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陽介が化け物の直前で止まり、小走りでカーブを曲がったさやかも同じく化け物の直前で止まった。
正也が見た時は、二人が並んで化け物のすぐ前で立ち尽くしていた。
その時、陽介が大声を出した。
「うぎゃっ!」
すると陽介は、驚いたことに隣にいたさやかの背中を思いっきり突き飛ばしたのだ。
さやかは前のめりになり、転ぶ直前の体勢のまま数歩歩いて化け物にぶつかった。
その時陽介は、ものすごい勢いで三人の間を抜けて、村の方向に向かって走っていた。
「きゃーーーっ!」
走り去る陽介を一瞬思わず見た正也の耳に、さやかの悲鳴が届いた。
振り返ると、さやかが化け物の大きな手でつかまれている。
わめき泣き叫ぶさやかを化け物は持ち上げ、その大きな口へと運んだ。
ぐがり
胸糞悪い音が響き、さやかの頭は化け物に喰われてしまった。
首のなくなったさやかの身体を、血まみれになったさやかの身体を、化け物がさらにがりがりと喰っていく。
「逃げるわよ」
はるみが言うと、陽介の逃げたのと同じ方向へ走り出した。
思わず見入っていた正也だが、我に返ってみまの手を取り、はるみを追うように走り出す。
体育会系ではないみまが必死で正也についてくる。
そのまま走り続けて村に着いた。
息も絶え絶えだ。少し離れたところではるみが待っていた。
二人がたどり着くとはるみが言った。
「あの化け物だけど、一人喰ったらそれ以上はどうやら喰わないみたいね。ただそのまま消えるだけ。でも彼氏に次いで、また人が喰われるところを見てしまったわ。何回見ても、ただ気分が悪いだけだわ。それにしてもだけど……」
はるみは言葉を止めた。
二人が見ていると、一息ついた後に行った。
「あの陽介って男だけど、自分の彼女を化け物の方に突き飛ばして逃げたわね。最低にもほどがあるわ。反吐が出そうなほどだわ。最も信用ならない人間ね」
みまが続く。
「ほんと最低。あの男のおかげでこんな村に閉じ込められたのに、あの男のおかげで人が喰われるところを見てしまったんだから。おまけに彼女を犠牲にして、自分だけ逃げるなんて。信じられないわ」
正也も言った。
「ほんとだ。たとえ生きてこの村を出られたとしても、あいつとの付き合いは、完全に終わりだな。顔も見たくない。人が喰われるところを見ただけで、最高に気分が悪いのに。自分の彼女を犠牲にするなんて、それ以上に気分が悪い」
「とにかく一旦帰りましょうか。これ以上捜索する気にもなれないわ」
はるみがそう言った。
異論はない。
そのまま歩き、洞窟に着く。
そこで女子二人は、しばらく陽介の悪口で盛り上がっていた。
正也もまったくもって同感だったが、女子二人が元気に話をしているので、あえて口を挟まなかった。
そして随分と長い間、二人は話をしていた。
陽介の悪口に始まって「そういえばこんな最低な奴もいたわ」「私もこんなひどい奴に会ったことがあるわ」と話が続き、話が尽きることがない。
全て誰かの悪口なのだが、勢いがつくともう止まらない。
考えてみればこの村に来てから、一度も世間話などで話が盛り上がることはなかったのだから。
そのうっぷんがかなりたまっていたのだろう。
そう正也は思った。
それを女子二人は、今発散させているのだ。
みまはそんなに人の悪口を言うような女ではない。
はるみもおそらくそうだろうと思うが、今は平常心とはとても言えない状態なので、こうなるのも仕方がないのだろう。
むしろこれで少しでもストレスの解消になってくれれば、それでいいと正也は思った。
随分と長い間、女子二人の悪口大会は続いた。
そいて次第に会話が途切れるようになり、やがて静かになった。
ネタが尽きたのか、さすがん疲れてきたのか、それとも人の悪口ばかり言っているところを正也にずっと聞かれていたので、それで恥ずかしくなってきたのか。
全部がその理由のような気もするが、とにかくようやく洞窟内に静寂が訪れた。
正也は気付いた。
自分もそうなのだが、さやかの死を悲しんでいる人は一人もいない。
陽介の身を難じている人も、誰もいない。
これも日ごろの行いと言うものか。
今まで陽介と友達付き合いはしてきたのだが、考えてみれば、陽介に好感を持ったことなど一度もなかったのだ。
よく今まで友達付き合いができたものだと、正也はあらためて、不思議に思った。
むこうが積極的に誘ってきたとはいえ。ほぼ誘いを断ることがなかったのだ。
正也は無言で考え続け、女子二人も口を開かなかった。
そのまま三人で座っていると、外が暗くなってきた。
陽介は帰ってこない。
いや帰れないのだろう。
賢い男とは言えないが、それでも自分が彼女を化け物に向かって突き飛ばして逃げたことを、他の三人に見られたことはわかっているはずだ。
そんな中、どんな顔をして戻ってくればいいと言うのだ。
正也は陽介は自分の前には二度と現れることはないだろうと思った。
それがお互いのためなのだろう。
女子二人もそう考えているのではと正也は思った。
二人とも陽介の心配は一切していないし。
あの状況、行動で、心配されるわけがないのだが。
「もう暗くなってきたわね。寝る時間だわ」
はるみが昨日に次いで言い、二人が軽くうなずく。
そしてはるみより先に横になった。
はるみも横になる。
正也が見た時は、二人が並んで化け物のすぐ前で立ち尽くしていた。
その時、陽介が大声を出した。
「うぎゃっ!」
すると陽介は、驚いたことに隣にいたさやかの背中を思いっきり突き飛ばしたのだ。
さやかは前のめりになり、転ぶ直前の体勢のまま数歩歩いて化け物にぶつかった。
その時陽介は、ものすごい勢いで三人の間を抜けて、村の方向に向かって走っていた。
「きゃーーーっ!」
走り去る陽介を一瞬思わず見た正也の耳に、さやかの悲鳴が届いた。
振り返ると、さやかが化け物の大きな手でつかまれている。
わめき泣き叫ぶさやかを化け物は持ち上げ、その大きな口へと運んだ。
ぐがり
胸糞悪い音が響き、さやかの頭は化け物に喰われてしまった。
首のなくなったさやかの身体を、血まみれになったさやかの身体を、化け物がさらにがりがりと喰っていく。
「逃げるわよ」
はるみが言うと、陽介の逃げたのと同じ方向へ走り出した。
思わず見入っていた正也だが、我に返ってみまの手を取り、はるみを追うように走り出す。
体育会系ではないみまが必死で正也についてくる。
そのまま走り続けて村に着いた。
息も絶え絶えだ。少し離れたところではるみが待っていた。
二人がたどり着くとはるみが言った。
「あの化け物だけど、一人喰ったらそれ以上はどうやら喰わないみたいね。ただそのまま消えるだけ。でも彼氏に次いで、また人が喰われるところを見てしまったわ。何回見ても、ただ気分が悪いだけだわ。それにしてもだけど……」
はるみは言葉を止めた。
二人が見ていると、一息ついた後に行った。
「あの陽介って男だけど、自分の彼女を化け物の方に突き飛ばして逃げたわね。最低にもほどがあるわ。反吐が出そうなほどだわ。最も信用ならない人間ね」
みまが続く。
「ほんと最低。あの男のおかげでこんな村に閉じ込められたのに、あの男のおかげで人が喰われるところを見てしまったんだから。おまけに彼女を犠牲にして、自分だけ逃げるなんて。信じられないわ」
正也も言った。
「ほんとだ。たとえ生きてこの村を出られたとしても、あいつとの付き合いは、完全に終わりだな。顔も見たくない。人が喰われるところを見ただけで、最高に気分が悪いのに。自分の彼女を犠牲にするなんて、それ以上に気分が悪い」
「とにかく一旦帰りましょうか。これ以上捜索する気にもなれないわ」
はるみがそう言った。
異論はない。
そのまま歩き、洞窟に着く。
そこで女子二人は、しばらく陽介の悪口で盛り上がっていた。
正也もまったくもって同感だったが、女子二人が元気に話をしているので、あえて口を挟まなかった。
そして随分と長い間、二人は話をしていた。
陽介の悪口に始まって「そういえばこんな最低な奴もいたわ」「私もこんなひどい奴に会ったことがあるわ」と話が続き、話が尽きることがない。
全て誰かの悪口なのだが、勢いがつくともう止まらない。
考えてみればこの村に来てから、一度も世間話などで話が盛り上がることはなかったのだから。
そのうっぷんがかなりたまっていたのだろう。
そう正也は思った。
それを女子二人は、今発散させているのだ。
みまはそんなに人の悪口を言うような女ではない。
はるみもおそらくそうだろうと思うが、今は平常心とはとても言えない状態なので、こうなるのも仕方がないのだろう。
むしろこれで少しでもストレスの解消になってくれれば、それでいいと正也は思った。
随分と長い間、女子二人の悪口大会は続いた。
そいて次第に会話が途切れるようになり、やがて静かになった。
ネタが尽きたのか、さすがん疲れてきたのか、それとも人の悪口ばかり言っているところを正也にずっと聞かれていたので、それで恥ずかしくなってきたのか。
全部がその理由のような気もするが、とにかくようやく洞窟内に静寂が訪れた。
正也は気付いた。
自分もそうなのだが、さやかの死を悲しんでいる人は一人もいない。
陽介の身を難じている人も、誰もいない。
これも日ごろの行いと言うものか。
今まで陽介と友達付き合いはしてきたのだが、考えてみれば、陽介に好感を持ったことなど一度もなかったのだ。
よく今まで友達付き合いができたものだと、正也はあらためて、不思議に思った。
むこうが積極的に誘ってきたとはいえ。ほぼ誘いを断ることがなかったのだ。
正也は無言で考え続け、女子二人も口を開かなかった。
そのまま三人で座っていると、外が暗くなってきた。
陽介は帰ってこない。
いや帰れないのだろう。
賢い男とは言えないが、それでも自分が彼女を化け物に向かって突き飛ばして逃げたことを、他の三人に見られたことはわかっているはずだ。
そんな中、どんな顔をして戻ってくればいいと言うのだ。
正也は陽介は自分の前には二度と現れることはないだろうと思った。
それがお互いのためなのだろう。
女子二人もそう考えているのではと正也は思った。
二人とも陽介の心配は一切していないし。
あの状況、行動で、心配されるわけがないのだが。
「もう暗くなってきたわね。寝る時間だわ」
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