そっとおやすみ

ツヨシ

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私が手帳を凝視していると、中年男が言った。

「私どもはあなたのご主人を探しています。ご主人の会社から話がありましてね。あなたのご主人、会社ではなかなか重要なポストにいるみたいですね。ところで奥さん。あなたはご主人の捜索願を出していませんね。普通の人なら当然出すもんですがね。なんで出さないんですかね」

――この人はいったい、なにを言っているんだろう?

私は少しいらつきながら答えた。

「捜索願なんか、出すわけがないじゃないですか。うちの人は、いなくなったりなんかしてません」

中年男が私に一歩近づいて言った。

「それじゃあご主人は、今どこにいるんですかね」

私ははっきりと言った。

「裏山です」

「裏山?」

「そうです。このところ疲れ気味なので、裏山でしばらく休んでいます。そのうちまた顔を出しますから」

「裏山で? で、裏山のどこにいるんですかね」

「遊歩道のその先の深い土の中です。そこで休んでいます」

二人の刑事が思わず顔を見合わせた。


         終
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