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「それは十分考えられますね。今誰か特定しろと言われても、難しいですが。兄はわりと公平に……公平にと言う言い方もおかしいですが、基本的には誰に対しても同じような対応をするというか、難癖をつけていますからね。あとは受け取る側の問題ですかね。そこまでいくと私も一人一人詳しく知っているわけではないですが」
「そうですか」
「怒りの大きさから言えば、私と両親が一番大きいでしょうね。なにせ誰よりも長い時間、そばにいたのですから。そう言う点から考えると、両親はもういませんので、私が一番の容疑者ということになりますかね」
そう言う弟は、兄を殺した人間にはとても見えなかった。
「あまりにもうるさいものですから、父と二人で兄を崖っぷちまで引っ張って行ったことが、何度もありましたね」
「崖っぷち、ですか?」
「ええ、ここから見えるでしょう。そこにある小さな山が。そこの坂道を登った先にあるんですよ。そこに兄を引っ張っていくんですね。かなり抵抗はしますが、こっちは二人なんでなんとか連れて行けるんですね」
「なんで崖っぷちに連れて行くんですか?」
「それは兄が高いところが大の苦手でしたから。子供の頃から。友達のアパートに二人で遊びに行ったことがあるんですが、そのアパートは二階に行くのに外階段しかなかったんですね。鉄製のたまに見かけるようなやつです。友達が二階に住んでいたのでそれを登ろうとしたわけなんですが。外階段といっても古いアパートにしてはしっかりとした階段で、壁と反対側にはちゃんと手すりもついていて、普通は怖がるような代物ではなかったのですが、それでも兄は怖がって、とうとうその階段を登ろうとはしませんでした。ですから私が階段を登って、友達を呼んで下り来てもらったことがありましたね。行った目的がその友達の家に面白いテレビゲームがあるからだったんですが、もちろんゲームはやらずじまいでしたね。私はとても楽しみにしていたんですが。兄は「あんな怖い階段を無理に登らせようとした」と言って、かなり怒っていましたね。友達には「おまえがあんなところに住んでいるからだ。どうしてくれるんだ」と文句を言っていました。困ったもんですよ、まったく」
「それほど高いところが苦手なんですね」
「ええ。どっかおかしいんじゃないかと思うくらいに。崖っぷちに連れて行ったときは、崖までまだ何メートルもあるのに「落ちる! 死ぬ! 死ぬ!」と泣き叫んでいましたから」
「落ちる、死ぬ……ですか」
「ええ。普段あまり笑わない父が大笑いするほど、滑稽でしたね。そうすると、さすがにしばらく大人しくなるんですよ。それでももって一ヶ月ほどでしたが。高いところに対する恐怖心はとても強かったようですが、持って生まれた言わないと気がすまないという性根までは、変えることができなかったですね。残念なことですが」
「そうでしたか」
大道が黙っていると、弟が言った。
「他に何かありますか。なんでも聞いてください」
「いえ、今日のところはこの辺でけっこうです。又なにかありましたら、そのときはお願いします」
「こちらこそ。あんな兄でも実の兄ですから、はやく犯人が捕まって欲しいと思っていますよ」
「わかりました。どうもありがとうございました」
「いえいえ、こちらこそ」
その場を去る大道を、弟は笑顔で見送った。
大道は事務所に戻り、考えた。
並木はサメを怖がっていた。
そして大型のサメの歯のようなもので身体を切断されて殺された。
生田は高いところを、そしてその高いところから落ちて死ぬことに恐怖を抱いていた。
そして数百メートル落下して地面に激突したかのような状態で見つかった。
――つまり……
犯人はわざわざ手間隙かけて、相手が恐怖心を持つ方法で殺したということなのか。
そこまで考えたところで、大道の思考は停止した。
なにも思い浮かばなかったのだ。
近田が正木の部屋を訪ねると、小峠が後輩の本間を連れて先に来ていた。
二人はちょうど帰るところだった。
こちらに向かって歩いて来る小峠に、近田が声をかけた。
「そうですか」
「怒りの大きさから言えば、私と両親が一番大きいでしょうね。なにせ誰よりも長い時間、そばにいたのですから。そう言う点から考えると、両親はもういませんので、私が一番の容疑者ということになりますかね」
そう言う弟は、兄を殺した人間にはとても見えなかった。
「あまりにもうるさいものですから、父と二人で兄を崖っぷちまで引っ張って行ったことが、何度もありましたね」
「崖っぷち、ですか?」
「ええ、ここから見えるでしょう。そこにある小さな山が。そこの坂道を登った先にあるんですよ。そこに兄を引っ張っていくんですね。かなり抵抗はしますが、こっちは二人なんでなんとか連れて行けるんですね」
「なんで崖っぷちに連れて行くんですか?」
「それは兄が高いところが大の苦手でしたから。子供の頃から。友達のアパートに二人で遊びに行ったことがあるんですが、そのアパートは二階に行くのに外階段しかなかったんですね。鉄製のたまに見かけるようなやつです。友達が二階に住んでいたのでそれを登ろうとしたわけなんですが。外階段といっても古いアパートにしてはしっかりとした階段で、壁と反対側にはちゃんと手すりもついていて、普通は怖がるような代物ではなかったのですが、それでも兄は怖がって、とうとうその階段を登ろうとはしませんでした。ですから私が階段を登って、友達を呼んで下り来てもらったことがありましたね。行った目的がその友達の家に面白いテレビゲームがあるからだったんですが、もちろんゲームはやらずじまいでしたね。私はとても楽しみにしていたんですが。兄は「あんな怖い階段を無理に登らせようとした」と言って、かなり怒っていましたね。友達には「おまえがあんなところに住んでいるからだ。どうしてくれるんだ」と文句を言っていました。困ったもんですよ、まったく」
「それほど高いところが苦手なんですね」
「ええ。どっかおかしいんじゃないかと思うくらいに。崖っぷちに連れて行ったときは、崖までまだ何メートルもあるのに「落ちる! 死ぬ! 死ぬ!」と泣き叫んでいましたから」
「落ちる、死ぬ……ですか」
「ええ。普段あまり笑わない父が大笑いするほど、滑稽でしたね。そうすると、さすがにしばらく大人しくなるんですよ。それでももって一ヶ月ほどでしたが。高いところに対する恐怖心はとても強かったようですが、持って生まれた言わないと気がすまないという性根までは、変えることができなかったですね。残念なことですが」
「そうでしたか」
大道が黙っていると、弟が言った。
「他に何かありますか。なんでも聞いてください」
「いえ、今日のところはこの辺でけっこうです。又なにかありましたら、そのときはお願いします」
「こちらこそ。あんな兄でも実の兄ですから、はやく犯人が捕まって欲しいと思っていますよ」
「わかりました。どうもありがとうございました」
「いえいえ、こちらこそ」
その場を去る大道を、弟は笑顔で見送った。
大道は事務所に戻り、考えた。
並木はサメを怖がっていた。
そして大型のサメの歯のようなもので身体を切断されて殺された。
生田は高いところを、そしてその高いところから落ちて死ぬことに恐怖を抱いていた。
そして数百メートル落下して地面に激突したかのような状態で見つかった。
――つまり……
犯人はわざわざ手間隙かけて、相手が恐怖心を持つ方法で殺したということなのか。
そこまで考えたところで、大道の思考は停止した。
なにも思い浮かばなかったのだ。
近田が正木の部屋を訪ねると、小峠が後輩の本間を連れて先に来ていた。
二人はちょうど帰るところだった。
こちらに向かって歩いて来る小峠に、近田が声をかけた。
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