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24、国を捨てた僕②
しおりを挟む僕はまだ何もしてないのに、どうしてこうなったんだろう?
足元に出来た大穴を見て、僕は首を傾げてしまう。
「流石お兄様ですね……まさかこんな形で民衆を恐怖に陥れるなんて……」
「いや、まだ陥れてないけど?」
そしてようやく砂埃が晴れてきたため爆発音を確認しに来た兵士たちが、門を開けて外へと出て来たのが見える。
そこにいたのは、先程僕を追いかけてきた人たちが大半だった。
「な、なんだこれは!?」
「さっきの爆発でこんな大穴が空いたというのだろうか?」
「見て下さい、その真ん中に誰かいますよ!?」
クレーター並みに巨大な穴を見た兵士たちの顔は、驚きと恐怖に歪み誰もこちらに近寄ってくる気配はない。
そして誰かが僕の存在に気がついた。
「あれってさっき僕たちが追いかけていた女性じゃないですか!?」
「ま、まさか……これをあの女が!?」
「俺たちはなんという化け物を相手にしようとしていたんだ!!」
いや、僕は女性ではなく『おとこの娘』ですけどね?
しかしそんなツッコミを入れてる場合ではないようで、突然リノーが千里眼を使用し始めたのだ。
「どうした、リノー?」
「少し嫌な予感がしまして、どうしても確認したかったのです」
「もしかして、ショコラ様の事?」
「はい、そういう予感は当たりやすいですからね……。思った通り、ショコラ様は捕まってしまったようです」
どうやらショコラ様一人ではダメだったみたいだ。
ならばここから僕は、ショコラ様の作戦通り行動するしかないようだ。
そう思って俺はあのときショコラ様に言われた言葉を思い出す。
ショコラ様は、外で暴れるついでに兵を恐怖のどん底に陥れてから脅せと言ったのだ。
そして自分が捕まったときは、恐怖を取引材料にすればいいとも……。
「僕はここから悪の大王になるしかないみたいだね……」
そう思ったときだった。
僕の持つ聖剣が突然光始めたのだ。
『きたきたきたのじゃーーー!!! ここは国の外なのじゃ、これで誓約は無効となる! ワシは自由じゃ!!! 小童よ、今ワシの力が必要じゃろ? 解放されたワシの力を試してみたくはないじゃろか?』
『確かに少し試してみたいですけど、町が吹き飛んだりしませんよね?』
『そんなもの簡単に吹き飛ぶのじゃ!! 試しに、遠くに見える山に斬撃を放つのじゃ!』
どうやら聖剣さんはせっかちみたいだ。
でもその前に、ここにいる兵士を脅してから試し打ちする事にしよう。
僕は兵士たちを改めてみると声を張り上げて言った。
「おい、そこでぼけーっとみてる君たちに言うよ? 今、この国の王女であるショコラ様が君たちの仲間に捕まっているはずだ。悪いけど、そのお方を今すぐにこちらへと渡してもらえるかな?」
「な、何言ってるんだ! そんなの引き渡せる訳がないだろう!?」
「そんな事したら俺たちが怒られちまう!!」
「そっかー、それは残念だね。ならこの町を滅ぼしてでも、無理矢理連れて行く事にしようかな?」
そう言うと僕は聖剣さんを遥か彼方に見える山に向けて横一線、とても綺麗に振り切った。
その斬撃は、ビョォォォオオォォと風を巻き起こしながら、一直線に山へと吸い込まれるように消えたのだ。
次の瞬間、山が綺麗にスパッと切れたと思ったら何故か爆発四散した。
「え?」
「「「「「なっ!!?」」」」」
それに驚いたのは兵士だけじゃなかった。
僕もその威力に驚いて、暫く山があった方を見つめてしまったのだ。
『どうじゃ、これが真の力じゃよ!? とても驚いたじゃろう?』
確かに驚いたけど、多分これ女装効果の50倍も関係してる気がするよ……。
なによりもそこにいる兵士達は数人恐怖で座り込んでしまっている。
これなら脅しにもすぐに屈してくれそうだと、僕は兵に向けて声を張り上げた。
「そこで見てた君たちならわかるよね? この町があの山みたいに爆発四散して欲しくないのなら、大人しくショコラ様をこちらへと渡してもらおうか??」
「は、いや……それは!?」
「そんな事出来ないけど、町を破壊されるのはもっと困るし、一体どうすれば……?」
まだ動ける兵士たちは混乱しながらも何度も俺と山を交互に見ていた。
あまりの決断力の無さに、僕はリノーを置くと兵士たちの方へ少しずつ近づきながら言ってやる。
「そうやって時間稼ぎをするつもりかな? 僕が10カウントとするまでにショコラ様をここまで連れてきてくれないなら、この町に危害を加えるけどいいいよね?」
「ま、待ってくれ!! いま上司に確認を……」
「そんなの待てる訳がないよね? はい。10、」
僕は軽くジャンプして、今僕と話した男の横へと向かい、軽くデコピンをしてやる。
「ぶべぇっ!!!?」
「9、」
それだけで、その男は壁まで吹き飛んで行くのが見えた。
そして気絶してしまった男の事は放っておいて、この中で一番偉そうな男の前へと移動すると男の首もとへ聖剣を突き立てる。
「8、このまま首が胴体と離されたくなかったら、早くショコラ様を出してもらえますか? もう5かな?」
「なっ!?」
「あなたが言っていいのは、はい、だけですけど? 3、2……」
「わ、わかった! わかったからその剣を離してくれ!!?」
「本当ですか? 僕は優しいからその言葉を信じて剣を引いてあげますけど、もしそれが嘘だったらわかってますよね?」
「ひ、ひぃ……! お、お前ら急いで王女様を此処へと連れて来い!!」
そして動ける兵士たちはバタバタと走り出したのだ。僕はショコラ様がここに来るまでの間、ずっとニコニコと兵士たちに圧をかけ続けていた。
その結果。今、目の前にショコラ様の姿があった。
ショコラ様を解放した兵士たちは少し後ろに離れて僕たちの様子を見ていたが、流石にちょっかいは出せないようだ。
「いやぁ、まさかこんなにもあっさり行くとは思っていなかったよ。流石フラムだね?」
「いや、ショコラ様。捕まってたにしてはなんだか余裕ですね?」
「それは勿論だろ、私はフラムを信じていたからね」
そう言いながらショコラ様は僕の方へと歩いてくる。
大穴のせいで少しでこぼこになっているため、少しよろめいたショコラ様を僕は抱き止めていた。
「大丈夫ですか?」
「おっと、すまないね」
「ここは危ないですから、素早く移動しましょう」
僕はショコラ様も抱えると、自分の国をもう見る事なくクリーム王国への道を見つめていた。
だってもうこの国に用はないから、今から僕たちはこんな国は捨てて隣国へと向かうのだ。
「おや、もしかすると必死に移動する必要はないかもしれないね?」
「どういう事ですか?」
「お迎えが来たようだからね。フラム、アレを見たまえ」
ショコラ様が指を差した方を見ると、そこには勢いよくこちらに向かっている馬車の姿があった。
その馬車に付いている紋章を見て僕は驚いた。
「あれは、クリーム王国の紋章?」
「ああ、前に言っただろう。隣国に知り合いがいると」
「確かに聞いていましたけど……でもショコラ様は王女様なのですから、相手も同列という可能性を考えていませんでしたよ……」
そう言って、少し笑うと僕たちはその馬車に向けて歩き始めた。
大穴から離れた場所で止まった馬車からは、二人の女性が降り立つ姿が見えたのだった。
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