闇の中の黒い闇

ツヨシ

文字の大きさ
37 / 47

37

しおりを挟む
大道が聞いた。

「あの少女は調べないんですか」

近田がにたりと笑った。

ちょっと怖かった。

「俺、おまえさん、小峠、本間。この四人以外であの少女が犯人だと思っている奴はいない。いたとしても、あとはゲンさんくらいのものか。署長だって知らない。おまえさんはどうか知らんが、あとの四人は決して少女が犯人だなんて、言わないだろう。なぜなら、はなから無理だとわかっているからさ。大の大人があれこれやって殺したとしても、あんな殺し方はかなり難しい。なかでも生田と和子は、人間には不可能だと断言できる。それを一人の少女がやったなんてことを裁判で証明するなんて、絶対に無理だろうな。このヤマは、黙っておとなしく見守るしかないんだよ」

「そうですか」

「それに虐待がなくなったんだから、非常識連続殺人事件も、もうおさまるだろうし。そのうち全てのヤマが迷宮入りになって、それで全部終りさ」

「そうですね」

近田は嬉しそうだった。

やはり少女に同情的なのだろう。

大道にはそう見えた。

その理由まではわからないが。

同情すべき点があるとは言え、あの子は何人もの人間を殺しているのだから。


予想していたこととは言え、大道は一応調べてみた。

和子をよく知る人物から、同様の証言を取ることが出来た。

和子は水を極端に嫌っていたということを。

幼い頃は、風呂に入るのも嫌がっていたそうだ。

徹底的に水を避けていたので、逆に溺れたという経験はなかったようだ。

おそらく生まれもってのものなのだろう。

学校の水泳の授業でさえ、なにかしらの理由をつけて、一度も参加しなかったと言う。

――自分の最も嫌いなものに殺される……か。

殺すという行為の中に、最上級の嫌がらせが加わっている。

はたしてどれだけ憎めば、そんなことが出来るのだろうか。

大道は幼い少女の心の闇を考えずにはいられなかった。

父親と母親の両方から理不尽な仕打ちを受けていた、少女の闇の中を。


しばらくして近田から連絡があった。

好子の様子を見に行かないかと言うのだ。

大道は正直「なにをいまさら」と思ったが、近田との今後の関係を考慮して、表面上は快く承諾した。


児童保護施設は、外から見ると総合病院のように見えた。

中に入ると近田が入口付近で待っていた。

「よお」

受付をすまし、そのあたりを歩く。

外から見ると病院のようだったが、中に入ると病院そのものだった。

「ここが好子の部屋だ」

近田に続き、大道も中を覗いた。

四畳ほどの広さだろうか。

廊下が無駄に広い分だけ、部屋はよけいに小さく見えた。

テーブルとベッドと椅子。

小さな洋服ダンスにこれまた小さな収納。

それがこの部屋の全てだった。

好子はいなかった。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

お飾りの妻として嫁いだけど、不要な妻は出ていきます

菻莅❝りんり❞
ファンタジー
貴族らしい貴族の両親に、売られるように愛人を本邸に住まわせている其なりの爵位のある貴族に嫁いだ。 嫁ぎ先で私は、お飾りの妻として別棟に押し込まれ、使用人も付けてもらえず、初夜もなし。 「居なくていいなら、出ていこう」 この先結婚はできなくなるけど、このまま一生涯過ごすよりまし

三十年後に届いた白い手紙

RyuChoukan
ファンタジー
三十年前、帝国は一人の少年を裏切り者として処刑した。 彼は最後まで、何も語らなかった。 その罪の真相を知る者は、ただ一人の女性だけだった。 戴冠舞踏会の夜。 公爵令嬢は、一通の白い手紙を手に、皇帝の前に立つ。 それは復讐でも、告発でもない。 三十年間、辺境の郵便局で待ち続けられていた、 「渡されなかった約束」のための手紙だった。 沈黙のまま命を捨てた男と、 三十年、ただ待ち続けた女。 そして、すべてを知った上で扉を開く、次の世代。 これは、 遅れて届いた手紙が、 人生と運命を静かに書き換えていく物語。

わたしの下着 母の私をBBA~と呼ぶことのある息子がまさか...

MisakiNonagase
青春
39才の母・真知子は息子が私の下着を持ち出していることに気づいた。 ネットで同様の事象がないか調べると、案外多いようだ。 さて、真知子は息子を問い詰める? それとも気づかないふりを続けてあげるか? そのほかに外伝も綴りました。

さようなら婚約者

あんど もあ
ファンタジー
アンジュは、五年間虐げられた婚約者から婚約破棄を告げられる。翌日、カバン一つを持って五年住んだ婚約者の家を去るアンジュ。一方、婚約者は…。

サレ妻の娘なので、母の敵にざまぁします

二階堂まりい
大衆娯楽
大衆娯楽部門最高記録1位! ※この物語はフィクションです 流行のサレ妻ものを眺めていて、私ならどうする? と思ったので、短編でしたためてみました。 当方未婚なので、妻目線ではなく娘目線で失礼します。

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

四季
恋愛
父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

つまらない妃と呼ばれた日

柴田はつみ
恋愛
公爵令嬢リーシャは政略結婚で王妃に迎えられる。だが国王レオニスの隣には、幼馴染のセレスが“当然”のように立っていた。祝宴の夜、リーシャは国王が「つまらない妃だ」と語る声を聞いてしまい、心を閉ざす。 舞踏会で差し出された手を取らず、王弟アドリアンの助けで踊ったことで、噂は一気に燃え上がる――「王妃は王弟と」「国王の本命は幼馴染」と。 さらに宰相は儀礼と世論を操り、王妃を孤立させる策略を進める。監視の影、届かない贈り物、すり替えられた言葉、そして“白薔薇の香”が事件現場に残る冤罪の罠。 リーシャは微笑を鎧に「今日から、王の隣に立たない」と決めるが、距離を取るほど誤解は確定し、王宮は二人を引き裂いていく。 ――つまらない妃とは、いったい誰が作ったのか。真実が露わになった時、失われた“隣”は戻るのか。

処理中です...