深き水の底に沈む

ツヨシ

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陽介が車をゆっくりと走らせた。
見る範囲では家は二十軒くらいだろうか。
映画などで見たことがある、山間の集落そのものの場所だ。
「通行止めじゃなかったのか?」
陽介がそう言った。
村に着いたと言うことは、通行止めではなかったことになるだろう。
だったらあの看板は、と言うことになるのだが、もちろん正也にはそれはわからなかった。
「ここ、どこかしら?」
さやかが言ったが誰も答えない。
ゆっくりと走っていた車がやがて停まった。
まるで誰かにその場所に吸い寄せられたかのように。
見れば道のわきにどこにでもあるような地蔵が二体並んでいる。
「ちょっと聞いてみるか」
正也がそう言い、みなが同意した。
四人で車を降りて、一番近くの民家へとむかう。
玄関に着きドアをノックすると、少し間があった後、五十代後半ぐらいの、いかにも田舎の中年女性と言った風貌の女が顔を出してきた。
「はいなんでしょう」
不自然なほどに抑揚のない声でそう言った。
「すみません、ここはどこなんでしょうか?」
正也が言った。
「ああ、ここは〇×村ですが」
四人が一瞬固まり、お互いの顔を見た。
女が言った村の名前。
はっきりと耳に聞こえたのにもかかわらず、なんと言ったのかがわからなかったのだ。
今までに経験をしたことのない、なんとも奇妙な感覚だった。
今度は陽介が言った。
「えっと、すみません。よく聞き取れなかったものですから、もう一度村の名前を言ってもらえませんか」
女は表情一つ変えることなく、と言うより最初からほぼ無表情と言っていい顔だったのだが、言われた通りにそのままの顔で言った。
「ああ、ですからここは□△村ですけど」
同じだ。
女の口調も同じ。
そして村の名前は四人にはっきりと聞こえたはずなのだが、なんと言ったのかが全くわからないのだ。
四人で立ち尽くしていると、みまが言った。
「そうですか。ありがとうございます」
みまはそのまま女に背を向けて、車に向かって歩き出した。
三人が慌てて後を追う。
家から少し離れたところで陽介が言った。
「なあなあ、村の名前がはっきりと聞こえたはずなのに、俺にはなんて言ってたのか、さっぱりわからなかったんだが」
さやかが首を突き出しながら言った。
「私も私も。あんなにはっきりと聞こえたのに、それなのになに言ったのか、まるでわからなかったわ」
正也が言う。
俺もだ。はっきり聞こえているのに、なにを言っているのかわからないなんて。こんなことは今までに経験したことがない」
みまが続く。
「私もそうだった。だからあれ以上聞いても意味がないと思ったんだけど。ほんとに不思議だし、不気味だし、わけがわからないわ」
「おい、とにかくこんな変なところ、もうおさらばしようぜ。気味悪いったらありゃしない。あの女もなんか変だったし」
陽介が言った。
正也も同じことを考えていた。
さっき村の名前が聞いたのにわからなかったこともそうだし、女の表情や口調も明らかに普通ではなかったが、それを差し引いてもここはなんだか薄気味悪さを感じる。
晴天の山間の集落。
山に川に、田畑に古い家。
どれ一つとって見ても不気味に感じる要素など一つもないのだが、正也は村に入った瞬間から言いようのない不吉なものを感じていたのだ。
その理由は正也にもわからなかったが。
「とにかくこんなところ、とっとと帰りましょうよ」
「そうね、それがいいわ。日帰りだからキャンプ場にも早く行かないといけないし」
女子二人がそう言い、男子二人が同意する。
車に着き、四人で乗り込む。
「それじゃあ最終目的地のキャンプ場に行きますか」
陽介が不自然なほどに陽気にそう言った。
正也が、キャンプ場は最終目的地じゃなくて、今日の唯一の目的地だろうと考えていると、陽介がエンジンをかけて車は走り出した。
陽介がユーターンをして、元来た道へと車を走らせる。
やがて山道に入った。しばらく走れば分かれ道に着くはずだ。
そこからキャンプ場に行けばいいのだ。
車の中は静かで、誰も声を発しなかった。
そのまま車は走り、そろそろ分かれ道に着くかと正也が思っていると、急に正也の目の前が真っ暗になった。
――えっ?
目を開けている自覚はある。
外は晴天で、まだ午前中だ。
それなのに突然視界が真っ暗になるなんて。
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