深き水の底に沈む

ツヨシ

文字の大きさ
23 / 37

23

しおりを挟む
道すがらはるみが言った。
「さやかさんの墓標をたててもらえるだけでも、来たかいがあったと言うものだわ」
「そうね」
みまがいま一つ感情のこもっていない声で言った。
はるみの言う通り、さやかの墓標を造ってもらえることは無駄ではないと思ってはいるのだろうが、みまとさやかはそんなに親しくはなかった。
と言うよりも、みまはさやかのことが好きではなかった。
どちらかと言えば、嫌いだったのだ。
そんな人間に対して、なんの思い入れもない。
そしてみまの性格上、寺に行くことによって、なんだかの進展があることをわずかながらでも期待していたのだろうと、正也は思った。
前向きで、少し楽天的なところのあるみまならば。
しかしその期待は全くかなわなかったのだ。
張りのある声など、出せるわけがない。
そのまま誰も口を開かないまま、洞窟へと帰った。
洞窟についても誰もなにも言わず、なにもないまま時間だけが過ぎてゆく。
いつものように。
そして随分と時間が経ったと思われる頃、みまが言った。
「とりあえず、むこう山道歩いてみる」
むこう山道とは、入ってきたのと反対側の山道だ。
おまけに昨日さやかが喰われた山道でもある。
そんなところを昨日の今日で行ってみようと言うみまの提案には正直驚いたが。
みまは、ある意味精神的に追い込まれたようになっているのかもしれない。
やけくそというかなんというか。
しかし正也は考えた。
化け物の出てくる確率は、どこも同じだ。
むしろ昨日化け物が出てきたばかりのところは、他の場所よりも化け物が出てくる確率が、ひょっとしたら低いかもしれない。
確証はまるでないのだが。
正也はみまに同意した。
ついで少し遅れてはるみも。
正也もはるみも積極的に同意したとは言えないが、反対はしなかった。
このままなんにもしないよりかはましだ。
化け物が出てくる危険が、あるといえばあるが。
それはこの洞窟が絶対に安全と言えない限り、どこにいても同じなのだから。
三人で洞窟を出て歩き出す。
先頭ははるみ。
つづいてみま。
正也が最後だった。
洞窟を出てしばらく歩くと、村に入った。
典型的な山間の村。
そのあまりにものどかな風景に、これが死んだ村人たちの怨念が造り上げたものだと言うことを、一瞬忘れてしまいそうだ。
心地よい日差し。さわやかな風においしい空気。鳥の声、川のせせらぎ。
どれ一つとっても、癒しの要素しかない。
見れば先頭のはるみは、真剣なまなざしであたりをくまなく見わたしている。
むこうの山道に着くまでの間も、なにかないかと力強く探しているのだ。
それにつられてみまも同じようにし始めた。
もちろん正也もそうした。
かなり懸命に探したつもりなのだが、これと言ったものは見つからないまま、山道に着いた。
「ここからが本番ね」
はるみが言う。
それは自らを無理にでも奮い立たせようとしているように、正也には聞こえた。
聞こえたが、もちろんそれを否定はしない。
とにかくなんでもいいから、なにかを見つけなければならないのだ。
そうしないとこの村からは出られない。
そうするといつかはあの化け物に喰われることになるのだ。
三人で歩く。
それぞれが右を見たり左を見たり、時には上を見たり下を見たりしながら。
ここから村に戻される地点までは、けっこうな距離がある。
なにかみつかるかどうなのかはわからないが、時間だけは確実につぶせそうだ。
そう考えた自分に、正也は驚いた。
これは決して暇つぶしにやっているのではない。
一言で言えば命がけなのだ。
それなのにそんなことを思いつくなんて。
確かになにかを見つける可能性は、低いと言えば低いのだが。
でもそういう問題ではないのだ。
――いかん、いかん。
正也は首を大きく振った。
前の二人は当然見ていない。
――命がかかっているんだから、それこそ死ぬ気でやらないと。
正也は自分に気合を入れなおした。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

わたしの下着 母の私をBBA~と呼ぶことのある息子がまさか...

MisakiNonagase
青春
39才の母・真知子は息子が私の下着を持ち出していることに気づいた。 ネットで同様の事象がないか調べると、案外多いようだ。 さて、真知子は息子を問い詰める? それとも気づかないふりを続けてあげるか? そのほかに外伝も綴りました。

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

夫婦交換

山田森湖
恋愛
好奇心から始まった一週間の“夫婦交換”。そこで出会った新鮮なときめき

意味が分かると怖い話(解説付き)

彦彦炎
ホラー
一見普通のよくある話ですが、矛盾に気づけばゾッとするはずです 読みながら話に潜む違和感を探してみてください 最後に解説も載せていますので、是非読んでみてください 実話も混ざっております

怪蒐師

糸世朔
ホラー
第8回ホラー•ミステリー大賞で優秀賞を受賞しました。ありがとうございました! ●あらすじ 『階段をのぼるだけで一万円』 大学二年生の間宮は、同じ学部にも関わらず一度も話したことすらない三ツ橋に怪しげなアルバイトを紹介される。 三ツ橋に連れて行かれたテナントビルの事務所で出迎えたのは、イスルギと名乗る男だった。 男は言った。 ーー君の「階段をのぼるという体験」を買いたいんだ。 ーーもちろん、ただの階段じゃない。 イスルギは怪異の体験を売り買いする奇妙な男だった。 《目次》 第一話「十三階段」 第二話「忌み地」 第三話「凶宅」 第四話「呪詛箱」 第五話「肉人さん」 第六話「悪夢」 最終話「触穢」 ※他サイトでも公開しています。

父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

四季
恋愛
父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

邪神の祭壇へ無垢な筋肉を生贄として捧ぐ

BL
鍛えられた肉体、高潔な魂―― それは選ばれし“供物”の条件。 山奥の男子校「平坂学園」で、新任教師・高尾雄一は静かに歪み始める。 見えない視線、執着する生徒、触れられる肉体。 誇り高き男は、何に屈し、何に縋るのか。 心と肉体が削がれていく“儀式”が、いま始まる。

余白怪談

蒼琉璃
ホラー
これは私の体験談やヒトコワ、人から聞かせて頂いた体験談などを元に脚色した作品です。余白のある、なんとなく怖い話。 ※登場人物の名前は全て仮名です。 ※全十一話

処理中です...