深き水の底に沈む

ツヨシ

文字の大きさ
9 / 37

9

しおりを挟む
しかも明らかに異様な空間であるこの村。
その村で見た夢だ。
現実感がありすぎたこともあり、見た夢になにか意味があるのではと考えたのだ。
夢の中で追ってきたのは二つだった。
それははっきりしている。
一つは一応人型らしきもの。
数は数体いたようだが、これがいったいなんなのか。
人でないことはわかったが、それ以上のことがまるでわからない。
その姿かたちも。
しかもそんな訳の分からないものが数体もいるのだ。
そしてもう一つは、とてつもない質量をもつもの。
その大きさは山にも匹敵する。
数は一つと思われるが、そんなとんでもないものにも追われていたのだ。
しかも人型ではないどころか、生物なのかそうでないのか、意志を持つものなのかそうでないのかもわからない。
つまりほとんどなにもわからないのだ。
――ほんと、どういうことだよ。嫌な夢を見てしまった。
気が滅入る。
この村はいるだけで、気が滅入るのだ。
随分と長く考えていると、となりのみまが目を覚ました。
「あっ、正也、おはよう」
「おはよう、みま」
「あんなことがあったと言うのに、すっかり寝てしまったわ。あったと言うより、今も続いているんだけど」
「そうだな、今も続いているな。ところでみま」
「なあに?」
「寝ている時に、なにか夢を見たかい」
「夢? うーん、なんにも見てないわ。でもどうしてそんなことを聞くの?」
「いや、なんでもないよ。ただなんとなく聞いてみただけさ」
「ふーん、変なの」
正也は自分の見た夢のことはみまには話さない方がいいと思った。
ただでさえ日常じゃありえないほど不安な状況なのに、夢なんかの話でみまをさらに不安にはさせたくはない。
みまが自分の髪をくんくんと嗅ぎ出した。
「どうした」
「正也、のど乾いてない、お腹すいてない」
「いや全然、のどは乾かないし、お腹もすいていない」
「昨日たくさん歩き回って、汗もいっぱいかいたわね。今はもうすぐ初夏だし」
「そうだな。随分つかれたし汗もかいた」
「それで、正也もそうだと思うけど、私も昨日の朝にご飯を食べてお茶を飲んでから、一切飲み食いしてないわ。でも全然のども乾かないし、お腹もすかない。そして昨日、たくさん歩き回ってたくさん汗をかいたわ。でも私の髪、全然臭くないのよ。まるで風呂上りみたいに。ほんと、不思議だわ」
みまは自分の長い髪をつかんで、正也の前に出した。
正也が臭いをかいでみると、その髪はいい臭いがした。
汗臭さはまるでない。
「本当だ。これはどういうことだ?」
「歩けば汗もかくし、疲れるわ。眠くもなるし、実際いつもよりも長い時間寝てたわ。でものどは乾かないしお腹もすかない。おまけに風呂に入らなくても身体が臭くならない。これっていったいどういうことなのかしら」
正也は自分の服に触ってみた。
ついさっき汗だくで目覚めたと言うのに、服はすっかり乾いている。
しかも汗臭くもないのだ。
正也は考えた。
考えて考えて。
その間みまは黙って正也を見ていた。
そして正也は一つの結論を出した。
「全てではないが、身体の反応からして、この村では時というか時間の流れが止まっている、あるいはリセットされていると言うことなんじゃないかと思うんだが」
「そうね、私もそう思ったわ。少なくともいくら動いても時間が経っても、のども乾かないしお腹もすかないのはそう言うことではないかとおもうの。でも疲れるし、眠たくもなる。しかし身体はずっと風呂上りみたい。訳が分からないし、その基準も線引きもわからないけど、どこかの部分で時間が止まったりリセットされている。それが今の私たちの体に反映されていると考えた方がいいような気がするわ」
「そうだな。今はそれくらいしか思いつかないけど、それほど間違っているとも思えないな」
「飲み物も食べ物もいらないし、お風呂にも入らなくていい。このある意味サバイバル的な状況の中ではとてもありがたいことだわ。そういえば、昨日の朝からトイレにも行ってないわ」
「俺もだ」
正也がそう言うと、みまが少しだけ笑った。
わずかの笑いだが、正也は少しほっとした。
「うーん」
陽介の声だ。
どうやらようやく目が覚めたようだ。
「うん、朝か。おはよう」
「おはよう」
「おはよう」
いつのまにかさやかも起きていた。
黙ったまま、あたりを見回している。
正也とみまの会話をどこまで聞いていたのかわからないが。
聞かれて困ると言う話ではないのだが、正也はなんとなくさやかには聞いてほしくはないと思った。
「とりあえず、朝だな」
陽介が言う。
「で、また調査するかい?」
「するわよ。当然でしょ」
とみま。
「そうだろうな。俺も早く家に帰りたいから反対はしないが。でも正直に言うと、ちょっと面倒くさいな」
「どう思おうと、一緒に調査してくれるんなら、それでいいわよ」
「はいはい、全くその通りだよな」
「そういえば、私お腹がすいてない」
急にさやかが言った。
「俺もだ」
と陽介。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

わたしの下着 母の私をBBA~と呼ぶことのある息子がまさか...

MisakiNonagase
青春
39才の母・真知子は息子が私の下着を持ち出していることに気づいた。 ネットで同様の事象がないか調べると、案外多いようだ。 さて、真知子は息子を問い詰める? それとも気づかないふりを続けてあげるか? そのほかに外伝も綴りました。

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

夫婦交換

山田森湖
恋愛
好奇心から始まった一週間の“夫婦交換”。そこで出会った新鮮なときめき

意味が分かると怖い話(解説付き)

彦彦炎
ホラー
一見普通のよくある話ですが、矛盾に気づけばゾッとするはずです 読みながら話に潜む違和感を探してみてください 最後に解説も載せていますので、是非読んでみてください 実話も混ざっております

怪蒐師

糸世朔
ホラー
第8回ホラー•ミステリー大賞で優秀賞を受賞しました。ありがとうございました! ●あらすじ 『階段をのぼるだけで一万円』 大学二年生の間宮は、同じ学部にも関わらず一度も話したことすらない三ツ橋に怪しげなアルバイトを紹介される。 三ツ橋に連れて行かれたテナントビルの事務所で出迎えたのは、イスルギと名乗る男だった。 男は言った。 ーー君の「階段をのぼるという体験」を買いたいんだ。 ーーもちろん、ただの階段じゃない。 イスルギは怪異の体験を売り買いする奇妙な男だった。 《目次》 第一話「十三階段」 第二話「忌み地」 第三話「凶宅」 第四話「呪詛箱」 第五話「肉人さん」 第六話「悪夢」 最終話「触穢」 ※他サイトでも公開しています。

父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

四季
恋愛
父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

邪神の祭壇へ無垢な筋肉を生贄として捧ぐ

BL
鍛えられた肉体、高潔な魂―― それは選ばれし“供物”の条件。 山奥の男子校「平坂学園」で、新任教師・高尾雄一は静かに歪み始める。 見えない視線、執着する生徒、触れられる肉体。 誇り高き男は、何に屈し、何に縋るのか。 心と肉体が削がれていく“儀式”が、いま始まる。

余白怪談

蒼琉璃
ホラー
これは私の体験談やヒトコワ、人から聞かせて頂いた体験談などを元に脚色した作品です。余白のある、なんとなく怖い話。 ※登場人物の名前は全て仮名です。 ※全十一話

処理中です...