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第三章 温泉を作る俺
62、信じたい与太話(イア視点)
しおりを挟むレンは男の叫び声があまりに煩かったのか、面白くなさそうに剣を少し引いた。
「煩すぎて萎えたからその声やめろ」
「た、助かったのか……って、ひぃ!!」
「誰が助かったって? 次その声上げたら間違いなく刺すからな!」
男の態度に再び剣を押し当てると、レンは質問を再開した。
「それで、この事はお前のとこのキングは知ってるのか?」
「た、多分知らねえはずだ……」
「そうか、なら直接キングに文句言ってきてもいいよな?」
「そ、それはやめてくれ!! ファミリーを追い出されちまう!」
「お前らみたいなのは、一度追い出された方がいいと思うけどな……」
少し考えたレンは意見を求めるようにエノウを見た。
「どう思う?」
「私としては、竜殺しと話し合いをするのがいいと思うが? なにせ被害を受けたのはうちの子たちなんだからな」
「やっぱそうだよな! じゃあ、俺はコイツらを連れて文句言ってくるから、あとは任せた!!」
そう言って、五人の男たちを軽々持ち上げたレンは何を考えたのか、窓から飛び出していった。
そしてこの部屋には、抱えられた男が絶叫する声だけが残ったのだった。
「あの野生児は、いつまでたっても変わらないな……」
「エノウ、一応セーラたちにも話を聞いておいた方がいいきがしますわよ?」
「確かに今回は赤竜が絡んでいるのに、何故彼女たちはあんな元気なのか気になるな」
そう思い私とエノウはセーラたちに話を聞きにいこうとした。しかしすでにミラ以外は休んでしまったようだ。
そしてミラは食堂で、他のメンバーと今日の話で盛り上がっているようだった。
「あれは鉱山が崩れそうになったときです。何故か鉱山に赤竜がドーンって現れてですね、そこの上に乗っていたお面の男の人が『ダンジョンを荒らした落とし前、つけさせてもらう~!』って言った瞬間、赤竜がファイヤーブレスをゴォ~~!! って、それはもう凄かったんです!!」
ミラが話している内容はまるで作り話にしか聞こえなくて、聞いてるメンバーたちの何人かは首を傾げている。
「もう、本当なんですから信じて下さいです!!」
「ミラ、その話。私たちにも聞かせてもらえると嬉しいですわ」
「あ、イアさん。是非聞いてくださいですよ!」
そして聞いた話はどこを切り取っても現実離れしていて、誇張して話しているようにしか聞こえない。
「それで、ですね。私たちはお面の英雄様に助けて頂いたのです! まさか本物にあえるなんて光栄ですよ」
「お面の英雄……」
あるファミリーを壊滅させただけではなく、人身売買組織さえも壊滅させたという。現在市民の中で新しい英雄として、讃えられている男が本当にいるなんて思ってもみなかった私たちは、ミラが少し心配になる。
「ミラ、本当にそれはお面の英雄だったのか?」
「エノウさんまで信じてくれないんですか? 確かにその方は自分からお面の英雄だって名乗らなかったですけど、あんなピンチのタイミングで出てきてくれるなんて本物に違いないのです!」
「そ、そうか……」
「そのとき一緒にいたバンテットさんもあれはお面の英雄って言ってましたですし……絶対そうなんです!」
「「バンテットさん?」」
私とエノウは、その名前になんだか既視感を感じて二人で聞き返してしまった。
「はい。バンテットさんは『カルテットリバーサイド』で宿屋を開いているかたです。とても親切で最初に赤竜から助けてくださったのは、その人なのです! それも防御結界が凄くて、赤竜がその結界の上に乗ったのですよ!?」
「カルテットリバーサイドで宿屋をしていて、結界が凄い……」
「なにより名前がバンテットですわよ……」
それだけで、私たちはある可能性を感じて互いに目線を合わせていた。
「どうしたのです? 私の話、まだ信じられないですか?」
「いえ、今の話は信じたくなりましたわ」
「それで、その宿屋はどこに?」
「えっとですね……今度温泉を作るそうなので、それが出来たらファミリーの人たちを連れて行きますと伝えたので、それまでは内緒です!」
ニコニコと人差し指を口元に当てるミラを見て、これ以上詳しく聞こうとすれば怪しまれると思い、聞くのを諦める。
「そ、それなら仕方がありませんわね……」
「また、そのときは教えてくれ」
「はいです!」
「じゃ、私たちはこれで失礼するが、ミラはあまり夜更かしするんじゃないぞ」
「もう15なんですから、子供扱いしないでくださいです!」
「はは、そんなのまだまだ子供だろ」
そう言いながら、私とエノウは食堂を後にした。
そして私たち二人の寝室へと向かい、二人で横になりながら、先程の話を思い出す。
「イアはどう思いますか?」
「そのバンテットと言う人が、バンかどうかという事ですわよね……私は本人だと思ってますわ。というよりそう思いたいのですわ」
「イアは置いていってしまった本人だからな……でもアレは君のせいじゃない」
私は今でも夢を見る。
バンを置いていった夢を……あのとき違う選択肢があれば助けられたかも知れないと……。
「この話はレンには?」
「暫くはやめておこう、アイツに言えばすぐにでも『カルテットリバーサイド』まで一人で飛び出していくだろうからな」
「そうですわね……」
「それに温泉もメンバーが行く日は避けよう。もしかすると警戒されて出てきてくれないかもしれないからな」
そう決めて私たちは抱きしめ合って眠りについたのだった。
でも私がその日見た夢は、バンを置き去りにせずに一緒に連れ帰る夢だったのですわ……。
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