深き水の底に沈む

ツヨシ

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あのあまりにも不可解でとてつもなく恐ろしいことに巻き込まれることになってしまったきっかけは、陽介の一言だった。
「山頂近くののキャンプ地に遊びに行こうぜ」
正也は承諾した。
正也は県外の大学に通う一回生だ。
陽介も同じで、大学内のサークルで知り合った。
そして正也の彼女のみまと陽介の彼女のさやかが参加することになり、四人で朝早くから車で出かけた。
四人とも同じ大学の一回生で、みんな県外出身だ。
車は陽介しか持っていない。
後の三人は原付で、免許も原付しか持っていなかった。
なので陽介の中古の軽自動車に四人で乗り込み、キャンプ地にむかったのだ。
大学は結構大きな山のふもとにあり、その山頂近くににキャンプ地がある。
四人ともに出身地はばらばらで、数か月大学に通っていたが、大学からそう遠くないキャンプ地に来るのは初めてだった。
しばらく車を走らせているとさやかが言った。
「さっきから山道ばかりね。山道以外ないのかしら」
山の中をずっと走っているのだから、山道なのは当然だ。
キャンプ地に着くまで、当然山道しかない。
しかし正也はそれにたいしてつっこみは入れなかった。
さやかは俗に言うあほの子で、その言動はつっこみ待ちをしているかのようしか思えないのだが、実際につっこんでみると、かなりの剣幕で怒るのだ。
それはみんな知っている。
だから正也だけではなく、誰もつっこまないようにしている。
彼氏である陽介でさえも。
一度正也は陽介に聞いたことがあった。
さやかのよく言えば天然、悪く言えばバカなところ、あれはめんどうくさくないのかと。
すると陽介は「あれが可愛いんじゃないか。何言ってるんだ」と答えた。
彼氏である陽介がそう言うなら、正也にはそれ以上言うことはない。
正也が思うことは、自分の彼女のみまが、賢くてしっかりものであって良かったと言うことだ。
そうこうしているうちに、車は道が二手に分かれているところに来た。
右は登り坂で左は下り坂。
左には「この先通行止め」の看板があった。
目的のキャンプ地は山の頂上近くにある。
そして左は下り坂の上に、この先通行止めの看板があるのだ。
どう考えても右だろうと正也が思っていたが、陽介はなぜかなにかを考えている風で、車を停めたままだ。
正也が言った。
「なんでこんなところで停まって考えているんだ。どう考えても右の道だろう。さっさと行こうぜ」
それでも陽介が何も言わず、車も動かさないので、今度はみまが言った。
「そう。キャンプ地は右よ。早く行きましょう」
すると車が動き出し、なんと左の下り坂に入ったのだ。
「おいおい、そっちじゃないだろう」
「そうよ。右で間違いないわ」
陽介が言った。
「通行止めだって。どんなものか見て見ようぜ」
するとさやかが言った。
「そうそう。通行止めなんて、おもしろそうね。行きましょう。楽しみだわ」
 正也とみまは後部座席でお互いの顔を見合わせた。
ただの行き止まりだ。
そんなもののいったいなにが面白いと言うのか。
おまけに山の細道。
ちゃんとユーターンできる場所はあるのか。
その他危険はないのか。
わざわざ行く理由なんてなに一つ思い浮かばないが、運転席の陽介と助手席のさやかは、子供のようにはしゃいでいる。
やはりバカップル。
似た者同士なんだなと正也は思った。
車はそのまま走っている。
ずっと下り坂だ。
右は垂直に近い崖で、左は崖下に大きめの川がある。
この先通行止めの看板があったから、そのうちに通れなくなってユーターンするだろうと思っていたが、車はどんどん進んで行く。
――いつになったら通行止めのところに来るんだ?
正也がそう考えていると、急に開けた場所に出た。
川と道が並行し、その左右に平地がある。
平地に田畑と古い民家がいくつかあり、平地の先は左右ともに山だ。
山に囲まれた細長い平地に、集落があったのだ。
看板にはこの先通行止めと書いてあったのに、山の中の集落についてしまった。
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