小豆洗い

ツヨシ

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音が少しだけ大きくなった。
しゃきしゃきしゃき。
また大きくなった。
しゃきしゃきしゃき。
更に大きくなった。
――!
俺は気づいた。
近づいてきている。
音が俺のほうに向かってきているのだ。
その時、テントの布越しに明かりが見えた。
そして河原を踏みしめる足音。
誰かが俺のテント向かって歩いてきている。
そしてその足音は俺のテントの前で止まった。
すぐ前に明かりが見える。
気づけばしゃきしゃきしゃきという音は、もう聞こえなくなっていた。
テントの入り口が開けられた。
顔を出したのは昼間の男だった。
「気になってきてみたんだが、間に合ってよかった。あんた、危なかったぜ」
「そう……ですか」
「ここはいけないなあ。よくないものがいる。だから俺がいてやるよ」
男は俺のテントの隣に慣れた手つきでテントを建てた。
「これでいいだろう。おやすみ」
「おやすみなさい」
ランタンの灯が消された。
俺はしばらく寝付けなかったが、やがて眠りに落ちた。

朝起きると、男はもう起きていた。
「おはよう」
「おはよう」
それから夕べの残りを食べた。
もちろんカレーだ。
男もカレーだった。
「あんたもカレーかい」
「そうですね」
男が豪快に笑った。
俺も笑った。

男と連絡先を交換した。
男の登録名はAにした。
それからもキャンプにはよく行ったが、一人で行く時もあれば、男と二人で行く時もあった。
一人で行っても男と行ってもキャンプは楽しかった。
楽しければ一人だろうと二人だろうと関係ない。
そして今は男と知り合って三年ほど経つが、俺はいまだに男の名前を知らない。
しかしそんなことはどうでもいいことだ。

       終
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