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第四章 ダンジョンを観光地化させる俺

87、確認

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 考えた結果、俺がこの男たちを脅す為に出来ることは限られていた。
 まず俺は攻撃スキルなんて使えない。俺が使えるのは『プロテクト・ゾーン』と、物理防御を上げる『ディフェンスアップ』の二つだけだ。
 だからここはプロテクト・ゾーンでどうにかするしかないかと悩んでいると、イアさんが思い出したように言った。

「そういえば、バンは攻撃スキルを持っていなかった気がしますけど、もしかしてこの結界しか使えませんの?」
「……その通りですけど、でもこの『プロテクト・ゾーン』があれば多分どうにかなりますから大丈夫ですよ」
「バンのその自信はどこからくるのかよくわかりませんけど、この結界内だと味方も魔法が使えないのは変わっていませんわよね?」
「確かにそうなんですけど……使えないスキルのままですみません」

 そう言って、癖のように俺は頭を下げていた。
 どれほどプロテクト・ゾーンの使い方が上手くなっても、何故かそこだけはどうにもできなかったのだ。
 しかし最近、俺はその理由になんとなく気がついていた。そして思ったのだ、もしかしてそれを解明出来れば今の俺は凄い事ができるかもしれないと。
 それにここにはイアさんがいるから、マリーみたいに誤魔化さずに正しく鑑定結果を教えてくれるはずだ。
 そう思いながら顔を上げると、何故かクスクスと笑っているイアさんと目があった。

「ふふ、バンはそういうところも全く変わりませんわね、でもそんな落ち込む事ありませんわ。動きながら使えるようになっただけでも大進歩だと思いますわよ」
「イアさん……」

 まさかイアさんが褒めてくれるとは思っていなくて、俺の8年かけた努力は無駄じゃなかったのだと少し嬉しくなる。

「ですが、このままでは相手の体力切れを待つだけの時間稼ぎになってしまいますわ。勿論バンには何か考えがあるのですわよね?」
「えーっと、あるにはあるんですけど……」

 確かに俺がやりたい事はもう決まっていた。
 だけどそれには結構魔力を使う為、まず先に俺の ステータスを確認しておきたかったのだ。
 だから俺は先程決めたとおりイアさんに鑑定を頼む事にした。
 
「確かイアさんって鑑定を使えましたよね?」
「使えますけど……一体何を鑑定するつもりですの?」
「できれば俺に鑑定を使ってもらえますか?」
「……どうしてバンに?」
「気になる事があってですね、これを確認しないと上手くいくかわからなくて……」
「仕方ありませんわね。作戦に関係あるのでしたらそれぐらいは手伝いますわ」

 作戦に直接関係があるわけではないけど、その結果次第では結界の使い方を変えなくてはならないからな。
 そう思っていると、目の前でイアさんが四角を描くように魔法を展開していた。俺には見えていないが多分その四角の中に、ステータスが出ているのだと思う。
 それを見ていたイアさんが首を傾げたのだ。 

「……あら? バンのステータスカウンター、壊れてますわ」
「え、どう言う事ですか?」
「それが、どう見てもバンの魔力量は既に上限を超えていますのに、何故かずっと増え続けているのですわ」
「魔力量が増え続けている、か……」

 それは、俺の思った通りの結果だった。
 俺のスキル『プロテクト・ゾーン』には魔力を通さないという効果がある。しかしどうやら正しくは魔力を通していない訳じゃない、魔力を吸収していたようなのだ。
 そしてこれこそ、8年前に俺が10日間魔力切れを起こさなかった理由という訳だ。

「イアさんすみません。今度はあの男たち誰でもいいので、鑑定を使ってもらえますか?」
「え、ええ。いいですわよ」

 イアさんは不思議そうな顔をしたまま、今度は男たちの一人へ鑑定を使った。
 そして再び首を傾げたのだ。

「……これは?」
「イアさん、どうなってるか教えてもらってもいいですか?」
「ええ。あの男は魔法もスキルも使っていない筈ですのに、魔力量が少しずつ減っていますわ……」

 これも思った通りだ……。
 どうやらこの結界は中にいるだけで魔力を吸い取り、ゆっくりと相手を弱らせていくみたいだ。
 多分味方がスキルや魔法を撃てないのもその効果が原因なのだと思う。
 だからきっと、このスキルは本来敵に対して使う物なのだ。それなのに俺はいつも自分に使い続けていた。
 そもそも、それが間違いだったんだ。

「イアさん、ありがとうございます。それがわかれば充分です。これで俺も遠慮なくスキルを使う事が出来ますよ!」
「つまり私の鑑定がおかしい訳ではないという事ですわよね……?」
「イアさんの鑑定は正しいですよ、安心して下さい」

 俺としても、魔力量が最大値を超えてたのは予想外でしたけどね。
 そんな結果に満足している俺とは違い、イアさんは頬に手を当てるとため息をついていた。

「鑑定が間違っていないのなら、これはどういう事なのか教えてもらえますわよね?」
「えーっとですね……実は俺のプロテクト・ゾーンには、どうやら相手の魔力を奪う力があったみたいです」
「……成る程、今のはそういう事でしたの。それなら結界内で魔法が使えないのもある程度納得できますわね。しかし少し恐ろしいのはこのスキルに閉じ込められてしまうと、魔力切れでいつか倒れてしまう可能性があるという訳ですわよね」

 流石イアさんだ、それだけで全てを理解してしまうなんて。

「その通りですね。だから時間稼ぎしていればコイツらは勝手に弱ってくれるわけです。でも思ったより吸収速度は遅いので、倒れるのを待ってたら数日かかりそうですけどね」
「それでも充分ですわよ……。全く、本当に貴方のスキルはキングの思っていた通りだったのかもしれませんわね」
「……キングが?」
「キングは最初の頃から貴方のスキルには可能性があると見抜いていたのですわ。だから、貴方がファミリーからいなくなってしまった事は、私たちにとって大きな損失だったという事ですわね……」

 イアさんは過去の事を思い出しているのか、悔しそうに言った。
 だけど俺はもうファミリーに戻るつもりはない。
 だって俺の居場所はここじゃないから。
 そう思いイアさんから顔を背けた俺は、改めて放置していた男たちを見て言い放った。

「よーし、待たせたな! 準備に手間取ったせいで、お前らの事をすっかり忘れそうだったよ」

 ようやくコイツらを脅すための準備は整った。
 今から俺は男たちから奪った潤沢な魔力で、プロテクト・ゾーンを多重に展開するつもりなのだ。

「あ? ふざけんなよてめぇ、早くここから出しやがれ!!」
「本当に俺たちは悪くない! 悪いのはあの女なんだぞ!!」
「そうだ、そうだ!! まさかと思うがお前はアイツが誰か知らないのかよ!?」

 その一言に、俺はカチンときたのだ。
 だってアンナの事は、コイツらよりも俺の方がよくわかってる筈だ。だからこんな奴らに、アンナの事をとやかく言われたくない。

「アンナの事なら俺は憎いほど知ってるさ。だけどお前らみたいなのにアンナへの復讐は任せられないんだよな」
「は? コイツ何言ってやがる……!」

 俺はゆっくり結界に近づくと男たちに向けてニヤリと笑う。

「今からお前たちに、本当の恐怖を見せてやるよ」

 俺は中指と人差し指をクロスさせ、プロテクト・ゾーンを多重に発動した。
 突然現れた無数の結界の線に、男たちは驚きのあまり悲鳴をあげたのだ。
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