女装をしたら復讐を始めよう〜糞王子に婚約者を奪われた僕、転生チートで国ごと滅ぼすと決め男装王女と手を取りました〜

猪鹿蝶

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23、国を捨てた僕①

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 お城を抜け出してからもう一週間が経っていた。
 僕たちは遂に国境沿いの町にたどり着いた訳だけど、それまでは特に誰かにバレる事も追われる事もなくゆったりと移動をする事が出来たのだった。
 まあその最中、僕とリノーが姉妹に間違えられて絡まれたり、ショコラ様の男装が大人気で先に進めなくなったりと、少しのハプニングはあったけれどここまでは順調に進んでいたと思う。
 それなのに、ここに来てとんだハプニングが起きたもんだよ!

「どうしてこの町だけ、こんなに警備が厳しいのですかね??」
「よくわからないが、王都から距離があるせいでフラムの噂があまり知れ渡っていない事と、とにかく私を外へと出さないよう国から強めに言われているのかもしれない」
「成る程……ですがこの町を出れば、ついにタルト王国を抜け出した事になるんですよね?」
「ああ、この先は不可侵協定地域が暫くあって、その先に隣国のクリーム王国があるからね」

 そんな話をしながらも、今の僕たちはとにかく走っていた。ただ、リノーだけは走るのが得意ではないため僕が抱えている。
 そして後ろからは、この町の兵士たちが僕たちを一生懸命追いかけて来ていたのだ。

「三人同時なら簡単に出られそうですけど、ここからショコラ様とは別行動ですもんね。しかも聖剣は僕が持っていますから、ショコラ様は完全に無防備になってしまいますし……」
「私は聖剣が無ければ、ただのひ弱な女性でしかないからね……いっそのこと、君の力でここの兵士たちを恐怖に陥れるというのはどうだい?」
「こんな町中で魔法なんか使ったら、被害が凄い事になりますよ?」

 流石に僕自身が悪魔とか、大魔王なんて呼ばれたくないからね。

「ふむ……それなら町の外で暴れてみるのはどうかな?」
「えっと、それはどういう事ですか?」
「それはね……」

 ゴニョゴニョと、走りながら耳打ちするショコラ様の案に僕は頷くと、それをすぐに実行してみるため外へと向かう事にしたのだ。
 正直その方法でも、僕は恐怖の大王になりそうだけどね?

「ではフラムが外で暴れ始めたのを合図として、私も町を出る事にする。だから私の耳まで届くようにしっかり暴れてくれよ?」
「ええ、わかりました」

 頷いた僕は、大人しく片手で抱えられているリノーを確認する。

「リノーはその体勢のままで大丈夫か?」
「はい、私はお兄様の邪魔をしないように静かにしておりますから……安心して下さいね」

 目を瞑りながら言うリノーは、本当に大丈夫なのかと心配になってしまう。
 無理をさせているのだから、これが終わったらいっぱいリノーを甘やかしてやることにしよう。
 そう思いつつ、改めてショコラ様の方を向いた僕は左手を挙げながら言った。

「ではショコラ様、お気をつけて!」
「なるべく捕まらないようにはするが、あまり期待はしないでほしいね」
「大丈夫です、捕まっても僕が救いますから!」

 そう言って僕はすぐに走り出していた。
 正直、今の言葉をキリッと言ってしまったのは滅茶苦茶恥ずかしかった。だから赤くなった顔を見られないように僕は兵士の方へと突進した。
 一応これには兵士がショコラ様の方へ行かないように、僕が引きつけるという目的もあるからね。

「そこの兵士ども、この僕を捕まえられると思っているのかな?」
「おい、こっちに来たぞ!」
「捕まえっぶへっ!!」

 僕は飛び上がると、兵士の顔を踏み潰して反対側へと着地していた。

「本当、無能しかいないんだね?」
「な、なにぃ!!?」
「そう呼ばれたくないなら、僕を早く捕まえてごらんよ!」

 僕は煽りに煽って、兵士たちをなるべく引き寄せながら町の外へと向かう事にした。
 振り返って遠くを見た限り、この中でショコラ様の方へと向かった兵士は誰もいないようだ。
 正直、逃げ切るだけならスピードUPするだけで簡単に出来るのだけど、今はショコラ様に少しでも楽をして欲しくて、兵士たちが僕を追いかけられるギリギリの速度を保ったまま走っていた。

 そして気がつけば、僕は自分が町のどの辺に居るのかわからなくなってしまったのだ。
 そんな僕に気がついたのか、リノーがボソリと呟いた。

「お兄様、道に迷っているようですね……でしたら私が道を示しますよ?」
「リノー、よくわかったね……。本当にその通りで、今困っていたところなんだ」
「ふふ。私は、お兄様を観察する事だけは得意ですから」
「よくわからないけど、とりあえず出口への方向を教えてくれるかな?」
「はい、お兄様」

 頷きながらリノーは目を瞑る。
 するとリノーのオデコに突然縦線が入り、そこからゆっくりと第三の目が現れたのだ。
 これはスキル『千里眼』による瞳である。
 それによりリノーは何処いても遠くの物を見る事ができる。

 しかしこのスキルのせいで、外の事がなんでもわかるようになったリノーは家から出なくなってしまった。しかも偶然家で出会った同年代の子に怖がられてしまった結果、その目を前髪で顔を隠すようになったのだった。
 そして最近のリノーは、そのスキルを自分の部屋でしか使用していなかったようなのだけど、今回は僕の為に使いたいと自ら言ってくれたのだ。
 そんなわけでリノーは今、僕の為に嫌っているはずのその目を使ってくれていた。

「ここから西南西の方へ向かえば出口がありますけど、どのルートで行きますか?」
「どのルートと言われてもサッパリわからないけど、なるべくこの町にいる兵を巻き込んで進みたいかな。でも早く外に出ないとショコラ様が捕まっちゃう可能性が高くなるし……」
「お兄様、でしたらなるべく真っ直ぐ向かいながら、兵士が待機している場所を通過するのはどうでしょうか?」
「成る程、それはいいかもしれない!」

 そして僕たちは次々待ち伏せしている兵士たちに突進しては交わしつつ、追いかけてくる兵の数を増やしながら進んでいた。
 しかもたまに魔法が飛んできても、カウンターで弾き返してしまうため特に反撃する必要もない。
 必要ないのだけど、ただ一つだけ問題があった。今回攻撃がリノーに当たった場合、当たり前だけどカウンターは発動しない。
 そしてリノーを絶対に傷つけたくない僕は、自分から魔法に当たりに行くことでカウンターを無理矢理発動させる事にしたのだ。

 そんな事をしながら走っていると、目的地の門がようやく近くに見えて来た。
 流石国境に面している門だけあって、そこにある門のサイズは他に比べて大きい。

「あの門を超えたら、国の外だね!」
「そうですね。しかしお兄様、門の扉は閉まっていて通れなさそうですよ?」
「そんなの、上から行くしかないよね!」

 今の僕はきっと脚力も50倍だと思うから、今なら飛べるはずだ! と、僕は力強く地面を蹴っていた。
 その勢いを殺さずに高く高く飛び上がった僕たちは、その大きな門なんて軽々飛び超えてさらに上へ上へと昇っていく。

「お兄様、コレは何処まで上がるのですか?」
「ごめん、妹よ! お兄ちゃんもよくわからないんだよ!?」

 少しずつその勢いは止まり、今度は重力に引かれるように下へと加速しながら落ちてていく。
 そして僕たちはその速度を保ったまま地面へと落下したのだった。
 その結果、すごい爆発音とともに町の外には大きなクレーターが出来てしまったのは、仕方がないよね?
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