深き水の底に沈む

ツヨシ

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そして分かれ道の手前。
正也の目の前が真っ暗になった。
少し間をおいて急ブレーキ、女二人の悲鳴が連続して聞こえてきた。
そしてしばらくして正也の目が見えるようになった時には、車は再び村の中にいた。
横にはまたもや腹立たしいことに二体の地蔵が。
四人とも口を開かなかったが、やがてみまが言った。
「また同じことの繰り返しだわ。なんとかしないと。ねえ、ここの人たちに聞いてみるのはどうかしら」
「聞いてみてどううするんだよ」
 と陽介がふてくされたように言った。
「そんなの聞いてもないと分からないじゃないの!」
当たり前の話だが、二人ともいらだっていた。
普段はいつも冷静で、感情的になるなんてことがなかったみままでが。
正也が口をはさむ。
「とりあえず聞いてみよう。それが先だ。どうするかを考えるのは、その後にしよう」
陽介はまだぶつぶつなにかを言っていたが、一応は同意した。
それにしてもさやかが大人しいのには驚いた。
ヒステリックに騒ぎ続けると思っていたから、これは助かった。
さやかが騒ぎ出したら誰にも止められない。
彼氏の陽介でも無理だ。
それなのにちょっとしたことで大騒ぎしたことが、短い付き合いの中で何度か見たことがある。
おそらく、展開及び現状があまりにも異常すぎて、頭がついていってないのだろう。
正也はそう思った。
そして四人で車を降り、一番近い民家へと向かった。
最初に訪ねた家だ。
呼ぶとさっきと同じ還暦前の女が出てきた。
「なんでしょうか?」
正也が聞いた。
「すみません。どうも道に迷ったみたいなんですが。この村から出るには、どうすればいいでしょうか」
女が答える。
抑揚も感情もない声で。
「ここは一本道だから、西に行くか東に行くか。そうすれば村を出られるね。それしかないです」
正也は感じた。
最初の時にも思っていたが、どうもこの女には感情とか人間味と言ったものが、人一倍ないように思える。
顔もまるで能面のようだし。
しゃべっていても動くのは口だけで、それ以外の顔のパーツの全く変化がない。
まばたきすらしないのだ。
その顔は気味が悪くて仕方がなかった。
「そうですか。わかりました。どうもありがとうございます」
正也がそう言い、そのまま四人で車に戻った。
「それで、どうするんだよ」
陽介がそう言った。
不機嫌な声で。
「戻れないんなら、先に進むしかないだろう。道は一本道だそうだから。今のところそれしかなさそうだ」
正也がそう言うと、「わかった」と言った後、陽介は車を走らせた。
何度も通った道ではなく、その反対側に車を進めた。
川を挟んで左右に細長い集落。
しかししばらく走ると山の中に入った。
来た道と同じく下り坂だが、その勾配は緩いように思えた。
カーブも少なく、相変わらず進行方向の左側には川が見える。
山の中にしては大きく緩やかな川だ。
――この川は……。
地元を離れてこの地に来てから数か月しか経ってないが、正也はなんだかこの川を知っているような気がした。
何故そんな気がしたのかは、正也にもわからないのだが。
車は走り続ける。
ひたすら山道を。
そしてみんな無言だった。
正也もそうだが、こんな時にしゃべることなど思いつかないのだ。
考えていたよりも、山道は長かった。
戻った時にはしばらく走ったら村に戻されてしまったが、そんなこともなく車は順調に進んで行く。
――これはもしかしたら、ひょっとして……。
今度はあの村に戻されることなく、そのままどこかに出られるのではないのか。
正也はそう思い始めていた。
しかしそうだったとしても、いつになったらこの山道を抜けられるのだ。
道が下り続けている以上、どこかの街に出られるとは思うのだが。
だがもう一時間近くも走り続けている。
とっくに山は越えて、ふもとに降りているはずなのだが。
しかしまだ車は山道を走っている。
車は今、どこを、どの道を走っていると言うのだ。
こんな道がいったいどこに存在するのか。
そんなことを考えている間も、相変わらず誰も口を開かない。
が、突然聞こえた。
「きゃっ!」
さやかの声だ。
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