番が出来てるらしいじゃんか。
この年で見合いとかするのが普通とか、βなら考えらんねぇわ。
αとΩの世界はやっぱり違うな!」

それを受けて庄司が答えた。
「αに比べてΩの数は少ないからな。早い者勝ちだ。
番の獲得には熾烈な競争が付きものなんだよ。」

桐生も言う。
「桜花学園との交流会が開かれるのもそういうことだ。」

「お前らモテモテなんだろ?
可愛い番と出会えると良いな!
お前らみたいな良い奴こそ良い出会いがあるべきなんだからさ。」

それに対して、少し低くなった声で桐生が問うた。
「・・・そしたらお前はラットの時どうするんだ?
ちなみに俺は伴侶を複数持つつもりは無い。」

「へー、そうなんだ。
俺だってαへの転換はゆっくりだけど進んでいるだろうし、そのうちコントロール出来るようになるかもしれないじゃん。」

対する小山田は 相変わらず伝わらない男だった。

そんな小山田の発言に桐生が少しあきれた調子でつっこむ。

「希望的観測だな。現実を見ろ。
大体、お前のノットを見るに、αの転換が順調とはとても言えない状態だろう?」

「おれのだってそこそこちゃんとしてる!
ちょっとだけ足りないだけだ!」

「お前な、今さら俺相手にごまかしても仕方が無いだろう・・・。」

そこに庄司の冷静な声がとぶ。
「まずは標準的なαのモノを見るところからだな。
そしたら、己の現実を 嫌でも自覚出来るだろう。」

しばしの間があって、桐生が口を開いた。

「そういえば お前、俺のノットが見たいって言ってたな?それじゃ次のラットの時・・・」

「ああ、それならもう見た。
えげつねぇよな、あんなの。
ホントは俺だって分かってんだよ。
アレに比べたら俺はまだまだだなって・・・」

しん、と一瞬沈黙が落ちた。

「・・・いつ。誰のを見た?」

かつて聞いたことがないようなその声に、小山田が思わず桐生の顔を見る。
すると、常に瀬戸内の海のごとく穏やかなはずの桐生の瞳が、津軽海峡冬景色になっていた。

「ほ、北条に・・・」

震える小山田。
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