闇の中の黒い闇

ツヨシ

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近田の母親だった。

ただその母親は、近田の知る母親よりも数段大きかった。

不自然なほど背を丸めているのに、その丸めた背中が天井まで達していた。

その大きな身体には、更に大きな顔がついていた。

顔だけでその大きさは、1メートル以上はゆうにあるだろう。

そして人間ではありえないほどの大きな目で、近田を射抜いていた。

左右の握られた二つの拳も、アンバランスなほどに大きい。

それは近田の頭よりも大きかった。

近田に過去の恐怖がよみがえっていた。

近田は幼い頃から母親にひどい虐待を受けていた。

親が子供を殴るのは当たり前だった時代。

家庭内暴力だの児童虐待など、言葉すらなかった時代だったが、それでも近所や学校で話題になるほど、母親の虐待は際立っていた。

父親は妻の子供に対する暴力に関して、徹底的に無関心を貫いていた。

虐待は近田が十歳になるまで続いた。

十歳のときに母が死に、それがようやく止まった。

原因は階段からの転落死。

と、警察を含めて世間ではそう思われていた。

しかし実際はそうではないことを近田は知っていた。

その日、近田を何度も蹴り倒し、満足して階段を下りようとした母親を、近田が後ろから突き飛ばしたのだ。

とっさにとった行動だった。

殺すつもりなど全くなかった。

しかし母親は階段を物凄い勢いで落ち、そのまま死んでしまった。

虐待から開放された喜び。虐待し続けた母親にたいする憎悪。

それとともに母親を殺してしまった恐怖と罪悪感が入り混じり、近田の人格を形成した。

いつの間にか警察官になり、気がつけばたたき上げの刑事となっていた。

悪い奴には容赦はなかった。

徹底的にしめあげた。

そこには憎悪しかなかったのだ。
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