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25、隣国の王女と出会う僕①
しおりを挟む僕たちは今、ガタゴトと馬車に揺られ隣国であるクリーム王国へと向かっていた。
目の前には多分この国の王女だと思われる二人が、笑顔でこちらを見ている。
何故曖昧なのかといえば、急いで馬車に乗った為にまだ挨拶もできていなかったからだ。
「皆様もう大丈夫ですわ。ようやくクリーム王国に入りましたから、安心してくださいませ。ここからは我が国の風景を楽しみながらゆっくりと王都へ向かう予定ですわ」
「そうか、特に追っ手が来る事もなくてよかったよ。それにしてもカスタード、迎えに来てもらってすまなかったね」
「いえ、男装美少女であるショコラ様の為でしたら、私は火の中水の中ですわ……」
そう言いながら、カスタードと呼ばれた女性はショコラ様をうっとりと見つめていた。
なんだろう、この人凄く男装美少女が好きなのだろうか?
なんだか不穏な気配を感じてしまう……。
「お姉様、それよりも私は横にいる方々が気になっている所なのですが……」
「まあ、確かに私も気になっていたところですわ! この美少女二人は誰なのかしらって!」
「この二人は私の協力者だよ、先程見ただろ? 町の前に大穴が空いているのを、それはここにいるフラムによるものなんだ」
「まあまあ、あなたフラムちゃんって言うのですわね~。今すぐに抱きしめたいところですけど、馬車の中は危ないからやめておきますわ」
勢いよくこちらを見たカスタードさんに僕は少しビビりながらも、一応挨拶をと思い手を胸に持っていく。
「ご挨拶が遅れましてすみません、僕はフラムです。こう見えて男なので、美少女ではなくてすみません」
「まぁ!」
「!?」
王女様はとても驚いて声を上げていた。そして妹さんの方も本当に一瞬だけ目が見開いていたけど、早すぎて多分僕しか気がついていないと思う。
「それと、ショコラ様の反対側に座っているのは僕の妹です」
「リノーです。お兄様について来ただけですが、どうぞよろしくお願いします」
「あらあら~、『おとこの娘』と可愛い妹ちゃん、ですのね!」
ん? なんでこの世界に『おとこの娘』という単語があるんだ?
そう疑問に思っていると、二人の王女様も僕に挨拶を返してくれた。
「私も挨拶を、私はクリーム王国第一王女のカスタードですわ」
「私はクリーム王国第二王女のクロテッドです。どうぞよろしくお願いします」
カスタードさんはふわふわの薄黄色の髪に青い瞳で、クロテッドさんも同じ髪色と瞳を持ったサイドツインテールの女性だった。
二人ともタレ目でおっとりしたタイプだった。そしてとてもそっくりなのだけど、カスタードさんがあまりにも巨乳でつい視線がそこにいきかけてしまう。しかし姉妹なのにその差は一体……と、少し失礼な事を思ってしまった。
そして先程から、クロテッドさんを見るたびに何か違和感を覚えてしまうのに、それが何かわからない。
「それでは挨拶も済みましたから、今後我が国でどうされるのかを聞いてもよろしくて?」
「ああ、そうだな。私はアイス城へと着いたら、国王陛下にタルト王国へ戦争をしかけて欲しいと伝えるつもりだ」
その話に、先程まで笑顔だったカスタード様は無表情になり、その目がスッと細くなる。
そしてこの場に緊張が走ったのだ。
「それは我が国に何か利益があるのかしら?」
「勿論。その内容は、また国王陛下のもとで詳しい話しをするよ」
「そうですの……ではショコラ様の話は王宮に着くまでの楽しみにとっておきますわ」
フッと、その緊張状態が解けたと思ったときには、カスタード様の表情はすでにもとへと戻っていた。
「それにしても、ショコラ様が本当に自国を潰そうと思ってるなんて思いませんでしたのよ?」
「仕方がないよ。前までは本当に実現できるか不安だったからね。でも今は違う、ここにいるフラムがいればそれも容易に出来ると、私は信じているんだ」
「まあ、それ程までに互いを信頼なさっているのですわね……素敵!」
隣でなにか恥ずかしい事を言われている気がするのだけど、今の僕には二人の会話をあまり聞く余裕はなかった。
何故なら先程からクロテッド様が僕の事をじーっと見つめてくるのだ。何故か僕もその瞳を見つめ返してしまう。
そして僕は思い出していた。
そういえばクリーム王国の第二王女と言えば、あの糞王子が貢いでいた相手じゃなかっただろうか?
「あの、クロテッド様に聞いてもいいですか?」
「はい、なんでしょう?」
「タルト王国のシュクル殿下に言い寄られて、貢がれていたと聞きましたけど?」
「ああ、そんな事もありましたね。何故かあの人、私にあった途端運命の相手だと言ってきましたからね……」
その時のことを思い出したのか、クロテッド様は少し嫌そうな顔をした。
と、いうよりもあの糞王子は誰にでも運命感じちゃう系のアホだったようだ。
「それにしてもあれ程貢がれていたのに、よく婚約を断れましたね。流石にそこまでされたら国王陛下も重い腰を上げそうなものですけど……」
「ああ、それは仕方がありませんよ。それには理由があるのです」
「理由、ですか?」
「ええ、でもこの話をするには許可を取らないといけませんので……えーっと、少しお待ちください」
そう言うと、今もショコラ様に話しかけているカスタード様の話に割り込むように、クロテッド様は普通に話しかけたのだ。
「お姉様、お話し中すみません。もしよろしければ、フラムに私の事を話してもよろしいですか?」
「うーん、そうですわね。彼は『おとこの娘』なのですのよね?」
「ええ、間違いなくそうですね」
「それなら私としてはあなたと仲良くして欲しいですし、特に不利益もなさそうですわ。ですから話す事を許可します」
「お姉様、許可を下さってありがとうございます」
そしてクロテッド様は改めて僕を見て微笑んだ。
「お待たせしました。先程の話の続きですが、何故私が婚約者として断るしかできなかったのか、それは……」
「それは……?」
見つめ合う視線のせいで、それを聞くまでにとても長い時間がすぎたように思えてしまう。
そして、クロテッド様はニコリと笑いながら言ったのだ。
「私が『おとこの娘』だからですよ?」
「え?」
その表情はどこからどう見ても可愛い女の子にしか見えないのに、何処か違和感があった。
でもその一言で、僕はその違和感の正体を全て理解したのだった。
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