やり直したい傲慢令嬢は、自分を殺した王子に二度目の人生で溺愛される

Adria

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時の流れと変化

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 神殿に入ってから一年半が経った――
 私は毎日下働きや執務の手伝いに勉強と忙しいし、首座司教様も相変わらずの鬼司教ぶりだ。そのせいか、最近では彼のことを陰で鬼司教と呼んでいる。

 あと変わったことと言えば、私は週末もあまり帰宅しなくなっていた。神殿にいると、何かと仕事を積まれるけれど、休日なので自由時間も多い。
 帰宅するより、神殿で自分の好きなことをしたほうが有意義だと判断したのだ。

 この一年半で私はポーションの研究という好きなことを見つけた。かつては魔獣を前にして泣いていた私はもういない。今では上級の回復魔法を扱え、上級のポーションをも作れるようになったのだ。それを極めていくのは、とても楽しい。
 攻撃系の魔法は、苦手なせいかまだまだ中級といった感じだけれど、いずれはどんな魔法も極めてみせる。


「アリーチェ、また神殿裏の森に行くのか?」
「イヴァーノ兄様……」

 休日なので、いつものように神殿裏の森で素材採取に行こうとしたら、殿下が声をかけてくれる。私の彼への接し方も一年半前とは違い、変化していた。
 再会した当初は彼を恐ろしく感じていたけれど、今はもう違う。ずっと変わらず優しく接してくれる彼に、その優しさが偽りのものではないのだと信じられるようになったのだ。


 やっぱり人との関わりは、自分次第でいくらでも変えることができる。これからも皆の優しさに慢心することなく、頑張っていきたい。

 私は笑顔で近づいてきてくれる殿下に、微笑み返した。


「はい! 今日は週末なので」
「相変わらずだな。ヴィターレとルクレツィオが全然帰ってきてくれないと不満をこぼしていたぞ」
「でも三月みつきに一度くらいは帰っていますよ」
「それでは少ないそうだ。だが、応援すると言った手前、不満に思っていても何も言えぬようだがな」

 殿下が私の手を取りながらクスクスと笑ったので、私もつられてふふふと笑った。すると、彼の手が頭上で一纏めにしている髪の束を梳くように触れる。


「たまには私も其方と共に素材採取に行ってもよいか?」
「え? ですが、王族の方が森に入るなんて叱られませんか?」
「そんなことはない。第一、ノービレ学院に入学すれば、身分や立場など関係なく授業で使うものは己で採取することとなる。なので、心配は無用だ」
「……そうなのですね」

 私は殿下の言葉で以前のことに思いを馳せた。

 そういえば、以前の私はそんな野蛮なことはできないとか言って下級貴族に取りに行かせて、それを買い取っていたわね。でも、実際それは珍しくない。特に身分が高くなればなるほど、自分では取りに行かない人が多い。

 殿下は、ちゃんと取りに行くタイプだったのね。まあそうよね。今となっては私も分かる。こんなに楽しいことを人任せにするのはもったいない。

 必要な素材は、自身で見て選び取るべきだ!


「さあ、アリーチェ。行こうか」
「はい!」

 差し出してくれる彼の手を、心弾ませながら取る。

 何やらとても嬉しい。
 普段は息抜きに散歩に連れ出してくれ、休日は素材採取に付き合ってくれる。以前の恐ろしい殿下とは違う。私達は新たによい関係を構築できているのだ。


 だからその……いけないのだけれど、最近少し気になるのよね。殿下ったら、スキンシップが激しい人だから、頭を撫でられたら嬉しいと思ってしまうし、手を取ってエスコートしてもらえば、胸が高鳴って少し意識してしまう。

 私は魔獣と戦っている殿下を盗み見た。
 神殿に入る前に「恋の候補に入れてほしい」とか言っていたけれど、やっぱりあれは冗談よね? それに、私は人質だ。遊び相手にはなれても恋人にはなれないだろう。

 かつて自分を殺したはずの殿下を意識してしまう。殿下の優しさに期待してしまう。それこそが己の分を弁えないことではないのだろうか。

 私たちの関係は以前も今も何も変わらない。彼はイストリアの王子で、私はコスピラトーレから捧げられた人質だ。そう思うと、胸が小さく痛んだ。


「アリーチェ、危ない! 前を見ろ!」
「え?」

 殿下の焦った声にハッとして顔を上げた時には、目の前に魔獣がいた。しまったと体勢を立て直そうとした時にはすでに遅く、魔獣が大きな手を私目掛けて振りかざす。


「アリーチェ!」

 ああ、なんて情けない。

 私は考え事をしながら、魔獣と向き合ってしまったせいか、魔獣の爪を受けて怪我をしてしまった。

 殿下の焦った声と駆け寄る足音を聞きながら、私は攻撃魔法を繰り出し、なんとか目の前の魔獣を倒した。


「アリーチェ、すまぬ! ああ、私はなんということを! 離れてはいけなかったのに……」
「いいえ、注意散漫だった私が悪いのです。自業自得です」
「自業自得などと、そんなことがあるわけないだろう。私が側にいながらアリーチェに傷を負わせるなど、あってはならぬのだ! すまぬ、アリーチェ」

 力強く抱き締め、何度も謝る殿下に胸がじんわりと熱をもつ。後悔の色が滲む声を聞きながら、私は腰につけているポシェットから、ポーションを取り出してニコッと笑った。


「大丈夫です! 私は回復魔法も使えるし、ポーションだってあります! 殿下もいくつか持っておいてください。怪我を回復できるものから疲労回復に特化しているものまであるんですよ。きっと殿下の役に立つと思います」
「これはすごいな。ここまでのものを作れるようになったのか」

 驚いている彼に、腰に手を当てて、えっへんと胸を張ると、褒めるように頭を撫でてくれる。そして、私が渡したポーションを受け取ってくれた。


「さて、今日はこれでしまいにしよう」
「そうですね。帰ったら、きっとお叱りを受けると思います。それに今後のためにも今回のことを反省して活かさないと……」

 素材採取する時は集中しなければならない。当たり前のことだけれど、改めて肝に銘じなければ。


 そして神殿に戻り報告すると、案の定叱られてしまった。それどころか、分厚い本で頭を叩かれてしまった。

「痛いです……」
「アナクレトゥス! 悪いのはアリーチェではない! アリーチェを守れなかった私自身だ!」
「そうですか、では」
「首座司教様!?」

 鬼司教は殿下の頭も本でスパーンと叩いた。それを見て、私はぎゃあっと叫び声を上げる。

「愚か者! 油断をするなといつも言っているだろう! 己の力を見極めることもできぬ者が、全属性の魔力を使いこなすなど到底無理な話だ」
「申し訳ございません」
「そして殿下もです。二人で組んで素材採取に行ったのならば、常に相手の状態には気を配らねばなりません。それすらできない者が民を守れるとお思いか?」
「すまぬ。これからは絶対にこのような失敗はおかさぬと約束しよう」

 その後、私たちは殿下が王宮から呼び出しを受けて帰るまで、鬼司教から長い間お説教を受けた。
 以前は、このお説教を怖いと思ったけれど、今は心配してくれているのだと分かる。

 でも殿下には本当に悪いことをした。余計なことを考えて注意散漫だった私が悪いのに、一緒に叱られてしまっただけでなく、分厚い本で叩かれてしまうなんて……。あとで謝らなきゃと、私は心に決めて、鬼司教に向き合い微笑んだ。


「何を笑っているのだ……。相変わらず、締まりのない顔をしおって」
「いえ、首座司教様が私のことをとても心配してくださっているのが分かって嬉しいのです」
「調子に乗るな」

 私の言葉にむすっとしながら睨んできたけれど、もう怖くなんてない。今はこの冷たい目や厳しい言葉が、私を思ってくれているものだと分かるから。


「しかし、其方も言うようになったものだ。神殿に来たばかりの頃は、私の顔を見るたびに泣きそうになっていたのに」
「あれは……首座司教様が鬼のような顔をして難題を課してばかりいたからです。普通の令嬢なら、泣いて逃げ帰っていますよ」
「私は鬼司教なのだから仕方あるまい」
「え?」

 その言葉に心臓が飛び跳ねた。
 本人がいないところで鬼司教と呼んでいることがバレているなんて……。

 私は数歩下がってから、えへへと笑って誤魔化した。すると、鬼司教が私の頭をまた本で叩く。


「怒ってなどいない。私は別に構わん」
「なら、叩かないでください」

 不満を漏らしつつ、叩かれた頭を押さえると、自然と笑みがこぼれてしまった。そんな私を怪訝な目で睨む。

「何を笑っているのだ?」
「いえ、私も首座司教様も変わったなって……」
「変わったわけではなかろう。互いを理解し、歩み寄れたのだ。最初は甘やかされて育った令嬢など、すぐに音を上げると思っていたが、いやはや驚いたものだ。其方は私が無理難題を課しても尚、ついて来たのだからな……」

 無理難題だという自覚あったんだ。
 私は鬼司教の言葉に目を見張った。

 正直なところ意外だ。鬼司教は普通の顔で課題を積み上げてきたので、試されているとは夢にも思わなかった。気がつかなかったのだ。
 まあ確かに……。鬼司教からしたら忙しい上に、子守りまで押しつけられたら、そう思っても仕方がないだろう。

 執務の手伝いをしてる私は、彼がどれだけの仕事量を抱え込んでいるのかよく分かっている……。


「歩み寄り、お互いを理解しあえたと仰ってくださるということは、私を認めてくださったと思ってもいいってことですよね?」

 私は嬉しくて、にこにこしながら鬼司教の顔を覗き込んだ。すると、彼はふんっとそっぽを向く。おそらく照れているのだと思う。

「認めたなどと言ってはおらん。調子に乗りすぎるな」
「あらあら、鬼司教ったら素直じゃないんですから」

 ふふっと笑いながら鬼司教をつつく。感情を隠すのが巧く、一見無表情の彼の感情の変化も、かなり読み取れるようになってきた。

 ふふん、いい感じだわと、にやにやしている私の耳を鬼司教が引っ張ってくる。

「誰が鬼司教だ。開き直りおって」
「痛い! 痛いです!」
「……時にアリーチェ、其方は全属性を持つということが、どういうことか分かって、私のもとに来たのか?」
「へ?」

 急に何……?
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