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木梨は必死に聞き取ろうとしたが、声が小さいうえにこもっているので、全くわからなかった。
しかし今まで何回も出てきているが、話しかけるだけでそれ以外のことは何もしていない。
何かを伝えたいだけで、悪意はないのではないのか。
木梨は少しそう思った。
高校の時、木梨は彼女ができた。
見た目もスタイルも平均的だが、大人しくて優しい心の女の子だ。
付き合いは長くなり、高校生ながら木梨は彼女と結婚するかもと思い始めていた。
そんな中、彼女が家に遊びにいきたいと言い出した。
家には母親だけだ。
そもそも仕事で帰ってくるのは早くはない。
母が帰ってくるまで家にいてもらい、母に合わせるかどうかを木梨は考えたが、結局成り行きに任せることにした。
家で二人っきりで話し込む。
それは楽しい時間だった。
楽しい時間は過ぎるのが早い。
不意に玄関が開き、母が入ってきた。
「かあさん、これ僕の彼女」
「お邪魔してます」
母は彼女を驚きの表情で見ていたが、一瞬で木梨が驚くほどの怒りの色をあらわにした。
普段は優しい母のこんな顔を見るのは、息子の木梨でも初めてだった。
「出て行け!」
母はなんと彼女の髪をつかんで強く引きずり、玄関から外に放り出してしまった。
そして荒々しく戸を閉めた。
「母さん、何するんだ!」
木梨は慌てて外に出た。
すると彼女が玄関先でへたり込んでいた。
「大丈夫か」
木梨が優しくそう声をかけると、彼女は悲鳴を上げて全速力で走り去ってしまった。
木梨はしばし呆然としていたが、不意に怒りがわいてきて、家に戻った。
「母さん、なんてことをするんだ。ひどいじゃないか」
母は木梨の顔をしばらく見てから言った。
「誠一のお父さんは二十二歳で死んだ」
「えっ?」
「誠一が生まれてから半月後に」
「それは知っている。それがどうかしたの?」
「誠一のお爺さんも二十二歳で死んだ。誠一のお父さんが生まれてから半月後に」
木梨は知らなかった。
ただ事故で死んだということだけ知っていた。
母が続けた。
「誠一のひい爺さんは六十を超えて死んだが、それは初めての子供、つまり誠一のおじいさんが生まれてから半月経ったときのことだった」
「えっ?」
「誠一のお父さん、お爺さん、ひい爺さん、三人とも初めての子供、それも男の子が生まれてから半月後に、苦しみながらひどい死に方をしているのよ」
「……」
「母さんも彼女を見た時に、興奮しすぎたわ。いつかはこんな時が来るんじゃないかと、ずっと悩んでいたから」
「……」
母は木梨の前まで来て言った。
「悪かったわ。あそこまでする必要はなかったのかもしれない。でも一つ言っておくわ。誠一が結婚して子供が生まれたら、誠一は半月後に苦しみぬいて死ぬのよ」
「それは」
「偶然じゃないわ。もう三代も続いているの。判で押したように同じことが。たまたまなんかじゃないわ。うちの家計はなにかに呪われているのよ」
「なにかって?」
「それは母さんにもわからないけど。誠一が彼女を作るのも結婚するのもいいけど、子供は作っちゃだめよ。木梨家は誠一で途絶えるけど、それでも誠一に長く生きてほしいの」
「……」
母はそう言うと座り込み、涙を流し始めた。
しかし今まで何回も出てきているが、話しかけるだけでそれ以外のことは何もしていない。
何かを伝えたいだけで、悪意はないのではないのか。
木梨は少しそう思った。
高校の時、木梨は彼女ができた。
見た目もスタイルも平均的だが、大人しくて優しい心の女の子だ。
付き合いは長くなり、高校生ながら木梨は彼女と結婚するかもと思い始めていた。
そんな中、彼女が家に遊びにいきたいと言い出した。
家には母親だけだ。
そもそも仕事で帰ってくるのは早くはない。
母が帰ってくるまで家にいてもらい、母に合わせるかどうかを木梨は考えたが、結局成り行きに任せることにした。
家で二人っきりで話し込む。
それは楽しい時間だった。
楽しい時間は過ぎるのが早い。
不意に玄関が開き、母が入ってきた。
「かあさん、これ僕の彼女」
「お邪魔してます」
母は彼女を驚きの表情で見ていたが、一瞬で木梨が驚くほどの怒りの色をあらわにした。
普段は優しい母のこんな顔を見るのは、息子の木梨でも初めてだった。
「出て行け!」
母はなんと彼女の髪をつかんで強く引きずり、玄関から外に放り出してしまった。
そして荒々しく戸を閉めた。
「母さん、何するんだ!」
木梨は慌てて外に出た。
すると彼女が玄関先でへたり込んでいた。
「大丈夫か」
木梨が優しくそう声をかけると、彼女は悲鳴を上げて全速力で走り去ってしまった。
木梨はしばし呆然としていたが、不意に怒りがわいてきて、家に戻った。
「母さん、なんてことをするんだ。ひどいじゃないか」
母は木梨の顔をしばらく見てから言った。
「誠一のお父さんは二十二歳で死んだ」
「えっ?」
「誠一が生まれてから半月後に」
「それは知っている。それがどうかしたの?」
「誠一のお爺さんも二十二歳で死んだ。誠一のお父さんが生まれてから半月後に」
木梨は知らなかった。
ただ事故で死んだということだけ知っていた。
母が続けた。
「誠一のひい爺さんは六十を超えて死んだが、それは初めての子供、つまり誠一のおじいさんが生まれてから半月経ったときのことだった」
「えっ?」
「誠一のお父さん、お爺さん、ひい爺さん、三人とも初めての子供、それも男の子が生まれてから半月後に、苦しみながらひどい死に方をしているのよ」
「……」
「母さんも彼女を見た時に、興奮しすぎたわ。いつかはこんな時が来るんじゃないかと、ずっと悩んでいたから」
「……」
母は木梨の前まで来て言った。
「悪かったわ。あそこまでする必要はなかったのかもしれない。でも一つ言っておくわ。誠一が結婚して子供が生まれたら、誠一は半月後に苦しみぬいて死ぬのよ」
「それは」
「偶然じゃないわ。もう三代も続いているの。判で押したように同じことが。たまたまなんかじゃないわ。うちの家計はなにかに呪われているのよ」
「なにかって?」
「それは母さんにもわからないけど。誠一が彼女を作るのも結婚するのもいいけど、子供は作っちゃだめよ。木梨家は誠一で途絶えるけど、それでも誠一に長く生きてほしいの」
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