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正也はやはりすぐには眠れなかった。
今日人が喰われるところを目の前で見たのだから。
すぐに眠れる方がおかしい。
しかし、明日決まった時間に起きなければならないわけではない。
無理に寝ようとしなくても、そのうち寝るだろうと思っていると、いつの間にか眠りについていた。
日が昇り朝になる。目が覚めて起きる。
普段の日常なら、顔を洗ったり、歯磨きをしたり、ご飯を食べたり。
テレビを見たり、ユーチューブを見たり、大学に行き講義を受けたり、昼ご飯を食べたり。
買い物に行ったり、デートをしたり、映画を見たり、音楽を聴いたり、マンガを読んだり。
晩御飯を食べたり、お風呂にはいったり、その他もろもろ。
一日のうちのやることは、数え上がればきりがないほどあるのだが、ここではその全てができない、またはやる必要がないのだ。
時間はある。
いや、いつあの化け物に喰われるかわからないので、それほどないのかもしれないが。
ただ明確にやることがない。
この村を出る方法を探らなければならないのだが、なにをどうすればいいのか、皆目見当がつかない。
落ち着かないと同時に、虚脱感がある。
不安や恐怖は十分あるはずなのに、なんだかぼんやりもしているのだ。
この言いようのない感覚。
いったい何を考えればいいのか。
果たして今日はなにをすればいいのか。
正也がそんなことを考えていると、はるみが言った。
「とりあえずなんだけど、今日はお寺に行ってみない」
正也は刹那、なんで、と思ったが、特にこれと言ってやることがないのは事実だ。五人のうち一人が化け物に喰われてしまったことを報告するだけになるような気もするが、同時にそれが全くの無駄と言うわけでもないような気もする。おそらく住職もそれは知りたいだろうと思った。そうなると、お寺に行かなければならないような気もしてきた。
「そうですね、行きますか」
「そうしましょうか」
そういうふうになった。
それ以外で、今するべきことが思いつかない。
お寺に着いた。声をかけるとしばらくして住職が出てきた。
「おや、今日は三人なのですか?」
「実は……」
はるみが昨日あったことを住職に告げる。
すると彼は目に涙を浮かべながら言った。
「そうですか。私が知っているだけでも七人目の犠牲者と言うことですね。それなのに今回も何もすることができなかった。本当に申し訳ないことです」
はるみが言う。
「いえいえ、あなたのせいではありません。あなたはなにも悪くないです。そんなにご自分を責めないでください」
住職は、手で涙をぬぐうと言った。
「いえ、そんなことはありません。この村の現状を把握していて、おまけに仏門に身を置く立場にもかかわらず、迷い込んできた罪なき人を助けることが、一度もできていないのです。本当に自分が情けない」
「ですからあなたはなにも悪くないですから。そんなにご自分を責めないでください。あなたも死んだ村人にとらわれてしまった、犠牲者の一人なのですから」
「そう言ってもらえると、ありがたいことです。せめて……そう、亡くなった人、お仲間の名前は何と言いますか」
「さやかさんです」
「さやかさんですか。それではその名を刻んだ墓標をたてましょう」
「墓標……ですか?」
「墓標です。この寺の裏にあります」
住職が歩きだした。
三人がついて行く。
そこには人の頭ほどの石が並んでいた。
そのうちの四つに、名前が刻まれている。
「六人のうち二人は名前がわかりませんでしたので、名を刻むことができませんでしたが。ではここにさやかさんの墓標をたてたいと思います」
みまが言った。
「そうですか。ありがとうございます。これでさやかも、少しはうかばれるかもしれません」
「いえいえ、本当ならあなたたちを助けることができたら、いいのですが」
はるみが言う。
「いえ、あなたはとてもいい人です。それだけども私たちには救いになってます」
「そんな。なにもすることができないのに。もったいないことです」
住職は頭を下げた。
はるみが言った。
「それでは、しばらくしたらさやかさんの墓標を見に来ますからね」
「はい、いつでもおこしください」
お互いにあいさつをかわして、別れた。
今日人が喰われるところを目の前で見たのだから。
すぐに眠れる方がおかしい。
しかし、明日決まった時間に起きなければならないわけではない。
無理に寝ようとしなくても、そのうち寝るだろうと思っていると、いつの間にか眠りについていた。
日が昇り朝になる。目が覚めて起きる。
普段の日常なら、顔を洗ったり、歯磨きをしたり、ご飯を食べたり。
テレビを見たり、ユーチューブを見たり、大学に行き講義を受けたり、昼ご飯を食べたり。
買い物に行ったり、デートをしたり、映画を見たり、音楽を聴いたり、マンガを読んだり。
晩御飯を食べたり、お風呂にはいったり、その他もろもろ。
一日のうちのやることは、数え上がればきりがないほどあるのだが、ここではその全てができない、またはやる必要がないのだ。
時間はある。
いや、いつあの化け物に喰われるかわからないので、それほどないのかもしれないが。
ただ明確にやることがない。
この村を出る方法を探らなければならないのだが、なにをどうすればいいのか、皆目見当がつかない。
落ち着かないと同時に、虚脱感がある。
不安や恐怖は十分あるはずなのに、なんだかぼんやりもしているのだ。
この言いようのない感覚。
いったい何を考えればいいのか。
果たして今日はなにをすればいいのか。
正也がそんなことを考えていると、はるみが言った。
「とりあえずなんだけど、今日はお寺に行ってみない」
正也は刹那、なんで、と思ったが、特にこれと言ってやることがないのは事実だ。五人のうち一人が化け物に喰われてしまったことを報告するだけになるような気もするが、同時にそれが全くの無駄と言うわけでもないような気もする。おそらく住職もそれは知りたいだろうと思った。そうなると、お寺に行かなければならないような気もしてきた。
「そうですね、行きますか」
「そうしましょうか」
そういうふうになった。
それ以外で、今するべきことが思いつかない。
お寺に着いた。声をかけるとしばらくして住職が出てきた。
「おや、今日は三人なのですか?」
「実は……」
はるみが昨日あったことを住職に告げる。
すると彼は目に涙を浮かべながら言った。
「そうですか。私が知っているだけでも七人目の犠牲者と言うことですね。それなのに今回も何もすることができなかった。本当に申し訳ないことです」
はるみが言う。
「いえいえ、あなたのせいではありません。あなたはなにも悪くないです。そんなにご自分を責めないでください」
住職は、手で涙をぬぐうと言った。
「いえ、そんなことはありません。この村の現状を把握していて、おまけに仏門に身を置く立場にもかかわらず、迷い込んできた罪なき人を助けることが、一度もできていないのです。本当に自分が情けない」
「ですからあなたはなにも悪くないですから。そんなにご自分を責めないでください。あなたも死んだ村人にとらわれてしまった、犠牲者の一人なのですから」
「そう言ってもらえると、ありがたいことです。せめて……そう、亡くなった人、お仲間の名前は何と言いますか」
「さやかさんです」
「さやかさんですか。それではその名を刻んだ墓標をたてましょう」
「墓標……ですか?」
「墓標です。この寺の裏にあります」
住職が歩きだした。
三人がついて行く。
そこには人の頭ほどの石が並んでいた。
そのうちの四つに、名前が刻まれている。
「六人のうち二人は名前がわかりませんでしたので、名を刻むことができませんでしたが。ではここにさやかさんの墓標をたてたいと思います」
みまが言った。
「そうですか。ありがとうございます。これでさやかも、少しはうかばれるかもしれません」
「いえいえ、本当ならあなたたちを助けることができたら、いいのですが」
はるみが言う。
「いえ、あなたはとてもいい人です。それだけども私たちには救いになってます」
「そんな。なにもすることができないのに。もったいないことです」
住職は頭を下げた。
はるみが言った。
「それでは、しばらくしたらさやかさんの墓標を見に来ますからね」
「はい、いつでもおこしください」
お互いにあいさつをかわして、別れた。
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