丑の刻参り

ツヨシ

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休み前になると、時折神社に出かけることがあった。
それも午前二時とかそんな時間にだ。
理由は自分でもよくわからない。
ただ行きたくなるのだ。
長く行かないでいると、何日も落ち着かない日々を過ごすことになる。
もう辞められない習慣と言っていい。
それとも一種の依存症か。
午前二時の神社には、当然ながら誰もいない。
そこでしばらく過ごす。
とにかく落ち着く。
しかしただ一度だけ人がいたことがあった。
神社に入ると、本堂の裏辺りから何か音がする。
カンカンカンカン。
――誰かいるのか?
気配を消して近づくと、白い死に装束を来た長い黒髪の女が、木に何かを一心不乱に打ち付けているのだ。
よく見るとそれはわら人形だった。
――うわあ。
すると女が振り返った。
とっさに木の陰に隠れた。
――気づかれたか?
息を殺していると、しばらくしてまたわら人形を打ち付け始めた。
――よかった。気づかれてない。
俺はそそくさとその場を後にした。
そんなことが一度だけあった。
もう二度とあんな場面には出くわしたくはないものだ。

ところがそれからしばらく時が過ぎた頃、いつものように夜中に神社に行くと、聞こえてきたのだ。
カンカンカン。
恐怖心はあった。
しかし無視して帰ろうと思っていたのに、俺はその音に引き付けられてしまった。
好奇心の方が勝ったのだ。
静かに音に近づく。
すると、いた。
いや、いたというのは正確ではない。
いなかったと言えばいいのかどうか。
なんとそこには、五寸釘で打ち付けられているわら人形と、打ち付けている木づちは見えるのだが、誰の姿もなかったのである。
ただ木づちだけが、宙を激しく動いていた。
――ひえっ!
すると木づちの動きが止まった。
俺は前回と同じくとっさに木の陰に隠れた。
しばらくすると、またカンカンカンという音が聞こえてきた。
――気づかれずにすんだかな。
俺は逃げるようにその場を後にした。
――それにしても……。
死んでからも丑の刻参りをするなんて。
なんて業が深いのだろう。
俺はそう思った。

       終
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