猫の声

ツヨシ

文字の大きさ
上 下
1 / 1

しおりを挟む
友人が言う。
「ここのところ毎日、うちの家の屋根の上で、猫が鳴いてうるさいんだ」
そりゃあ、野良猫は珍しくないし、屋根の上で泣くこともあるだろうが、それにしても毎日と言うのは、少なくとも私は聞いたことがない。
「とにかく一度うちに来て、聞いてみてくれよ」
友人は、元気なくそう言った。
私が思っている以上に、まいっているようだ。
そこで数日後、夜に友人の家を訪ねた。
その日にしたのは、翌日が休日なのでなにかあって遅くなっても大丈夫だと思ったからだ。
差し向かいで飲み、話に花を咲かす。
すると聞こえてきた。
「ほら、聞こえるだろう」
確かに聞こえる。
猫の声のようなものが。
ただ私には、猫の声に似てはいるが、少し違うような気がした。
聞いているとその声は時々鳴き止むが、しばらくするとまた聞こえてくるのだ。
「本当に猫なのか?」
「なに言ってる。それ以外ないだろう」
「見たのか?」
「いや、見たことはないが」
あれほど悩んでいたのに、一度も見ようとしなかったようだ。
「それじゃあ、見てみよう」
「わかった」
友人と二人で外に出る。
そして屋根を見た。
街灯に照らされて見えた。
屋根の上にいる、泣いている首だけの子供が。

       終
しおりを挟む

この作品の感想を投稿する


処理中です...