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その後、何軒か訪ねてみたが、女の話を裏付けるだけの結果となった。
生田は嫌われていた。
生田をよく思っていない人の数は、並木を大きく上回ることだろう。
女の言うとおり殺されるほどのことはしてはいないが、これまた女の言うとおり、人のとらえ方や恨みの大きさには個人差がある。
どこで誰にどれだけ憎まれているかなんて、わからないものなのだ。
このとき大道は気づいた。
完全に明確になったわけではないが、並木と生田の二人を同時に心苦よく思っていない人間は、大道の知る限りのおいて正木親子だけである、ということに。
山上で空振りをしてしまったが、新たなターゲットが現れたのだ。
大道は正木親子の前にもう一度生田を詳しく調べてみることにした。
被害者のことを詳しく調査してから周りを調べるほうが、時間はかかるがより真実に近づく可能性が大きいからだ。
生田のことを一番よく知っているのは近所の住人ではない。
それは親族だ。それも生田と接した時間が長ければながいほどいい。
生田は去年両親を相次いで亡くしているが、弟がいた。
弟は隣町に住んでいる。
「はい」
訪ねるといかにも穏やかそうな男が出てきた。
とても近所で有名なクレーマーの弟とは思えなかった。
大道が来た理由を言うと、弟が言った。
「記者の方ですか。兄さんが殺された当初は何人もやって来ましたが、それ以来ですね」
おそらくそれは新聞記者のことを言っているのだろう。
あるいはテレビか。
大道はそのどちらでもない。
「兄さんのことをできるだけ詳しくですか。警察の人にも言われましたが、情報は多ければ多いほど犯人逮捕につながるとか。そうでしょうね、実際。わかりました。記者さんにもできるだけお話しますね」
助かった。大道は思った。
遺族の中には取材して話をしたがらない人も珍しくない。
当然といえば当然なのだが。
「お兄さんはどういった人物だったのでしょうね」
「そうですね。まず短気ですな。すぐに怒るんですよ。それもくだらない理由で。それで父も母も私も、何度となくもめたことがあります。両親がなくなった後、最後の歯止めがはずれたのか突然「おまえの顔はもう見たくない」と言って、隣町に引っ越してしまいました。勤めている会社がこの町にあるのに。でもあの性格だから、ご近所の人とまたもめているんじゃないですかね」
やはり弟だ。
兄のことはよくわかっている。
そのとおりだ。
「まあ死んだ人間のことを悪く言うのはほめられたことではありませんが、この際ですから話しておきましょう。兄は基本的にはだらしがなくていい加減なんですよ。でも細かいことにこだわることがあって、それが気になったら相手が訂正するまで文句を言い続けますね。自分は気分家で適当なのに。一言で言うと、自分に甘く他人に厳しい、ってやつですかね。それで子供のころから周りの人間と衝突を起こすばかりです。うちの親が、何度頭を下げに行ったことか。それで両親が文句を言っても、「俺は間違ってない」と言い張るばかりで。就職してもその癖が直らなくて、最後に行っていた会社が五社目でしたね。長期の休職状態が何度もあったにもかかわらず。なにがあっても自分が悪いとは決して思わない。そんなことは考えたこともない。そんな感じですかね。年を重ねれば少しは落ち着くかとも思っていましたが、逆にひどくなっていたような気がしますね」
「それでお兄さんを恨んでいる人に心当たりはありますか」
「少なくとも嫌っている人は、私が知っている限りでも百人はくだらないでしょう。子供の頃のもふくめればですが」
「そんな中に犯人がいる可能性は、弟さんとしてはあると思いますか」
生田は嫌われていた。
生田をよく思っていない人の数は、並木を大きく上回ることだろう。
女の言うとおり殺されるほどのことはしてはいないが、これまた女の言うとおり、人のとらえ方や恨みの大きさには個人差がある。
どこで誰にどれだけ憎まれているかなんて、わからないものなのだ。
このとき大道は気づいた。
完全に明確になったわけではないが、並木と生田の二人を同時に心苦よく思っていない人間は、大道の知る限りのおいて正木親子だけである、ということに。
山上で空振りをしてしまったが、新たなターゲットが現れたのだ。
大道は正木親子の前にもう一度生田を詳しく調べてみることにした。
被害者のことを詳しく調査してから周りを調べるほうが、時間はかかるがより真実に近づく可能性が大きいからだ。
生田のことを一番よく知っているのは近所の住人ではない。
それは親族だ。それも生田と接した時間が長ければながいほどいい。
生田は去年両親を相次いで亡くしているが、弟がいた。
弟は隣町に住んでいる。
「はい」
訪ねるといかにも穏やかそうな男が出てきた。
とても近所で有名なクレーマーの弟とは思えなかった。
大道が来た理由を言うと、弟が言った。
「記者の方ですか。兄さんが殺された当初は何人もやって来ましたが、それ以来ですね」
おそらくそれは新聞記者のことを言っているのだろう。
あるいはテレビか。
大道はそのどちらでもない。
「兄さんのことをできるだけ詳しくですか。警察の人にも言われましたが、情報は多ければ多いほど犯人逮捕につながるとか。そうでしょうね、実際。わかりました。記者さんにもできるだけお話しますね」
助かった。大道は思った。
遺族の中には取材して話をしたがらない人も珍しくない。
当然といえば当然なのだが。
「お兄さんはどういった人物だったのでしょうね」
「そうですね。まず短気ですな。すぐに怒るんですよ。それもくだらない理由で。それで父も母も私も、何度となくもめたことがあります。両親がなくなった後、最後の歯止めがはずれたのか突然「おまえの顔はもう見たくない」と言って、隣町に引っ越してしまいました。勤めている会社がこの町にあるのに。でもあの性格だから、ご近所の人とまたもめているんじゃないですかね」
やはり弟だ。
兄のことはよくわかっている。
そのとおりだ。
「まあ死んだ人間のことを悪く言うのはほめられたことではありませんが、この際ですから話しておきましょう。兄は基本的にはだらしがなくていい加減なんですよ。でも細かいことにこだわることがあって、それが気になったら相手が訂正するまで文句を言い続けますね。自分は気分家で適当なのに。一言で言うと、自分に甘く他人に厳しい、ってやつですかね。それで子供のころから周りの人間と衝突を起こすばかりです。うちの親が、何度頭を下げに行ったことか。それで両親が文句を言っても、「俺は間違ってない」と言い張るばかりで。就職してもその癖が直らなくて、最後に行っていた会社が五社目でしたね。長期の休職状態が何度もあったにもかかわらず。なにがあっても自分が悪いとは決して思わない。そんなことは考えたこともない。そんな感じですかね。年を重ねれば少しは落ち着くかとも思っていましたが、逆にひどくなっていたような気がしますね」
「それでお兄さんを恨んでいる人に心当たりはありますか」
「少なくとも嫌っている人は、私が知っている限りでも百人はくだらないでしょう。子供の頃のもふくめればですが」
「そんな中に犯人がいる可能性は、弟さんとしてはあると思いますか」
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