魔眼の使い魔と異世界転生〜世界の秘密を解き明かせ!〜

アオノクロ

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第4話 「異世界チートが無双」

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 盗賊の頭領はどエム。

 アイの一言で空気が凍りついた。
 声も物音も自然の音も全てが無くなり、ただ世界が存在する、そんな感覚。
「奴隷を見ては羨ましい常々思って」
「ちょっと待てぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇ!」
 たまらず叫んだ。
「何でしょうかマスター」
「何でしょうか、じゃねぇよ! 何とんでもない爆弾はなってんだ! 見ろよ! もれなく全員固まってるだろ!」
「逃走の隙には十分かと」
「味方の隙にもなったわ!」
 先ほどまでの空気が無かったかのようにアイにツッコミを入れる。
「秘密を暴くと伝えたはずですが」
「あんな秘密だと誰が思うか! お宝を独り占めとかそんなんだと思ってたわ! それが何? ストレートかと思ったらデッドボールくらった気分なんだよ!」
「暴くと暴投をかけた良いシャレですね」
「偶然じゃい!」
 混乱しすぎて俺の出身地がどこなのか怪しくなってきた。そして連続したツッコミで息切れになり、息を整えていると周りが未だに静かなことに気がついた。
「マスターあちらを」
 アイに促されるままに見ると、ハゲ、いやヘガがこの世の終わりだとでも言うような絶望した顔で膝をついていた。
「……」
 何も言わないヘガに心ばかりの同情を向けながら、今の間に逃げようとイリスさんに近く。
「……違う」
「え?」
 ポツリと、後ろから声が聞こえた。振り返るまでもないが、間違いなくヘガの声だ。
「違う、違うんだ」
 壊れたように違うと言い続けるヘガ、本来なら無視すべきだが流石に不憫に思い声をかける。
「……一応聞くけど、何が違うんだ?」
 応えずに、口を閉じたヘガ。小さく、次第に大きく身体を奮わせると立ち上がり、大声で言い放った。
「俺はちょっと鎖で縛られたり手錠をはめられたり何なら鞭打ちとかに興味があるだけでそこまで望んでない!」
 政治家の街頭演説のごとく、清々しいまでの暴露。
 ただし性癖の。
「奴隷のように扱うことを望んでいるだと? そこまで行くほど進んで」
「マスターに手枷をつける時羨ましいと思っていました」
「ああああああぁぁぁぁぁぁ!」
 ハゲた大男の慟哭。
 ここまで心に響かないものもないだろう。
「……アイ、他にあるなら今のうちに言っとけ。その方が優しさだ」
「了解です。娼婦を買う時も手下の手前」
「やめろぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉ!」
 しばらくの間、ハガの慟哭が森に響いた。



「……以上です」
「   」
 アイの暴露に涙も声も出し尽くしたハガは、真っ白に燃え尽きていた。
「……そろそろ行くか」
 逃げるから立ち去ることが目的となった今、手枷を外すために鍵を取ろうとハガに近づいた。ハガの手下も捉える気力が無いのか、俺に近づこうともしない。
 我が身は大切だが、こんな助かり方は望んでいなかった。言い訳じゃない、本心だ。
 ハガのためにも、早く立ち去ろう。
「次に手下ですが」
「「「「「え」」」」」
 動くどころか声も出なかった手下達を声がかぶった。というかアイはこれ以上の情報を掴んでいたのか?
「彼らは全員ハガに惚れています」
「え」
 燃え尽きたはずのハガが顔をあげた。
「全員がハガに惚れたために盗賊に入団していますね。元は精々がチンピラ以下、普通の善人もいます」
「え、え、え」
 困惑するハガ。手下を見るが全員が無言で目を逸らす。気が付きたくなかったが、頬を染めている。さらに最悪な考えが頭に浮かんだ。
「アイ、間違いなら良い。むしろ間違ってて欲しいんだけど。もしかしてだけどな、さっきあいつらが動かなかったのって」
「見逃そうという善意一割、残りが傷心したハガを慰めるついでに色々と」
「オッケー、分かった。それ以上言うな」
「お、お前ら嘘だろ」
 沈黙が答えを物語っていた。
「お、おい何とか言えよなぁ。こいつらのいうことは嘘だって、ほら。面白いこというよなって。はは、はははははははは」
 ハガの乾いた笑いが響く。さっきまでとは違う理由でここから逃げたくなってきた。
「……頭領」
 ようやく一人が口を開いた。
「お、おう何だ」
「……俺、頭領の自信溢れるところに憧れて、本当はこんな悪さして欲しくなかったですけど、それでもついて行きたかったんです」
 一人の独白に俺も、俺も、と周りが賛同していく。
「そ、そうか。今まで気がつかなくて悪かったな。も、もう良いぞ無理について来なくても。俺は一人で生きてくから」
「でもね、今の話を聞いて思ったんですよ」
「な、何をだ」
 腰を引き気味に手下と話すヘガ。気持ちは分からなくもないが、側から見ればヘガの方が下に見える。
 言うか言うまいか悩んでいた部下は覚悟を決めたのか、真剣な表情になるとヘガに言い放った。
「頭領、俺たちは奴隷プレイ有りですよ」
「いやだぁぁぁぁぁぁぁぁ!」
「待ってくださいよ頭領!」
「これも頭領の希望プレイですか!」
「あ、これ二人の鍵ね。色々迷惑かけたけどごめんね。それときっかけとくれてありがとう」
 涙と共に走り去るヘガ、その背中を追いかける部下達。
 俺の手には部下に渡された手枷の鍵。



 これはつまり、異世界転生をして、巻き込まれた事件にチートを使って乗り切る王道イベントだ。言葉にすれば。
 言葉にすればそうだが何かが違う。
 いやあってる。経緯も結末も。
 でも違う。
 やりきれない思いを抱えながらもとりあえず手枷を外そうと、渡された鍵を使う。
「ほ、ほ、難しいなこれ」
「鍵穴の位置を見るに人に任せた方が良いですね」
「そうか。イリスさん、ちょっとお願いしてもいいですか?」
 イリスさんに頼もうと振り返ると、思っていたよりも近くにいた。
「手枷の鍵ですね、任せてください」
 笑顔で鍵を受け取るイリスさん。
「それにしてもカッコよかったですよマコトさん」
「え?」
 鍵を使いながらイリスさんは急に話し出した。
「過程はまぁ、スムーズには行きませんでしたけど、私のために前に出て、助けようとしてくれたこと。一生忘れません」
 手枷を外すために少し屈んだイリスさんは、下から見上げるように、いわゆる上目遣いで微笑んだ。
 日本どころか、世界中を探しても滅多にお目にかかれないほどの美貌を持つイリスさん。そんな人が近くにいることを意識すると急に緊張してきた。
「いや、その、別に当然と言うか、アイの方が活躍してたし大したことじゃ」
 改めて振り返るとそうだ。全体の働きを考えると作戦実行を行ったアイ。時間稼ぎをした俺。どちらが活躍したのかは考えるまでも無い。
「そのアイさんもあなたがいなければ、いませんでした。ですので」
 ガチャリと手枷が外れる。そして自由になった両手をイリスさんが優しく握る。
「誰かを助けることを当然と言える貴方だから、私を守るために動いてくれたマコトさんに私」
 ゆっくりと顔が近く。
 そんなことはない。イリスさんが思っているほどできたに人間じゃない。
 言いたいのに、口にできないほどの緊張と惹かれるほどの魅力が身体を満たす。
「あの、イリスさん」
「どうぞ、イリスと呼び捨てに」
 程よく長い睫毛、宝石のように輝く瞳、スラリとした鼻、水気のある唇。遠目からも綺麗だった顔のパーツが細かく見えるほどの距離。無意識に俺からも近づいていた。
 ゆっくりと目を閉じて顔を傾けるイリスさん。
 うだうだと御託を並べたが俺も男なんだと言うことを改めて思い直した。こんな美人にここまでされて何もしないわけにはいかない。
 そう決意した。手に力が入る。
 そこで気がついた。
「イリスさん?」
「イリスと」
「あの」
「もう、焦らすのがお上手ですね」
「ちょっと聞きたいんですが」
「はい、何でしょう」
「イリスさんは自分の手枷、いつ外したんですか?」



 俺が盗賊から鍵を貰い、イリスさんに外してもらう。その時にはイリスさんに手枷はついていなかった。つまり、イリスさんは鍵を使わずに手枷を外した?
「イリスさん?」
 俯いたイリスさんの顔を覗き込むと目が泳いでいた。
「ん?」
「マスター彼女は自力で手枷を外しましたよ」
「え?」
 空気を読んでいたのか、今まで黙っていたアイが口を開いた。
「彼女は一人であの盗賊全員を倒せる力を持っています」
「は、え? なら何で捕まってたんだよ」
 気になったままにアイに聞くと、目の前にいたイリスさんが、ビクリと震えた。
「彼女はわざと捕まりました。白馬の王子に助けられることを夢みているからです」
「アンギャアアアアアアアアアアア!」

 まだ続くのかこれ。
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